65話:指パッチン
ブルー「レッド…残り1分30秒。」
レッド「あぁ?げっ!!イエロー起きたん?」
イエローを見て焦るレッド。その様子を確認したピンクがブルーの残念発言の意味を理解した。
レッドは指を軽く鳴らし、足を半歩だけ引く。まるで“次の一撃の軌道”を、レッド自身が先に描いているようだった。
影7体が一斉に跳んだ瞬間――
レッド「ここや!!」
高速で懐に潜り込み、右から迫った影の腹にアッパーを叩き込む。
バチィィン!!!
影が一体、破裂するように消滅。
レッドはその破片すら踏み台にして跳び上がり、空中で身体を捻って叫んだ。
レッド「連★撃★爆★走ッ!!」
空中で両腕を突出し6体のうち3体へ同時に突き下ろす。
ドガァァァァッ!!
石畳が陥没し、影3体が同時にノイズ化して消滅。
ピンク「ちょっ…!4体同時!?何そのインチキみたいな火力!」
俺「貸与遮断+第二形態の相乗効果や……!影がカーネル干渉しても、レッドは“物理で隔離されてる”から影響が届かん!」
残り3体。
影たちは、わずかに滲むような動きで包囲を狭めてくる。
レッド「ようやく“戦う顔”になったやんけ。ほな、次で決めたる!」
ブルー「レッド……残り45秒。」
ピンク「焦らないでレッド!今のあんたなら全然――」
その瞬間だった。
影3体が、まるで糸が切れた操り人形のように“同じ角度”で傾いた。
俺「……え?」
影たちの“背中の向こう”櫓の頂上で揺れていた“何か黒いもの”が、すっと動いた。
ブルー「……本体、指示変えた。」
影3体は一切の予備動作無しに、レッドへ“直線”で飛ぶ。
レッド「速ッ!?さっきまでの比やないぞ!!」
俺「レッド、下!!」
レッドは思い切り身体を沈めて床を蹴る。
しかし――
影3体はレッドの動きを先読みしたかのように“着地地点の空間そのもの”を切り裂いた。
ズズッッ!!
空間がノイズ状に歪み、レッドは衝撃で吹き飛ばされる。
レッド「ぐっ……!!くそ、こいつら……!」
俺「……実行権限が変わった?影たちは今、本体から“仕様変更”を受けてる……。」
ピンク「つまりどうなるのよ!?」
ブルー「物理干渉…“適応し始めている”。」
俺「最悪や……戦闘AIみたいに学習してるってことか……!」
影3体が、レッドの向こうで“形を変えながら”立ち上がる。
輪郭が崩れ、歪み、ノイズの濃度が増していく。
まるで――“カーネルそのものの影”。
レッドは拳を握り直し、口角を上げた。
レッド「おもろいやんけ……!」
ブルー「レッド……残り15秒。」
レッド「じゅうぶんやッ!!」
レッドが再度突っ込もうとしたその瞬間――
イエロー「お疲れちゃん。眠たい目、擦りながら俺の勇姿をちゃんと見とくんやでワハハハ。」
俺「……!!」
ピンク「え?……!」
ブルー「……やっぱり。」
イエロー「……あぁ〜、よう寝たわ。で、カーネルおじさんと対峙中と。」
レッド「くっそ~!お前また美味しいとこもって行く気かえ?」
イエローはニヤリと笑いレッドの肩を軽く叩く。
その瞬間、レッドの身体の周囲の“仄赤いグローブ”が晴れた。
イエロー「あ~ハイハイ、時間切れやレッド。あとはワイがやっとくから、お前ちょっと下がっとき。」
レッド「は???」
影3体が一斉にイエローを認識し、距離を詰める。
しかしイエローはあくびをしながら、
イエロー「第二形態は…ならんでええな…」
静かにつぶやくと、ブルーもつぶやいた。
ブルー「イエロー…キャラ変?……かっこいい。」
影3体が一瞬で動きを止めた。
ピンク「何が起きたの?」
イエローは薄く笑った。
イエロー「ほなさいなら。」
影3体へ、指を指す――
指パッチン。
瞬間。
3体の影が、一度に崩れ落ちた。データ片となって消えていく。
世界が静まり返った。
残りは――櫓の頂上の“本体”ただ一つ。
イエロー「ほな、電柱。次は本体やな。」
ユグドラ祭町の喧騒が、まるで嘘みたいだった。
影の残滓が霧のように散っていく中、
俺ら四人と――櫓の頂上に佇む“本体”だけが静かに呼吸していた。
レッドは肩で息をしながら、イエローの背中を睨む。
レッド「……お前、毎回毎回ええとこ全部持っていきよるな。」
イエロー「しゃーないやろ。主役は最後に登場するんがセオリーや。」
レッド「誰が主役やねん!!」
ピンクはホッと胸を撫でおろし、ブルーは既に“次の波形”を読み取ろうとしていた。
レッドは寝た。
俺は、櫓を見上げながら呟く。
俺「……イエロー、ひとつ確認してええか?」
イエロー「なんや電柱。」
俺「さっきの……指パッチン一発で3体同時に落としたやつ。 あれ、どういう仕組みや?」
イエローはフフン笑い、背伸びしながら答える。
イエロー「仕組みなんかないで。分析・解析・弱点特化や。」
ブルーが目を細める。
イエロー「お前ら見えてるもんに気を取られすぎや。あいつは隠れんぼが大好きやろ?」
俺「お前……第二形態ですらないのに、あの影を……」
イエロー「第二形態にならん方が、都合ええ時もあるんや。」
ピンク「どういう意味よ?」
イエロー「レッドがやっとったんは“剛よく柔を断つ”やほんなら俺は“柔よく剛を制す”って言いたいけどこれもちゃう。」
櫓のてっぺんの黒い影が、ゆらりと形を変える。
俺「(くる……!)」
影本体が、音もなく立ち上がった。
空間が震える。 空気が乱れる。 世界が、わずかに“書き換えられて”いく。
ブルー「……イエロー。あの本体……」
イエロー「もう“影”やない。“システムそのもの”や。」
ピンク「なにそれ……どういうこと!?」
俺「アイツ、プロセスじゃなくて“カーネルスレッド”そのものに近い存在になっとるんや……!この世界のルールを司る根幹……!」
ピンク「つまり?」
ブルー「めっちゃ…ヤバいやつ」
イエローは一歩前へ進む。
その歩幅だけで――空間ノイズがサァッと引いた。
まるで世界が“イエローを最優先で描画し直している”みたいだ。
俺「……お前……何やねんほんま。」
イエローは口角を上げたまま、本体を見据える。
イエロー「電柱、あれや。」
俺「何や。」
イエロー「ここまで来たら……殴り合いの土俵ちゃう。“誰がこの世界のルート権限握るか”の勝負や。」
本体が動く。
影より速い。 ノイズより鋭い。
存在そのものが“こちらを上書きしようとして”伸びる。
俺「来るで!!」
しかし――
イエローは微動だにしない。
イエロー「……はい、アウト。」
指先を、そっと前へ向ける。
一切の予備動作なく。
気合も、力も、形態変化もなく。
ただ――“存在で上書きする”。
世界が一瞬白く跳ねた。
バチィィッ!!
本体の腕――いや、“コードの束そのもの”が弾け飛ぶ。
ピンク「うそ……!?当たってすらないのに……!」
ブルー「……“優先順位”。イエローが今、この世界で最も強い権限を持ってる……!」
レッド「ちくしょう…Zzz。。。」
一粒、キラリと光るものがレッドの目元からこぼれ落ちた。
本体が崩れながら後退し、櫓全体が軋む。
イエローはさらに一歩前へ。
空気が“ひざまずくように”沈む。
イエロー「さぁ本体くん。お前の正体、そろそろ見せてもらおか。」
本体の黒い影が、ゆっくりと形を変えた。
まるで“別の存在”を露わにするように――。




