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第108幕 ―「統べる者、ヨルの貌」

中央区の永遠の夜が、まるで不吉な予兆のように覆いかぶさっていた。

いつもは穏やかに輝く人工の空も、その輝きを忘れたかのように、静寂に沈んでいた。

代わりに、濃密な影が崩れた建造物の間を這い回り、まるでシステムそのものが、何か恐ろしい存在の目覚めを察知しているかのようだった。


通りには、もはや誰の姿もなかった。


市民たちはすでに避難していた。


最後の避難所は閉ざされた。


そしてそこに——

静電気のような沈黙と、崩れ落ちる瓦礫のこだまの中で、五つの影が集まっていた。

それが、かつて彼女たちの魂を奪った者、ウェンディ、アン、アイオ——

その元へ向かう運命の始まりだとは、まだ誰も知らなかった。


アン。

ウェンディ。

アイオ。

リーフティ。

アズ。


五人は、過去を振り返らないと誓った。

だがその誓いは——

今、音を立てて崩れようとしていた。

轟音が空を引き裂いた。

稲妻が、彼女たちが数秒前までいた場所に落ちた。

コンクリートが爆ぜ、

空気は一瞬で呼吸不能になった。


そして——彼女たちは“それ”を見た。


「……まさか……」

ウェンディが息を飲み、空を見上げた。


倒壊した柱の残骸の上に、

一人の痩せた男が、無言で宙に浮かんでいた。

灰色のスーツには黒いラインが走り、

その全身からは不気味なエネルギーが弾けていた。

風のないはずの空間で、彼のマントだけが静かに揺れる。

顔は完全に金属製のヘルメットで覆われ、

背中からは、まるで生きているかのようにうごめく黒いケーブルが伸びていた。


アイオが一歩、後ろに下がった。


「この…この気配……前にも……感じた……」


アンはもう、ためらわなかった。


「ヨル!!」

怒りで震える声が夜に響く。

「記憶を奪ったのはお前だ!

 私たちを……操り人形にしたのも!!」


男がゆっくりと降下する。

その体からは、重さという概念が消えていた。


歪んだ金属の声が空気を切り裂いた。


「思い出したか……遅かったな。

 だが構わん。計画は既に進行中だ。

 ここまで来たからには……」


「沈黙してもらうしかない。」


ザアアアアアッ!!!

漆黒の雷が放たれた。


「危ないっ!!!」

ウェンディが叫ぶ。


彼女のレスキューシフトが雷撃を弾き返す。

その動きは、まさに光のような速さだった。


アンは空中で回転しながら叫ぶ。


「変身——白鳥姫フォーム!!」


黄金の光が雨のように降り注ぎ、

白と銀で縁取られたドレスが姿を現す。

背中には白鳥の翼。

髪は、まるで夢の中のように宙に浮かぶ。


「もう二度と…お前には操られない!」


アイオが両腕を広げた。


「ファルコンフォーム、展開!!」


赤い炎が彼女の身体を包み、

鋭い装甲と刃のような翼を持つ軽量アーマーが出現する。

彼女の瞳には、揺るがぬ意志が宿っていた。


「私はアイオ!今度は、地面に叩き落としてやる!!」


ヨルは、攻撃をただ一本の指で逸らす。

アイオはまるで誘導弾のように旋回し、

雷撃の隙間を正確にすり抜ける。


「注意を引いて! 私が横から回り込む!」

ウェンディの命令が響いた。


遠く、塔の上。

リーフティの瞳は、すでに標準を合わせていた。


「制圧射撃、開始。」


パフッ! パフッ! パフッ!

青いエネルギー弾がヨルのバリアを揺らし、

彼に反発フィールドを展開させる。


「今だっ!」

アイオが叫ぶ。


ウェンディが頷き、スイッチを押す。


「メガモード、発動!!」


彼女のスーツは紫に染まり、

前面には強化アーマー、

手には光の剣が輝きを放つ。


「連携攻撃、行くわよっ!!」


アイオが流星のように火をまとい降下する。

ウェンディは跳躍し、剣を高く掲げる。


ドオオオオン!!!

衝突の衝撃が街を揺るがす。


ヨルは——

たった一歩、後退した。


「本気で……私に傷をつけられると思ったのか?」


「私がお前たちを作った。」

「私が、お前たちを形作った。」


両手を広げる。

圧力の波が、彼女たちを吹き飛ばす。


だがその時——


「光の呪文――《暁の涙》!!」


アンの掌から放たれた白い球体が

まっすぐに飛び、ヨルの盾にヒビを入れた。


「リーフティ、今よ!」

ウェンディが叫ぶ。


「精密爆弾、プロトコル7発動!」


ズウウン……カッ!!!

後方から炸裂したリーフティの爆弾が、

ヨルの防御に亀裂を刻む。


「全員で!!!」

アイオが咆哮する。


アンは光のオーラを解放し、

アイオは炎の螺旋をまとい、

ウェンディは剣に全力のエネルギーを集中させた。


ガアアアアアアアアッ!!!!

都市全体が震えるような衝撃音。


——静寂。


煙が全てを覆った。


だが、やがて……


ヨルは、立っていた。


マントは裂け、スーツには焦げ跡。

しかしその身体全体が、

異様な力で光を放っていた。


「ほう……まだ、頂点には至っていないようだな。」


リーフティが、息を飲んだ。


「……これは、厄介だ。」


ウェンディが剣を構え直す。


「関係ない……あなたを倒す。

何があっても。」


ヨルが再び両腕を広げる。


「ならば備えよ。

真の戦いは、今からだ。」

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

中央システムのどこかの一角で、

フードをかぶった人物が、ホログラム画面をじっと見つめていた。


その背後、闇の中から、かすかな声が漏れた。


「……ヨルの登場が、予定より早いな。

 もう……駒たちは動き出している。」


暗闇に、微かに笑い声が響いた。


「ならば――再起動を始めよう。」

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この物語はメキシコ出身の作者「ジャクロの魂」によって執筆されています。 お気に入り・評価・感想などいただけると、物語を続ける力になります! 応援よろしくお願いします!
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