表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/324

第123章 断ち切られた鎖

村の広場は静けさを取り戻していた。


焼きたてのパンと香辛料の香りが漂い、露店の賑わいが少しずつ戻ってきた。

村人たちは果物や布地、道具を売る日常へと戻っていったが、

リュウガ一行に向けられる視線は、今も敬意と好奇心が入り混じっていた。


二人の亜人の少女は、少し離れておずおずと歩いていた。

一人は栗色の髪に長いロバの耳、小さな尻尾が落ち着かず揺れていた。

もう一人はオレンジ色の髪にふさふさした狐の尻尾、鋭い耳が音に敏感に反応していた。


静けさを破ったのは、アンの優しい声だった。


「ねえ…名前、あるの?」


ロバ耳の少女は戸惑いながら答えた。


「…名前なんて、ありません。あの商人に…番号で呼ばれてました。」


アイオが顔をしかめた。


「そんなの、もう終わり。

これからは、自分の名前を持たないと。誰にも奪えない、あなただけの名前。」


ウェンディが腕を組み、ほんの少し微笑んだ。


「じゃあさ、好きなものは? 色でも、花でも、なんでもいい。」


狐の少女がまばたきした。


「…春に咲く花が、好きです。」


「じゃあ…“ハル”はどう?」

ヴェルが提案した。

「“春”の意味。きっと似合う。」


ロバ耳の少女は少し考えてから、そっとつぶやいた。


「…静かな夜が、好き。」


「それなら…“ヨル”だな。」

クロが頷いた。

「“夜”って意味だ。」


二人の少女は顔を見合わせて、小さく、それでも確かな笑みを浮かべた。


「よし、ハル、ヨル。」

リュウガが言った。

「出発の前に、補給が必要だ。」


「それと、ヴォルテルで売れそうな商品もね。」

セレステはリストを確認していた。


一行はそれぞれの目的地へ向かった。


カグヤとリシアは布の店へ。

ウェンディとアイオは武器と道具のコーナーへ。

アンは、ハルとヨルを連れて果物と香辛料の市場へ向かった。


ロボットの侍女たちはいつも通り黙々と荷物を運び、

積載量を正確に計算していた。

スティアは、年配の村人が持つ樽を手伝い、感謝の笑顔を受け取っていた。


「これ…なんだか、いいですね。」

ハルが尻尾を揺らしながら言った。


「この人たちと旅してると、これが普通になるのよ。」

アンは笑顔で答えた。

「すぐに慣れると思う。」


その頃、リュウガはヴェルと共に広場を回り、

地元の商人たちと価格交渉をしていた。


数時間前まで緊張に包まれていた場所が、

今は笑い声と食べ物の香り、穏やかな暮らしのざわめきに包まれていた。


夕暮れが迫る頃には、すべての準備が整っていた。

補給は終わり、新しい仲間たちには名前が与えられ、

ガレオン号は村の外に停泊し、ヴォルテルへ出航する準備が整っていた。


だが、その夜だけは――誰も出発を口にしなかった。


平穏な一日。

それは、この旅の中で最も貴重な贅沢だったから。

読んでいただきありがとうございます!

気に入っていただけたら、お気に入り登録や評価をしていただけると嬉しいです!


最新情報はX(旧Twitter)でも発信しています!

更新の通知や創作のつぶやきをチェックしたい方は、ぜひフォローしてください!


→ https://x.com/jakuronoseirei



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この物語はメキシコ出身の作者「ジャクロの魂」によって執筆されています。 お気に入り・評価・感想などいただけると、物語を続ける力になります! 応援よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ