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第120章 村と見えざる鎖

ガレオン船は速度を落とし、朝の霧を静かに切り裂きながら、夜明けの光が海岸を照らす中を進んでいた。


遠く、緑の丘の間に、小さな村が現れた。

木と石で造られた家々は、幾十年もの雨や太陽を耐えてきたかのように佇み、赤い瓦屋根と、満開の花を咲かせた鉢植えが壁を飾っていた。


「ヴォルテルに入る前に、ここで少し休んでもいいかもしれないわ」

セレステは手すりに肘をかけ、風に髪を揺らしながら言った。

「中立の村なら、新鮮な物資も手に入るかもしれない」


「悪くない考えだな」リュウガが頷いた。

「それに、ヴォルテルへの道も聞けるかもしれないしな」


侍女とロボットたちは船に残り、艦を守る任務に就いた。

他の者たちは桟橋を渡って上陸した。

石畳の道を踏みしめる感触は、どこか心地よく懐かしかった。

村には、焼きたてのパンの匂い、干された薬草の香り、そして木の温もりが漂っていた。

人々は笑顔と小さな会釈で挨拶してくれた。それは、これまで旅してきた冷たく敵意に満ちた都市とはまったく異なる空気だった。


「……落ち着きすぎてるくらいだな」

アイオが、安堵と警戒の混ざった口調でつぶやく。


「時に、平和に見えるものは、ただの仮面に過ぎない」

ヴェルは周囲を鋭い目で見渡しながら答えた。


その平穏は、中央広場にたどり着いた瞬間、崩れた。


即席の舞台に群衆が集まっていた。

樽の上に板を敷いただけの粗末な構造の舞台には、派手な羽飾りのついた帽子をかぶり、町のどの家よりも高価そうな衣服をまとった大柄な男が立っていた。

男の目は冷たく計算高く、まるで捕食者のようだった。


「ご婦人方、紳士の皆様!」

男は腕を広げ、大道芸人のように叫んだ。

「滅多に見られぬ光景ですよ! 本物の目利きだけに与えられる、特別な機会だ!」


彼の隣には、金属の首輪をつけ、重い鎖でつながれた二人の少女がいた。

一人は茶色い髪と同色の瞳を持ち、犬の耳と尻尾が柔らかく光を反射していた。

もう一人は明るいオレンジの髪に、鋭い狐耳とふわふわした尾を持ち、無意識にかすかに揺れていた。


二人とも、群衆から目を背けていた。

その体には、従わされた運命の重みが刻まれているようだった。


「亜人か……」リュウガが呟き、立ち止まった。


アイオが一歩前に出て、人垣の間から様子をうかがった。

「どうした?」


「この世界を旅してきたけど……実物を見るのは初めてだ」

リュウガの声には、驚きと苦味が混じっていた。


ヴェルは腕を組んだまま、冷静に言った。

「驚くことじゃない。亜人はほとんど絶滅状態よ。多くの地域で狩られ、売られた。

ここにいるのは、金持ちか奴隷商人の“コレクション”ってわけ」


商人は満足げな笑みを浮かべ、手を広げた。

「では入札開始! どうぞご自由にお出しください!」


あちこちから手が上がり、高額の数字が飛び交った。

見物人たちはざわめき、互いに顔を見合わせていた。


犬耳の少女は震えていたが、声は出さなかった。

狐の少女は唇をきつく結び、虚ろな目をしていた。


リュウガの胸に、重たいものが沈んだ。

彼はこれまでも数多の不正を目にしてきた。

だが、今この瞬間、この二人の少女の瞳が、思った以上に深く彼を貫いた。


隣にいたクロが、ちらりと彼の顔を見た。


「その顔……もう何を考えてるか分かってるよ」


ヴェルが舌打ちする。

「やっぱり……止めに行く気ね?」


リュウガは何も答えなかった。

ただ、静かに武器の柄を握り締めた。


「……だと思った」

ヴェルがため息まじりに言った。


群衆の熱はさらに高まり、商人は舞台の上で優雅に立ち振る舞いながら、その場を楽しんでいた。

まるで人間の命を、ただの美術品や贅沢品として扱っているかのように。


そして、リュウガが一歩、前へ進んだ。


彼の気配が変わった。

それまで温もりに満ちていた空気が、一気に張り詰めた刃のようになる。


周囲の人々が本能的に身を引く。


そして、彼の声が場を裂くように響いた。


「……この競売は、ここで終わりだ。」

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この物語はメキシコ出身の作者「ジャクロの魂」によって執筆されています。 お気に入り・評価・感想などいただけると、物語を続ける力になります! 応援よろしくお願いします!
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