第101章 – 魂を貫く一撃
塵がゆっくりと晴れていく中、カグヤは膝をつきながら荒く息をしていた。周囲の建物は衝撃で震え、その正面には、彼女を待ち伏せていた巨漢フォルテが、不敵な足取りで近づいてきた。
「それで終わりか?」
赤く燃える炭のような目を光らせ、拳を鳴らしながら嘲笑った。「つまらんな。もっと面白いかと思ったが」
カグヤは地面に血を吐きながらも、視線を逸らさなかった。頬には切り傷、背中は壁に叩きつけられた衝撃で激しく痛んでいた。フォルテの姿はまさに筋肉の山。漆黒の制服がその動きに合わせて軋んでいる。
「確かに……力はある」
カグヤは唸りながら立ち上がった。「でも私は、簡単に潰されるほど弱くない」
フォルテは低く嘲るように笑う。
「そうか?じゃあ、どうする気だ? 忍びの小娘」
カグヤは素早く印を結ぶと、口がわずかに膨らみ、真っ黒な墨がフォルテの顔めがけて勢いよく飛び出した。
ズシャッ!
「な、なんだと…!?」
フォルテは目に墨を受け、叫びながら顔を覆った。
「まだ終わってない!」
カグヤの体が淡く輝き、姿が変化していく。髪が波打ち、衣装は暗くなり、足には吸盤の模様。忍法「タコの型」へと変化。動きは予測不可能なまでに流動的になった。
柱、低い天井、崩れた壁。あらゆる地形を利用して、カグヤは八方向から影のように襲い掛かる。鋼のような速さで、鋭い突きが連続する。
「この…クソッ!」
フォルテが墨を拭った瞬間、カグヤの回し蹴りが顎を打ち抜いた。
痛みが走るたびに彼女の顔が歪む。それでも、目にあるのは揺るぎなき闘志。
フォルテは雄叫びを上げ、地面を拳で打ち砕いた。飛び上がったコンクリートを一塊掴み、カグヤに向けて投げつける。
かろうじて避けたが、脇腹をかすり、バランスを崩した。そこを狙い、フォルテが拳を腹部に叩き込む。
ゴオオッ!!
カグヤの体が宙を舞い、再び壁に叩きつけられる。血が口から溢れ、息が詰まる。
「痛むか? それがお前が生きてる証だ」
フォルテがゆっくりと近づく。「そのまま潰されろ」
だがそのとき――空気が変わった。
周囲の気が重くなる。瓦礫の中から、カグヤが再び立ち上がる。目に浮かぶのは痛みではない。覚悟。
「まだ終わってない……始まってすらないわ」
カグヤが別の姿に変わる。
肌が厚く、足元には大地のエネルギー。肩には幻影の角、全身は補強布と革装備。「バッファローの型」発動。
「本物の突進ってやつを教えてやる」
ドオオォン!
地面を割ってカグヤが突進。肩が槍のように光を放ち、フォルテに激突。彼の巨体が宙を舞い、背後の壁を突き破って崩落。
静寂が広がる中、カグヤは立っていた。汗と血にまみれながらも、拳を握りしめる。
「どんなに強くても……私には、あなたにないものがある。
――守りたいもの。そして進むべき道がある」
瓦礫の奥から、フォルテが起き上がる。全身は傷だらけだが、その怒りは衰えていない。蒸気を吹き出す筋肉。裂けた服。野獣のような咆哮。
「言ったろ……来る場所を間違えたんだよ」
フォルテが足音で地を割りながら近づいてくる。カグヤの左腕は痺れていたが、その瞳には火が宿っていた。
「そして……あなたこそ、相手を間違えた」
フォルテが笑う。
「まだ戦うか? プライドじゃ何も守れんぞ。世界に従え。そうすりゃ、大切な奴らが死ぬのを見ずに済む」
カグヤの胸が熱くなる。
アン、アイオ、ウェンディ、リュウガ……
その温かな世界を壊そうとする男が、今そこにいる。
「降伏……? 貴様のような怪物に?
――ふざけるな」
カグヤが強く血を吐き出しながら、怒りの笑みを浮かべた。
「お前の世界は、魂のない牢獄だ!そんなもの、生かしておけるか!」
手から眩い光が放たれる。
「忍法・閃光爆弾――正義の閃き!」
強烈な光が戦場を包む。フォルテは目を塞ぎ、呻き声を上げた。
その光の中から、静かに現れた影。
「タコ・二色の型」
両腕がうねるように伸び、攻撃と防御を同時に行う。その動きは水のように流れ、フォルテの猛攻すらすり抜ける。
次に現れたのは――
「バッファロー・嵐の型」
巨大な角を持ち、壁を砕く突撃。フォルテの巨体を何メートルも吹き飛ばす。
だが、フォルテも負けていない。
怒りに満ちた声で咆哮し、蹴りがカグヤの腹を捉えた。
カグヤは空を舞い、壁に激突。
「……降参しろ!」
彼の叫びが響く。「勝てるわけない!お前は何者でもない!」
「違う……私は……」
カグヤの目が燃えるように赤く光る。「アンたちのために……絶対に、負けない!!」
彼女の姿が再び変化。
「忍法・ゴリラ・嵐の型!」
筋肉、黒ずんだ肌、腕のエネルギープレート。動きは猛獣そのもの。跳躍し、フォルテの顎にアッパーを炸裂させる。
フォルテの反撃もかわし、拳を炸裂させ続ける。大地が揺れる。
「カバ・轟雷の型!」
幻のカバが腕を噛み砕く。
「アナグマ・鋼の牙の型!」
耐久を最大化、攻撃に一歩も退かず。
「カエル・光の型!」
毒の針がフォルテの顔をかすめ、視界が濁る。
そして――
「ニシキヘビ・精霊の型!」
霊蛇が地面から出現、フォルテの体を拘束。
フィニッシュが始まる。
「巻貝コノ」:神経毒の槍
「タランチュラ・バブーン」:中枢神経を攻撃
「ベスタ」:血圧を狂わせる毒の拳
「コモドドラゴン」:腐食毒の噛みつき
すべてが連続して胸部を直撃。フォルテの体が震え、血を吐き、ついに崩れ落ちる。
カグヤが叫ぶ。
「――最終奥義・封印の陣形!!」
全ての分身が集結。かつての全ての型を持った影が空に舞い――
「――秘技・天雷の鉄槌!!!」
ドゴォォォォン!!
大地が裂け、フォルテの胸が深く陥没。全てが静まった。
最後に、わずかに動くフォルテが、かすれた声で言った。
「どうして……ガキのお前に……」
カグヤは血と汗にまみれながら近づき、睨みつける。
「お前みたいな奴には……“誰かを守る”ってことが一生わからないからよ」
フォルテは歯を食いしばりながら、ゆっくりと灰になり、完全に消滅した。
カグヤはその場に膝をついた。激しく息をしながら、呟く。
「アン……アイオ……ウェンディ……
――終わったよ」