第118話 -「三つの冠、一撃」
空気は火花で満ちていた。
瓦礫、光と闇の欠片が、見えない嵐に囚われた葉のように宙を舞う。
戦場の鼓動は、今にも裂けそうな巨大な心臓の鼓動そのもの。
そして――その中心に、ヨル。
立ち尽くし、荒い息を吐きながら、
もはや勝つために戦っているのか、それとも倒れまいと抗っているだけなのか――
自分でも分からない男の瞳をしていた。
アンが一歩前に出た。
そのシンデレラドレスは、星を散りばめた真夜中の空のように輝いている。
「ヨル……あなたの中には、まだ人間らしさが残ってる。私はそう信じてる。」
その言葉は攻撃ではない。
心の扉を開く鍵だった。
だがヨルは歯を食いしばる――まるで、その鍵が焼けつくように熱いかのように。
「嘘だ! もう何も残っちゃいない!」
アイオは反抗的な笑みを浮かべ、その瞳に光を宿す。
「そう思ってても……守るものがある時、人の中には必ず光が残る。」
その声はプリキュアのように明るく、折れない。
「そして――その光は絶対に消えない!」
ウェンディは剣を高く掲げ、揺るぎない声で言う。
「たとえ世界が敵になっても……選ぶことはできる。それが人間である証。」
「黙れぇっ!」
ヨルが黒い閃光のごとく両の剣を振るい、圧倒的な魔力の圧が空気を押し潰す。
三人は踏みとどまり、金属と魔力が轟音を立ててぶつかり合う。
一瞬の隙、アイオが後方へ跳躍。
ギターがオレンジと青の閃光に包まれ、回転しながらエネルギーの輪を帯びた球体へと変わる。
「――《スペシャルフォーム:ストライク・ミラクルボール》!」
全力で放たれたそれはヨルの剣に直撃し、光と衝撃が空を裂く。
ガシャァン!
黒と白の双剣が砕け、魔力の欠片が煙のように消えていく。
「俺の剣が……!」
ヨルが目を見開く。
アンは一瞬も無駄にしない。
鞭を消し、手に現れたのは黄金の針が浮かび回る幻の時計。
「――必殺、《トゥエルブ・ミッドナイトクロックストライク》!」
瞬きする間に、彼女はヨルの肩、手首、膝、肋骨、首、腹部――
十二の急所を正確に打ち抜き、そのたびに青い閃光が炸裂し、動きを奪っていく。
ウェンディがその流れに合わせ、赤いエネルギーを帯びた高速の斬撃を連打。
最後に大きく回転し、蹴り飛ばしてヨルを石壁へ叩きつけ、壁を粉々に砕く。
「――今だ!」
アンが叫ぶ。
三人の前に、純粋な希望の光から鍛えられた大剣が形作られる。
まずアンが柄を握り、続いてアイオ、そしてウェンディが手を重ねた。
黄金、蒼、紅の波動が刀身を駆け抜け、剣がまるで呼吸するかのように震える。
「――これが、私たちの最終一撃!」
大剣が生きた雷光の奔流と化し、
その一閃がヨルを貫き、輪郭を二つの閃光に裂いた。
そして――その二条の光は融合し、戦場を包む眩い爆発へと変わった。
最初に訪れたのは――沈黙。
その直後、轟音が戦場を揺らす。
灰色の世界が、陽光を浴びた硝子のようにひび割れ、崩れ落ちていく。
アン、アイオ、そしてウェンディは立ち尽くしていた。
荒いが揺るがぬ呼吸。
その周囲では、人々が自由を取り戻し、歓声を上げている。
高所からリュウガたちが近づき、誇らしげに微笑んだ。
――その日、
崩壊する灰色の世界のただ中で、
三つの冠は、かつてないほどに輝いていた。