58話:最高欠作
とあるネットワーク空間――
「まったく…いつもいつも私がいないと青島は何もできないんですよね〜。何が『ポーピ、私は夢見の玉のウラを取ります。ですので電信さんの件、あなたに任せますよ。』だ、仕事を振っている感じに見せてただ私に押し付けているだけじゃないですか。あの男、どうせ今も打合せなんて言いながら喫茶店でコーヒー飲んでサボってるんですよ。きっと…」
一人、毒を吐き続けているオレンジの物体。パノプティコン捜査時の失態、そして青島達への陰での悪口……懲りないオレンジの物体である。
「あ~ぁ、どうせ捜査なんて言って4、5日は私に会いに来ないのだから私も2、3日サボっても問題ないですね。な~にが、『あなたは警視庁の粋を集めた最高傑作。』ですか、無給、無休で馬車馬のように扱われて…やってられませんよ!」
ひとしきりボヤいたオレンジの物体はスッキリした様子で深い睡眠に入っていった。
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青島「ポーピ、ポーピ!」
ポーピ君「『ポーピ、これはあなたにしか頼めない案件だ(キリッ)』とか言ってましたけどね、ただの雑用係でしょ!むにゃむにゃ」
ポーピ君「まったく、影で全部支えてるのは私なんですからね。公安の裏エースはこのポーピですよ。そこの所ちゃんと理解Zzz…」
青島「いい加減に起きなさい!ポーピっ!!」
ポーピ君「はっ!!」
青島「起きましたかポーピ。早速ですが電信さんの件、報告してください。」
ポーピ君「ふぇ?…あ!…はいっ!!」
ポーピ君「(えっ?今、何月何日?どれくらい寝てました私?夢?)」
作者なら脇汗、手汗、脂汗、足の震えが止まらないであろう高緊張状態なのだが…さすがは最高欠作である。
ポーピ君「ふふん、公安の裏エースに任せておけば3秒で解決ですよ。えーっと……検索っと!」
こめかみ辺りに手を当てる、目からGeegleやyappooの検索エンジンモニターが映し出される。
青島「……はぁ~、やはりあなたは――」
ポーピ君「あ、出ました。〇月×日、都内某所で発生した単独歩行者事故。被害者名――電信。」
青島「……今更ながら。」
ポーピ君「ご覧ください!公式ニュース記事ですよ、ほら!え、え、えーと…意識不明ですね?あれ、え?これ、もしかして、もしかしてぇぇぇぇっ!?私、探偵に転職します?才能アリアリですよ!」
青島「……、検索エンジンで済むのであなたにお願いしたんですがね…もう結構ですので、病院を探してください。」
ポーピ君「はーい。」
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"あの人"の兄である会長とアポを取り付けたが、会うまでには時間が掛かる。その間に青島は電信の病院を突き止め面会へ――
――コンコンコンっ!
青島「失礼します。先日連絡させていただきました青島と申します。この度はどうも知らなかったとはいえ会いに来るのが遅くなりまして…」
電信母「いえ、いいんですよ。わざわざ私達の連絡先まで調べてもらって…ありがとうございます。あの~、青島さんは、信とはどういった関係で?」
青島「はい、信さんとは学生時代のからの付き合いでして、ただ最近はお互い仕事が忙しく…久しぶりに会おうって連絡を取り合っていたんです。しかし急に連絡もMINEの既読もつかなくなり……」
電信母「そうだったんですね。信は、小さい頃からお人好しで…人に頼まれると断れない子だったんです。だからでしょうか、今回のことも“巻き込まれたんじゃないか”って…歩きスマホで…電柱と衝突して意識不明だなんて…とても信じられないんです。」
青島「……」
(くっ!耐えろ私、笑ってはいけない。しかし、さすが電柱さんの母親…天然が過ぎます。)
電信母「医者の話では……どこも悪いところがないようで、なぜ起きないのか不思議だと…。けれど……信はきっと大丈夫です。この子、弱いようで芯は強い子ですから。」
青島「……そうですか。心中お察しします。私も状況は見守らせていただきますので。」
電信母「わざわざ……本当に、ありがとうございます。」
青島は病室の扉越しに、眠り続ける電信を一瞥した。
その姿を見届けると、深く一礼して静かに病室を後にした。




