第5話 勘違い
修哉とティアはなんとか森を脱出し水の都ランティス公国へとたどり着いた。
「すごい……これが異世界の街……」
「ランティス公国の水の都の話は私も聞いたことあるよ。水がすごく澄んでいて綺麗で観光としても多くの旅人や冒険者が訪れてるみたい」
「確かに川の水が澄んでるな」
2人は歩きながらゆっくりと街を見る。すると武器を所持している人物を多く見かける。さらには異世界ならではの修哉とは違う種族も。
「……俺って……本当に異世界に来たんだな……」
「シュウヤの世界だと種族は人族だけなんだっけ?」
「ああ。エルフとかドワーフとかほかの種族は物語の中だけの存在だったよ。だからちょっと驚いてる。 まあさすがにステータスとかを見て慣れてきたけどな」
そんな話をしながらティアのお金で肉串を購入。
「はいよ!速牛の串焼き2つ!200Gね!」
「これでお願いします」
「はいよ!大銅貨2枚!ちょうどね!まいどあり!」
店主からティアが肉串を受け取ってそれを1本修哉に渡す。
「はい。どうぞ」
「ありがとう。ティア。 俺も早く稼がないとな~」
「シュウヤなら冒険者になったら一瞬で稼げるよ」
ちなみにこの世界の通貨はGで表されお札と硬貨が存在する。一番上から、
金札(1兆G)→銀札(1億G)→銅札(1.000万G)→大金貨(100万G)→金貨(10万G)→大銀貨(1万G)→銀貨(1.000G)→大銅貨(100G)→銅貨(10G)→鉄貨(1G)。
ティア曰く大貴族や大商会でなければ金札や銀札が飛び交うことはめったにない。日常的に多く使うのは大銀貨から下らしい。
「それじゃあ冒険者ギルドに行ってみるか」
「うん。どこにあるんだろうね?」
「誰かに聞けばわかるだろ。 小舟乗りたいな~」
最後の言葉は独り言のようにボソッと言ったが隣を歩くティアの耳にはきちんと届いていた。それがティアからしたら可愛いと感じたのか微笑む。
「ふふっ。あとで乗ろうね?」
そうして2人が冒険者ギルドを探していると横道から3人ほどの子供が走ってきた。
ダダダダッ!
「どいてっ!!」
「おっと」
まるでなにかから逃げるように必死な表情で走っている子供たち。それが気になった2人は子供たちが出てきた細い通路に入っていく。
「なにかあったのかな?」
「わからないけど、とりあえずティアは俺の後ろにいて。さすがに街中で海魔法を使うわけにはいかないだろうし」
「うっ。確かに……」
そのまま修哉はいつでも動けるように意識を切り替えて通路を進む。するとなんどか曲がった先にあったのはいくつかの転がっている大人の男たちとたった一人立っている獣人族と思われる女の子。推定年齢は十代後半~二十代前半ほど。
「これは…」
「なにがあったんだろう?」
その惨状に訳を知っていそうな獣人族の女の子に話しかけようとする修哉とティア。しかし2人の声に反応したのか女の子は修哉たちのほうを向く。
その眼に宿っているのが憎しみの感情だというのは修哉にも理解できた。
「お前もか!!」
ダッ!!
怒りの声を上げ修哉へと襲い掛かる女の子。それに対して驚きはあったものの修哉も瞬時に気持ちを切り替える。
「(速い!!)」
その速度はとても人が出しているとは思えないほどに速い。一気に修哉の懐に侵入する女の子は素手であり武器を持っていそうにはない。しかし修哉の究極能力【直感】が激しく警鐘を鳴らす。
「ハア!!」
ガゴン!!!
なんとか槍で受けることができたものの修哉は吹き飛ばされた。
「シュウヤ!?」
「大丈夫。ティアはちょっと離れててくれ」
ティアを危険から遠ざけ修哉は女の子と向き直る。
「(とんでもない威力だった。一瞬だけど手が痺れたな。たぶん神話級のこの槍じゃないと壊れてたかも)」
内心でその身体能力の高さに驚愕している修哉は女の子に対して会話を試みる。
「なんで襲ってくるんだ!俺はただ!『なんでだと!?』っ!?」
修哉の言葉は女の子の怒りによって遮られる。彼女は頭に血が上り冷静さを欠き正常な判断ができないでいた。
「あたしは貴様らのようなクズが大っ嫌いなんだ!非戦士の女・子供という弱き者を攫い!世界的に禁止されている奴隷として闇で捌く!人を人と思わないその悪の所業!貴様らに母様は!!」
そこで修哉は先ほどの逃げていた子供たちや倒れている大人たちを見て大体の状況を理解した。自分が人攫いの一味だと勘違いされているということを。
「待ってくれ!?俺は!?『悪の言葉を聞く耳は持たん!!』っくそ!?」
ダッ!!
そこから繰り出される女の子の拳と蹴り。それらは洗練とされていて速く・重く・鋭い。半面として修哉は誤解を解くために守り一辺倒。さらに道が細くまともに槍をふるえない。
「(くそっ!?なんとかしないとこのままじゃあ俺がまずい!?でも攻撃するわけにも!?)」
「理解したぞ!その強さ!貴様が奴らのボスだな!ならばあたしがこの手で貴様を殺し!彼女を解放する!!」
「っ!?」
そう言った後の女の子の気配の変化に修哉は決意する。
「八卦・獅拳!!!」
至近距離から放たれる銀色に輝く拳。それに対して修哉は遅れてほぼゼロ距離から神速の居合を繰り出す。
「居合抜槍!」
ギュン!!
「がっ!?」
ドゴーン!
吹き飛ぶ女の子。2人の技の勝負は遅れて繰り出した修哉の勝利となった。居合抜槍とは速度特化の槍術。連発は不可であるがその速度についてこれない人物は身体に穴を開けることになる。しかし今回は修哉の工夫によりそうはならなかった。
「シュウヤ!あの子を殺したの?」
「いや。さすがに勘違いで殺したくないから直接は突いてないよ」
「??」
頭上にハテナを浮かべるティアに指をさす修哉。その先に転がっていたのはかつて修哉が戦利品としてポケットに入れていた黒鋼亀の甲羅の欠片。修哉は直前でそれを投げ突くことで女の子を殺さずに吹き飛ばすことに成功した。
「ねえ修哉?多分あの子って……」
「うん。 これで冷静になってくれればいいけど」
しかしその修哉の思いは女の子に届かなかった。
「ぐっ……。 私は負けない。強くならなくちゃいけない。二度と私と同じ思いをする人が生まれないために……。 お前らなんかに!お前らなんかに!!」
ダッ!!!
「やっぱり無駄か!?ティアは後ろに!」
修哉がティアに後ろに下がるように言おうとすると迫る女の子に対して修哉を庇うように前に出て両手を広げる。
「ティア!?」
「私は奴隷じゃない!シュウヤの仲間だから!」
ピタッ
「へ?」
奴隷にされていると勘違いした女の子はティアの言葉によって立ち止まり説得に応じるだけの冷静さを取り戻した。こうして修哉の初の対人戦はなんとか引き分け?で終えた。
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