第4話 海魔法
--転生6日目--
2人が出会ってから翌日。共に森を出るために川沿いを歩いていた。
「とりあえず川沿いを下りていけば迷うことはないと思って進んでるんだけど」
「あとどれぐらい進んだら森を出れるのか分からないもんね」
「そうなんだよな〜」
ちなみにこれから仲間となることが決定したため修哉の頼みによってティアの敬語がなくなった。
「ティア。ちょっと試したいことがあるんだ」
「試したいこと?」
「うん。俺のギフトに関しては昨日説明したと思うけど」
修哉は自身のギフトの詳細までティアに話していた。
「経験値無限が俺以外にも通用するかを知りたいんだ」
「経験値無限って……私が受けてもいいの?」
「もちろん。俺としてもできるかどうかを試せるからメリットはあるし。そもそも俺から提案してるしね」
ちなみにティアの持つスキルは一般能力の水魔法のみ。ほかにスキルは存在せず希少能力すら持たない。それはどれほどに厳しく鍛錬を続けさせても一向に希少能力に進化せずほかの魔法系のスキルも発現しないことから父親の命令で魔法鍛錬以外には一切なにもさせてもらえなかったから。しかしそんなティアだからこそこの修哉の提案はありがたかった。
「それじゃあ……お願いしてもいい?」
「もちろん。それじゃあ……どうやろうか?」
当然ながら他人に対して経験値無限を使用したことのない修哉はその方法がわからずに思案する。そしてとりあえず手を握ってみることにした。
ティアの両手を握り胸の高さにまで持ってくる。
「それじゃあやってみる」
「うん」
若干緊張している修哉。しかしそれ以上にティアのほうが内心ではソワソワしていた。それは"もしかしたらこれで魔法のスキルが進化するかもしれない"という淡い希望から…ではなく単純に年が近い異性と手を繋いだのが初めてだったから。
「(わ、わたし…男の子と手を。しかもこんな顔が近くに。 ど、どうしよう!?顔は赤くなってないかな!?ってそうじゃないでしょわたし!?シュウヤは真剣なのにわたしだけこんな邪なことを!?)」
などと内心でソワソワオドオドしているとシュウヤから声をかけられても気づかなかった。
「ティア?お~いティア~?」
「ハッ!? ごめんなさい。考え事してたかも」
「そうなんだ? それでなんだけど経験値無限のほうは成功したと思うんだけど?どうかな?」
「へ?」
呆気にとられるティア。急いでステータスを確認するとそこには確かに変化が起こっていた。
-----
名前:ティア・エルドナ
種族:人族
年齢:22歳
究極能力: 【海魔法】new
-----
それまでは一般能力【水魔法】だったところが究極能力【海魔法】に進化していた。それは父親に魔法の才能がないため見限られたティアが世界トップクラスの実力者になった証でもあった。
「うそ……本当になってる……」
その結果に呆然とステータスを眺めるティア。しかし修哉はその様子をどう受け取ったのか少し申し訳なさそうな表情で謝罪する。
「ええっと……もしかして本当は使ってほしくなかったかな?自分の努力でたどり着きたかったみたいな……だとしたらごめん。最後に聞いたんだけどティアから返答がなかったから……」
「あ!?違うの!? 確かに自分でたどり着けるんだったらそっちのほうがよかったのは事実だけど、それが無理だったからいま私はここにいるから……諦めてたから。 強くなるのも……生きるのも……」
「……ティア……」
ティアはそう言いながら流れる涙を拭い笑顔でお礼を言う。
「ありがとう。シュウヤは私のヒーローだね」
「っ!?」
修哉はその笑顔に心が動き出した。しかしそんないい雰囲気の2人に対して魔獣が押し寄せる。
「グアアア!!」
バキバキバキ!!
雄たけびを上げ木々を破壊しながら2人のほうへ向かっているのはサイの魔獣。強さとしては第二位階【災獣】となる。
「しまっ!?」
完全に心まで油断していた修哉。急いで迎撃しようと槍を構えようとするがそれを制するようにティアが一歩前に出る。
「あなたで試させてもらうね……水玉!!」
ティアとしては水魔法のなかでも初歩に覚える簡単な魔法。水を球体上にして放つそれを海魔法でやってみたのだが結果として放たれたのは大津波だった。
ザバーン!!
「グアアア!?」
「ウキキキ!?」
「フゴフゴフゴ!?」
それはいくつかの魔獣を巻き込んでいくつもの木々をへし折ってまるで嵐が通過した後のような跡となった。
「「………」」
これには修哉はもちろんティア自身も呆然と自身が起こした惨状を見つめ続ける。
「……水玉ってこんな魔法なのか……」
「……ちょっと……だいぶ鍛錬が必要みたい……」
なにはともわれこうしてティアは修哉の力によって究極能力【海魔法】を取得した。
/////
それから2人は修哉の提案によりティアが川の水を操作することで川を高速で下る。ティアの海魔法のコントロールミスによりいくども溺れる経験をした2人はなんとか数時間という時を費やして森を出ることができた。
「「うおおおおお!!」」
まるで獣のような雄たけびを上げる2人。それほどにティアの海魔法での森脱出は過酷を極めた。
「はあはあ。 そうだすぐに水を取るね。脱水」
そうティアが唱えるとずぶ濡れだった修哉から水が抜けていく。
「まさか一番最初に覚えた魔法が水分をとる魔法になるとは」
「ちゃんと鍛錬しないと。このままだとほかの人を巻き込んじゃう」
「まあでも大丈夫だよ。川下りも最後のほうになると安定してきてたし」
「そうだといいんだけど」
やはりまだ自信がなさそうなティア。そんなこんなで2人は森を出て草原を歩き道に出ることができた。いくつかの馬車が行く方向へと向かっていると修哉からしたら初めての異世界の街並みにたどり着いた。検問している兵士にティアが所持していたお金で2人分の料金を支払う。
「ようこそ!水の都ランティス公国に!」
修哉とティアがたどり着いたのは街中にいくつもの川が流れ街中を小舟で行き来することができる水の都と呼ばれるランティス公国だった。
読んでくださりありがとうございます!
もし少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆をつけてくれるとそれが作者の描き続ける原動力となります!よろしくお願いします!