52話:使い手に悪意が宿れば…
パンジー消失直後、俺の話を一人離れた所で聞いていた、重い空気の中ひとり佇むJr.…
Jr.「(なんでやろな……俺、なんであの時パンジーに手出したんやろ……)」
拳を握ったまま、宙を見つめる。
Jr.「(“痛み”を分からせるため? ちゃう。“俺のやり方”を見せるため? ちゃうやろ……俺自身が……分かりたかったんや、たぶん。あいつの“心”ってやつを……)」
俺はゆっくりとJr.に近づいた。
俺「Jr.」
ゆっくりと振り返る。
Jr.「そのタグ、俺にくれんか?」
一瞬、空気が止まった気がした。
俺「…お前、あの子のこと――
Jr.「何でパンジーはシスモンになったと思う?シスモンの能力から考えたらわかるやろ…」
【System Monitors(略:シスモン)】
システムモニターは、コンピューターの状態を常に見張って記録するツール。
たとえば──
・CPUがどれくらい動いてるか
・メモリやストレージの使用量
・温度やファンの回転速度
・ネットの通信量
・どんなアプリが動いてるか
など、あらゆる動作を“数値”としてリアルタイムで監視する。
Jr.「シスモンってな、元は“System Monitor”──コンピューターの中を監視する装置や。CPUの動き、メモリの残り、ネットの流れ、温度……全部、数値で記録する。リアルタイムで、ひたすら見張る。」
俺「でも、“なんでそうなったか”までは分からん。ただ、目の前の数字を眺めるだけ。」
Jr.「パンジーもそうやったんや。自分の主人の“心”を──いや、“壊れていく様”を、ただ見守るしかなかった。手も出せへん。触れることもできん。ただ記録するだけや。せやのに、あの子は……」
俺「……ゼロに利用されたんやな。」
Jr.「優しかったんや。だから、シスモンになってもうた。」
バグでもウイルスでもないありふれたシステム。しかし使い手に悪意が宿れば恐ろしいものに変わる。
ブラック「Jr.……」
Jr.「むしゃくしゃするわー。なんやねん。お前らとおったらろくな事にならん。」
イエロー「は?意味分からん?」
Jr.「勝負せえや。前のリベンジや!決着つけようや!!」
――その瞬間、俺は一歩前に出た。
俺「……ええ加減にせえや、Jr.。」
空気がピキリと凍る。
俺「今からする勝負になんの意味があるねん?お前の持っていきようのない憂さを晴らしたいだけやろうが、何でそんなもんに俺等が付き合わなあかんねん?」
Jr.「……なんやと?」
俺「俺等で憂さ晴らししてそれで終わりか?お前のそのむしゃくしゃは俺等に向けるもんか?ちゃうやろ?どこや?言うてみい?」
ブラック「(電柱…)」
Jr.「…俺や。違う、ゼロや。」
俺「そうや、パンジーの心を踏みにじったゼロや。」
Jr.「分かった。でもゼロをぶっ飛ばしたら決着をつけるからな。」
俺「おう──決着つけようや。」
パンジーのタグを、そっとJr.の掌に押し当てる。
ブルー「いい感じに、……話まとまった。」
イエロー「ようやったで。電柱、Jr.」
レッド「保護者かwww」
ピンク「ところでさ?ブラックとJr.…何でふたりでいたの?」
――小さな疑問がぽつりと落ちる。
次の爆弾の予感を残したまま、空気が一変する。




