第117話 -「全てか、無か」
エネルギーの炎が、なお空中で踊っていた。
粉塵が厚い幕のように戦場を覆い、最初の衝突の残響が廃墟にこだましている。
アン、アイオ、そしてウェンディは再び立ち上がった。
その瞳に、恐れはない。
今回は、ただ耐えるためではない。
すべてを懸ける時――退く道は、もうなかった。
アンはその場で回転し、銀色の閃光と共にドレスが変化した。
広がる青い水晶のスカート、魔力の輝きを受け止める銀の装飾、頭上で輝くティアラ、そして長く優雅に伸びた杖からは、暖かくも威厳ある光が溢れ出す――まさに全盛のシンデレラの姿だった。
アイオは口の端を上げ、衣装がロック調の魔法少女スタイルへと変わっていく。
黒いスタッズ付きジャケット、赤い非対称のレザースカート、スパイクを施したニーハイブーツ、そして火と黒曜石で鍛えられたエレキギターが手に現れ、動きに合わせて火花を散らした。
ウェンディは無言のまま戦闘モードを起動。
軽量の金属製アーマー、戦術用バイザー、そして圧縮エネルギーを震わせる両刃の剣――あらゆる防御を切り裂く準備は整っている。
高所からリーフティが見下ろし、囁く。
「手を出さないの?」
腕を組んだリュウガが首を横に振った。
「いや……この戦いは、彼女たちのものだ。」
戦いが弾けた。
アンとアイオが前方へ突進。ひび割れた地面がその足音を響かせる。
ヨルは手首をわずかに動かし、空気を切り裂く魔力の突風を放った。
「――《クリムゾンウォール・ディフェンス》!」
アイオがギターを地面に突き立てると、赤いエネルギーの壁が広がり、衝撃を吸収する。
「行くぞ!」
ウェンディが青い電撃を纏った剣で突進。
黒と白の双剣との衝突が、耳をつんざく火花を散らした。
「速い……だが、まだ足りない。」
ヨルが冷たく笑う。
アンは一歩退き、まっすぐ彼の瞳を見据えた。
「それでも……あなたの中にまだ人間らしさが残っている。殺そうと思えば、あの時できたはず。」
ヨルの手がわずかに震える。
「そうだ……」アイオが続ける。「痛みは勝手には消えない。でも、立ち上がらせてくれる人はいる。」
ギターを鳴らすと、音速の衝撃波がヨルを押し戻した。
「……お前たちにはわからない。俺は……この国を、この民を救いたかった。」
「それは人間らしい想いだ。」ウェンディの声は揺るがない。「救えるのは……愛だ。」
「愛など語るな!」
ヨルが咆哮し、暗黒の竜巻を解き放つ。
ウェンディは剣でそれを吸収し、倍の力で返す。
「じゃあ……これを感じろ!」
爆発がヨルを吹き飛ばす。
闇に覆われていた人々の瞳に、徐々に光が戻り始めた。
「頑張れ、アン!」女性の声が響く。
「アイオ、負けるな!」若者が叫ぶ。
「私たちはあなたたちの味方だ!」群衆の声が重なる。
アン、アイオ、ウェンディは互いに目を合わせる。
体は限界でも、胸の奥には新たな力が燃えていた。
ヨルは怒りと迷いを混ぜた顔で双剣を構える。
「ならば……その言葉で、この力を超えてみろ!」
双剣が回転し、暗黒の渦が全てを飲み込む。
「止めたいなら……俺を破壊してみせろ!」
アンは一歩も引かず進む。
ドレスが閃き、両手から青い水晶の鞭が生まれ、魔力を散らす。
「破壊するのは……あんたの憎しみよ!」
鞭が双剣に絡みつき、衝撃波を生むたびに押し返す。
「絶対に……彼女たちには触れさせない!」アンが叫び、ヨルを押し退ける。
アイオが横へ跳び、ギターを構える。
「――《モード・キャノン》起動!」
ギターが二連装の電磁砲へと変形し、脈打つ回路が輝く。
「最大チャージ!」
ウェンディが駆け抜け、斬り上げで片方の剣を逸らし、ヨルを後退させる。
「もう勝てない、ヨル!」
「今だ、アイオ!」アンが叫ぶ。
電撃と音波が融合した砲撃が放たれる。
同時にウェンディが赤と白の炎を纏った剣で跳躍し、真上から振り下ろす。
二つの攻撃が同時に命中――
戦場全体を揺るがす、破壊的な衝撃が轟いた。
光と轟音の爆発があたり一面を覆った。
ヨルは膝をつき、荒く息をつく。
その瞳には、初めて怒り以外の感情――迷いが浮かんでいた。
「……なぜ……あの言葉が……嘘じゃないと……感じる……?」
かすれる声でつぶやく。
三人は肩を並べて立つ。
ウェンディが、揺るぎない声で答えた。
「……嘘じゃないからよ。」
その声の余韻が、群衆の歓声と混ざり合う。
だが、誰もが分かっていた――この戦いは……まだ終わっていない。