表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/324

第103章 ― 深淵(しんえん)のケンタウロス、審判(しんぱん)のプリズム

廃墟はいきょは、一撃ごとにふるえていた。


セレステの息は白くこおり、静かに吐息といきとしてちゅうけていく。

さっきの衝突しょうとつの火花がまだ宙に舞い、まるで異世界のほたるのように光っていた。


そして──

目の前に立つのは、確かに自分がたおしたはずの男。


イヴェソル。


「……あり得ない」

セレステは剣を構えたまま呟いた。

「たしかに倒した……この目で、見たのに」


イヴェソルは不敵ふてきに笑う。

その漆黒の髪が、禍々(まがまが)しい魔力の風に揺れていた。


「“倒した”だと? 惜しかったな…」

その声は深淵から響くような冷たさだった。

「だが、貴様の攻撃は──俺を“壊す”以上の結果をもたらした」


セレステの眉がぴくりと動く。


「どういう意味よ……?」


イヴェソルは左腕を掲げた。

そこには以前とは違う、複雑に再構築された黒の装甲。

紫の魔力が螺旋を描き、彼の体を包み込んでいた。


「貴様の“光”を取り込み、俺の“闇”と融合ゆうごうさせた。

その結果、俺の肉体は……進化しんかしたのだ」


次の瞬間、イヴェソルの身体が発光はっこうする。

装甲がうねり、伸び、骨格が変形する音が辺りに響く。

顔には金属の仮面、脚部は四本に分かれ──


──深淵のケンタウロス形態。


紫と黒の装甲に覆われた巨大な獣人じゅうじん

背には浮遊する二本の剣。

その全身が、セレステを威圧する魔そのものだった。


「……化け物」

セレステが一歩後ずさる。


「俺は力の到達点だ。

お前の“希望”と俺の“絶望”、その融合体ゆうごうたいだ!」


だが、セレステは剣を構えなおす。

青い光が再び彼女を包む。瞳には恐れはなかった。


「それならもう一度倒す。

あなたをここで──終わらせる!」


「ふはははッ! その覚悟は評価しよう!」


戦闘が始まる。


イヴェソルは地を蹴り、巨大な四脚で突進とっしん

浮遊する双剣が独立してセレステに襲いかかる。

セレステは剣を回転させ、防御と回避を組み合わせて応戦する。


──金属音。

──風切り音。

──エネルギーの衝突音。


彼女の装甲は星の輝きを帯び、あらゆる角度からの攻撃に応える。


イヴェソルが距離をとり、胸部のコアを開いた。


「これで終わりだ……!」


紫と黒の球体が形成され、空間がゆがむ。

重力が狂い、魔力が渦巻く。


だが──


セレステが天に剣を掲げる。


「……コマンド・アブソリュート──!」


青く輝く魔法陣が空中に展開。

剣に宿る宇宙のような光。


「プリズム・コンゲラート(氷晶の審判)!!」


剣先から、氷と星の力を融合させた光線が放たれる。

それが黒き球体に直撃し、衝突の瞬間──


轟音ごうおん閃光せんこう


紫と青の光が混ざり合い、爆発が周囲を凍てつかせ、弾け飛ばす。

氷の結晶が嵐のように舞い、戦場は輝きに包まれる。


爆発の中、両者が空中に投げ出された。

だが──倒れない。


空中で視線が交差する。


「……まだ終わってない」

セレステが息を整え、剣を構える。

「これは──皆のための戦い。ライガ、ヴェル、リシア……皆の」


イヴェソルは口元を歪ませ、舌を舐める。


「よかろう……

その光がどこまで俺に届くか、証明してみせろ!!」


両者が再び突進。


剣が交わる音が、星の審判のかねのように響き渡った。

戦場は、破壊のクレーターへと姿を変えていた。

大地が震え、空気は純粋な電流で満ち、二人が衝突するたびに、空が裂けるかのような衝撃音が響き渡る。


セレステは荒い息を吐きながら、緊張と疲労に満ちた体を奮い立たせていた。

その剣は正確に舞うように動いていたが、対峙するイブソール――暗きケンタウロスの姿をしたその存在は、巨体に似合わぬ驚異的な速度で迫ってくる。

そのひづめ一つ一つが突進の如く、後ろ脚の一撃は鋼鉄の柱さえ砕く破壊力。


「……っ! お前……いったい何なんだ……」

セレステが横に跳び、イブソールの足が地面を叩き割る瞬間を辛うじてかわす。


「お前が生んだ――“過ち”だよ」

イブソールが、重低音と金属音が重なるような二重の声で笑った。

「だが、進化を知った過ちだ」


セレステは背後を狙おうと動く。

だがそれは罠だった。

後ろ脚が猛烈な力で振り上げられ、セレステの顔面を狙って襲い掛かる。


寸前で宙返りし、命中を回避。もし当たっていれば、頭蓋は砕けていた。


「いつまでも避けられると思うなよッ!」

イブソールが吠え、紫のエネルギーをまとった剣を高く振り上げる。


その一撃は、まるで終末の審判。

セレステは選択の余地なく、左手を掲げて叫んだ。


「アメジスト形態――起動!!」


胸元から紫の光が炸裂する。

鎧のプレートが再構築され、深いアメジストの色へと変化。

全身には遠くの星々のような線が走り、マントはエネルギーの塊のように濃密に、そして額には三角の宝石が輝いた。


ガァンッ!!


イブソールの剣が振り下ろされる――

だが、それをセレステが受け止めた。強化された剣で。


彼女の足が地面を滑り、火花が散る。だが――折れない。


「そう簡単に……押し潰されてたまるか……ッ!」


その言葉を聞いて、イブソールが半笑いになる。


「ほう……その形態、耐久力が増しているな」


そう言うや否や、横から盾による強烈な一撃を叩き込む。

セレステの体が弾かれ、崩れた像に激突し、そこから血を吐いた。


膝をつきながらも、彼女は剣を両手で握り、ゆっくりと立ち上がる。


「……これはもう戦闘じゃない……相互の処刑だわ」


その声には、静かな覚悟があった。


イブソールの表情が変わる。

笑いは消え、真剣な眼差しに。


「その通りだ、セレステ……だから、もう一切の手加減はしない」


セレステは、口元に皮肉な笑みを浮かべる。


「……奇遇ね。私もよ」


風が止んだ。


世界が、一瞬、沈黙する。


そして――

光と影に包まれた二人は、正面からぶつかり合った。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この物語はメキシコ出身の作者「ジャクロの魂」によって執筆されています。 お気に入り・評価・感想などいただけると、物語を続ける力になります! 応援よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ