第3話 ティア・エルドナ
川を下りながら歩くこと十数分ほど経過。
「シャー!!」
修哉の死角から突如として飛び出し襲いかかる蛇。しかし【直感】と木の槍を持つ修哉にそれは通用しない。
「シッ!」
槍はしなりながら弧を描き蛇を貫いた。
「ふう。気配察知を進化させといてよかった」
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名前:影蛇
ランク:第二位階「災獣」
説明:影に潜み死角から噛み付く。その気配は察知困難として有名。猛毒を持ち噛まれたら苦しみ死亡する。
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さらに川を下り続けると修哉は川に浮かぶ女の子を発見した。見た目的には歳の頃は二十歳前後といったところだろうか。
「人が! でもあれって……死体、とかだったり?」
人に出会えたことにテンションが上がった修哉。しかし川に浮かんでいる様子とこの魔獣の出る森に死体では?と考えて顔が歪む。
「死体だとしても…確認は必要か…」
修哉は意を決してその女の子に近づく。すると見たところ怪我らしき場所はなく呼吸も確認。
「ただ気絶してるだけかな?」
陽も暮れ始め気絶しているらしき女性もいるということで修哉はその日の移動を終了。ひとまず川から女の子を陸にあげて川の近くで焚き火を作り温める。
さらに川魚2匹を槍で一突き。串を作り焚き火で焼く。さらに鍋を作り川の水を汲み煮沸。
「ついでにコップも作っとくか」
そんなこんなをしていると川魚の焼き上がる匂いによってか焚き火により温まった影響か女の子が目を覚ます。
「うう……わたし……どうして……」
目が覚めたばかりだからかまだ脳が覚醒していないのか状況を把握できていない様子の女の子。そこに修哉が声をかける。
「君は川に浮かんでたんだよ。覚えてる?」
「っ!?」
修哉の存在に気が付いていなかった女の子はその声にビクッとする。それを受けて修哉は女の子を落ち着かせるべく鍋から煮沸したお湯を渡す。
「落ち着いて。これでも飲んで。身体の中からあったまったほうがいい」
「あ、ありがとうございます」
女の子は驚きながらも手渡されたコップを受け取り飲む。
ゴクッ
「ふう……助けていただいてありがとうございます。 私はティア・エルドナと申します」
「俺は河合修哉。よろしく」
「シュウヤさん?変わったお名前ですね?」
「あ、ちなみに苗字が河合で修哉が名前ね」
そんな自己紹介中に焼き上がった川魚を串から外して皿に乗せてルップをスライスして添える。
ゴクリ
ぐうー
出来上がった料理にティアが釘付けとなり腹を鳴らす。それにティアは顔を赤らめる。
「す!?すいません!?あの!?その!? あう〜……」
恥ずかしそうにするティア。顔を両手で隠す。
「はは。どうぞ。これは君のぶんだから」
「いい、んですか?」
「ああ。俺のもちゃんとあるから」
そうして修哉はティアにナイフとフォークも渡そうとしたがお腹が空きすぎていたのかティアは手掴みでガブリつく。
「おお……まあこんな環境でナイフとフォークで食べるのは違うか」
ということで修哉もティアに習って手掴みで魚を食べる。
十数分後に川魚を食べ終え落ち着いたティア。そこで改めて修哉はティアに話を聞くことに。
「ありがとうございますシュウヤさん。シュウヤさんがいなかったら私は死んでいたと思います」
「よければなにがあったのか聞いてもいいかな?」
そう修哉が問いかけるとティアは悲しそうな表情となり自身について説明した。
「……私の魔法帝国アークのエルドナ公爵家に生を受けました……魔法帝国アークはシュウヤさんも知ってるかと思いますが、魔法至上主義であり特に貴族の中でも高位貴族ほど魔法の才能が重要視されます……」
魔法帝国アークのことを当然知ってるかのように語るティアだが異世界人である修哉が知るわけもない。だが空気を読んで黙ってティアの話を聞く。
「しかしそんな国の公爵家という最高位貴族に生まれながら私には魔法の才能がなかったんです。 私は次女ですから。お父様からしたら私は所詮優秀なお姉様のスペアなんです。だから私は追放されました」
「……追放……」
コクン
「私はお姉様に伝説級の転移玉を使用されてこの森まで飛ばさたんです」
「そんなことが……お父さんだけじゃなくてお姉さんにまで……」
そうしてこの森にやってきたティアは3日ほどが経過。飲まず食わずで第三位階「王獣」の青小鬼に追いかけ回され吹き飛ばされたことで川で気絶していた。これがティアの簡単な経緯のようだ。
そうしてティアの話の次として修哉が自身の話をする。
「それじゃあ次は俺の話を聞いてくれるかな?」
「もちろんです。修哉さんはどうしてここに?」
「俺は実は……こことは別の世界から来たんだ」
「別の世界?」
修哉は軽く異世界転移した経緯を説明。ゲームを説明するも理解するか分からないため気がついたらこの森にいたとした。そしてギフトについても。
「────っていうことなんだ」
「……そうだったんですね。まさか異世界の方だとは……」
「信じてくれるのか」
「もちろんです。私は修哉さんに嘘はないと思いました!」
自信満々にそう告げるティア。修哉がほかに異世界人などを知ってるのかと問うと、どうやら過去に修哉と同様にこの世界に迷い込んだ異世界人が存在したらしい。
「異世界の方々は誰もが優秀な方々であったらしいと歴史の授業で習いました」
「ちなみに異世界人なら誰もがギフトを持ってたのか?」
「いいえ。ギフト持ちもいらっしゃったようですが必ずしもそうであった訳ではないようです」
「そうなのか」
それからティアが軽くこの世界について説明。ステータスのことや種族や魔獣など。大体は修哉も情報として知っていたことだったが、この世界の住民からの説明にますます異世界を実感する修哉。
「この世界で第二位階や第三位階の魔獣はあまり現れない存在なんです。それがこうも連発して現れるということはおそらくここはメルト中央森林だと思われます」
「この森は有名な森なのか?」
「はい。ここは大陸の中央に存在する広大な森であり第二位階【災獣】がウヨウヨと存在する地獄のような環境に通称:禁忌の森と呼ばれています」
「地獄……禁忌の森。 とんでもない場所に転移したんだな……」
今更になり修哉は5日も生きている自身を内心で褒め称える。
「ティア。俺はこの世界のことを何も知らない。だから一緒に旅をしないか?」
「旅……。 ですが私が一緒にいたんじゃ迷惑をかけるかもしれません。 私は弱くなにも出来ませんから」
そうティアは笑顔で修哉の差し伸ばされた手を拒否した。ティアの心は父親からの罵倒によって縛られていた。
「迷惑ならいくらでもかければいい。俺はティアと一緒にいたい」
「……シュウヤさん……。 それは告白ですか?」
「へ?……いやいや!?そんなつもりで行った訳じゃないよ!?もちろんティアは美人だし付き合いたいけど!?いやなに言ってんだ俺!?」
ティアに指摘されて大慌ての修哉。そんな修哉を見てティアは微笑みを浮かべる。
「ふふっ。慌てすぎですよシュウヤさん」
そうしてティアに笑顔が戻り2人は共に旅をすることになった。
ティア・エルドナ:22歳。
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