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第110幕 ―「氷、鋼、そして影に抱かれて」

機械の王国に広がる灰色の空からは——

雨も、光も降っていなかった。


ただ、灰だけが静かに舞っていた。


金属の破片と霜が、ゆっくりと落ちていく。

まるでこの世界そのものが、倒れた兵士たちのために涙を流しているかのように。


煙と瓦礫の中、

ヴェルとリシアが姿を現した。


彼女たちのアーマーはひび割れ、

無数の切り傷と煤に覆われ、

戦いの爪痕を全身に残していた。


空気には、焼けたケーブルと——

今まさに息絶えた力の匂いが満ちていた。


その背後で、

自動兵団の巨大なエネルギー源が崩壊していく。


制御塔は傾き、

警告灯が最後の明滅を放つ。


「……全軍が……止まったの……?」

リシアが呆然と呟いた。


ヴェルは、まだ雷の残滓を帯びたハンマーを握ったまま、

言葉もなく、その光景を見つめていた。


「これは……ネットワークの心臓だった。

 たしかに破壊した。でも……」


その目が鋭くなる。

そして、背筋を凍らせるような感覚が彼女を包む。


「……セレステ……どこにいるの……?」

数キロ離れたその地では、

まったく別の物語が繰り広げられていた。


戦場は、崩れた構造物の墓場。

砕けた人工樹木、陥没した大地、焦土の空。


空気には、氷と死の気配が満ちていた。


セレステは、蒼玉の姿で立っていた。

呼吸は荒く、血が頬を伝う。

手にした剣は震えていたが——その瞳に恐れはなかった。


彼女の前に立ちはだかるのは、

蘇った怪物——エヴェソル。


紫と黒の装甲を纏ったケンタウロス型の巨体。

醜悪な仮面、そして憎悪に燃える槍。


「これで終わりか、セレステ……?」

その声は歪み、金属が軋むように響いた。

「かつて私を砕いた“氷の意志”はどこへ消えた?」


セレステは血を吐き捨て、言葉で返す。


「お前は……あの日、死ぬべきだった。」


「死んださ。だが……お前のおかげで、蘇った。」


エヴェソルが突進する。

凍てつく大地を砕きながら、闇の暴走が迫る。


「――絶対命令:プリズム・コウレン!」


氷の塔が天へと突き上がり、突進を阻止する。


——だが、それも一瞬。


「効かぬわァァァ!!」

エヴェソルが跳躍し、氷柱を粉砕した。


そのままシールドでセレステを打ち砕く。


クラアッシュ!!


「セレステッ!!」

遠くから、声が飛ぶ。


リュウガ。

ヴィオラ。

エオン。

ナヤ。

プレティウム。

リエル。


だがセレステは、血を流しながらも立ち上がった。

片手を挙げ、叫ぶ。


「……この戦いは……私のものよ!」


リュウガが立ち止まり、

ヴィオラが黙して頷いた。


全員が、悟った。

これはただの戦闘ではない。

魂の、決着だった。


セレステが変身を開始する。


「――アメジストフォーム!」


紫に輝く装甲が彼女を包み、

サファイアの剣は、弧を描く双刃へと変貌した。


エヴェソルは狂ったように笑う。


「それだァァ! それが見たかったんだ!!

 屈しない氷の女王よ!!」


二人が走る。


剣が交錯し、

クリスタルが飛び散る。

光と影が、死の舞を踊る。


セレステは、まるで舞う嵐のように動き、

エヴェソルは、獣のような破壊をもって応える。


「理想なんて、誰も救えねえ!」

エヴェソルが吠える。


「でも……それが、誰かの希望になる!」

セレステが叫ぶ。


「――リフレクトゥム + コロナ・ボレアリス!!」


紫のエネルギーと防御結晶が結合し、

強固なドームが槍を跳ね返す。


エヴェソル、一瞬の隙。


「やああああああっっ!!」

セレステが駆け、双刃が怪物の側腹を貫いた。


絶叫が空を裂く。


だが——倒れない。


エヴェソルの反撃。

荒れ狂う旋回。

凶暴な爪が、セレステを金属樹に叩きつける。


血。

痛み。


彼は近づく。

肩で息をしながら、狂気の笑みを浮かべて。


「まだか……?

 なぁ、セレステ。

 これで終わりじゃないだろ?」


セレステは、傷ついた体を幹に預ける。

呼吸は浅く——

だが、その眼差しは揺らがない。


「……私の本当の力は、

 お前を倒すことじゃない。

 ……腐れたものに、“止まる意味”を教えることよ。」


ティン……


脳裏に光が走る。


新たなコマンド。

新たな覚醒。


エヴェソルが一歩、たじろぐ。


「お前……何をする気だ……?」


セレステが剣を空に掲げる。


「――最終形態:アストラル・ダイアモンド!!」


純白の光が爆ぜる。

背から、結晶の翼が展開される。


剣は分離し、双槍へと進化した。


世界が震えた。


エヴェソルがごくりと唾を飲む。

仮面が、軋んで歪む。


「それが……

 貴様の限界じゃない……

 “再誕”か。」


遠くから、仲間たちは沈黙のまま見つめていた。


ヴィオラが小さく呟く。


「……これは戦いじゃない。

 魂の戦争よ。」


リュウガが拳を握りしめる。


「……なら、彼女に勝ってもらおう。」

王国の最深部にあるトンネルで——

ひとつの“反響”が走った。


システムが次々と沈黙していく。

エネルギー核は不安定になり、

センサーは新たな“エネルギーパターン”を検知する。


それは、どのコードにも登録されていない信号だった。


そして、誰もいない制御室で——

声が、ケーブルの合間から響いた。

カウントダウンは……すでに始まっていた。


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この物語はメキシコ出身の作者「ジャクロの魂」によって執筆されています。 お気に入り・評価・感想などいただけると、物語を続ける力になります! 応援よろしくお願いします!
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