第119章 – ヴォーテルへの航路
ガレオン号は魔法の海を力強く進み、銀色の霧に包まれたミラージュ聖域の遠いシルエットを後方に残していった。
船体を叩く波の一定のリズムと、縄のきしむ音は、乗組員たちの一歩一歩を彩るBGMのようだった。
メインデッキでは、リュウガが強化木製のテーブルに広げた地図を確認していた。
その隣でセレステが青いインクで描かれた航路を見つめ、クロは遠くの水平線に視線を向けて警戒を怠らない。
「ヴォーテルは北だ。エメラルド境界線の向こう側」
リュウガは地図上の一点を指差す。
「ただの王国じゃない…あそこでは魔法と技術が、俺たちが見てきたどの場所よりも混ざり合っている」
「しかも、それが必ずしも良い方向とは限らない」
クロが乾いた声で付け加えた。
一方、船首では、アンとアイオが並んで座り、足を縁からぶら下げていた。
風が髪を乱す中、二人は会話を続ける。
「ヴォーテルにも私たちみたいな人がいると思う?」
アイオはギターの弦を調整しながら尋ねた。
「分からない…でも、もし助けを必要としている人がいるなら、私は絶対に放っておかない」
アンは前方を見据え、揺るがぬ決意をにじませた。
数メートル先にいたウェンディが近づき、欄干にもたれかかる。
「ヴォーテルはややこしい場所として有名よ…秘密を抱えた人間でいっぱい」
「まるで私たちみたいだね」
アイオが笑みを浮かべる。
ウェンディは答えなかったが、その口元には小さな弧が描かれていた。
下の階では、パールがメイドたちに指示を出していた。
何人かは厨房を点検し、他の者は全員が部屋を確保できるよう居住区を整えている。
「この航海は数週間に及ぶかもしれません。備蓄をきちんと管理し、装備は常に完璧な状態を保つように」
パールの声が響く。
甲板に配置されたガーディアンロボットたちは海を監視していた。
時折、周囲に脅威がないことを示す電子音を発する。
夕暮れ時、空は橙と黄金色に染まり始めた。
リュウガは全員を中央デッキに集める。
「いいか…ヴォーテルで何が待っているかは分からない。歓迎されるかもしれないし、敵として迎えられるかもしれない」
セレステが一歩前に出る。
「大事なのは、私たちが準備を怠らないこと。これまで何を経験し、何を失い、そして何を守らなければならないか…忘れないで」
短い沈黙の後、アンが声を上げた。
「どこにいても関係ない。私たちが一緒なら、必ず乗り越えられる」
アイオはうなずき、希望のリズムを刻むようにギターを軽く叩く。
ウェンディは腕を組み、地平線を見つめたまま言った。
「じゃあヴォーテルも覚悟してもらわないとね…私たちは行くわ」
夜が訪れ、ガレオン号は星空の下を進み続けた。
マストの上では、機械仕掛けのメイドが信号灯を灯し、白い光を遠くへ放つ。
風は強く吹きつけていたが、船はそれに負けず、挑戦と…そしておそらく答えが待つ目的地へと進み続けた。