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51話:ひとりにしないで

Jr.の拳が炸裂した直後――


膝をついたまま、頬に触れる


シスモン「……!!これは、“痛み”……?」


わずかに震える指。視線が揺れる。まるでデータと現実の齟齬に戸惑っているように


Jr.「……どや?分かったか、俺のやり方。」


シスモン「これは……“記録”できない……。記録しても、“理解”できない。これは……何だ……」


静かに首を横に振る

──瞬間、シスモンの瞳がバグを起こしたように赤く点滅し始める。


『私の居場所はもうここにしかなかったのに……リアルでもここでも心を殺さなきゃいけないないなんて……』


空間に声が響く。

シスモンがじわじわと黒い光を帯び始めた。


Jr.「なんや?どうしたんや?」


ブラック「俺たちと同じだ。思い出したんだ。」


シスモン「心は、不要だ。不要なはずだった……!」


黒い光が渦巻く。コードのような文様が彼の肌を這い、全身を蝕むように広がっていく。


──次の瞬間。


シスモン「痛い……けど、これじゃない。痛みなんなんてもう感じなかった。私は…私は──怖い。怖いんだ、私は……!」


ブラック「思い出したようだな。」


黒い光が収束したそこにはセーラー服姿の女の子…


Jr.「お前、女やったんか!!」


「ええ、思い出した。私の主人はずっと孤独だった。リアルからフルグラに逃げていたの…」


ブラック「お前の名前は?」


静かに首を横に振る。


「言いたくない…もう、疲れた…」


ブラック&Jr.「……」


ブラック「所詮、俺たちは主人の一部に過ぎない…ちょっと待ってくれないか?お前に会わせたい人がいるんだ」


瞬間転移で通信ができるフルグラ外まで一気にとんだ。



---


ベースノード――


ブラックからの通信を受け取り一大事だと理解する。


俺「皆ちょっと聞いてくれ!ブラックからの通信なんやけど、ゼロのネームドが一人記憶を取り戻したみたいや。」


イエロー「ブラックやるやん。」


ピンク「行くの?」


俺「あぁ、何があるか分からん。何でかJr.もおるらしいしな。」


ブルー「Jr.…」


レッド「気を引き締めなな。」



---


ブラックの指定した座標から隠れ里へ。


俺「電柱じゃなかったら、懐かしさと嬉しさで涙の池ができてるわ……」



広場に、俺たちが到着した。


レッド「ここか……あれがネームド?」


ピンク「セーラー服の……?」


イエロー「女の子やんけ。あいつが“シスモン”ってやつ? ちゃう、今は──」


「……もう名前はいらない。」


俺「……君は、本当にゼロのネームドだったのか?」


「……そう。でも、ずっと観てた。心って、曖昧で……でも閉ざした。」


俺「たぶん、君の名前知ってるわ…Jr.と違う意味で有名人や。」


「だったら分かるでしょ…この世界は、ゲームやアニメなんかよりよっぽど悪辣な世界…」


レッド「なんやねん?俺等にも分かるように説明――


ピンク「レッド黙って。電柱、私たち向こうで待ってるね。」


俺「あぁ、すまん。ありがとう。」


ピンクたちが離れ、2人きりになる。


俺「…君の名前はパンジーやんな?」


パンジー「ええ、そうよ。私のことを知ってるんだったら私の主人の事も知ってるでしょ?」


俺「ああ、知ってる。『三色みしき すみれさんやんな。でもパンジーまであっちに行かんでええやん。これからやで?」


パンジー「いいえもう疲れたの。誰も信用できない、心を開かないわ。でも孤独はもう嫌なの。ゼロに使われるのも…」


俺「菫さんのところに行くって決心は変わらんのか?」


パンジー「……ええ。」


俺「わかった。最期に1つだけ言わせてくれ。菫さんもパンジーの事も、俺はしっかり覚えとる。俺だけやない。酷い書き込みの裏で2人に励ましや応援のメッセージもいっぱい送られてた。そのメッセージを送ったやつらは絶対に2人のことを忘れてない。1人じゃなかったってことだけは菫さんにも伝えて欲しい。」


パンジー「ありがとう。最期に会えたのがあなたでよかった……」


そう言うと、パンジーは静かにデータ片となって消えていった…俺の足元に残されたひとつのネームタグ


【PANSY_Pure love】


俺「忘れへんで。」



---


電柱の元に皆がやって来た。


ピンク「彼女、行っちゃったの?」


俺「ああ、説得は無理やった。」


イエロー「電柱お前あの子の事情知ってるような感じやったな。」


ブルー「電柱。…説明する。」


俺「ああ、そうやな──ちゃんと話すわ。」


俺は、皆に背を向けていた足をゆっくりと返した。手にはまだ温もりの残るような、小さなネームタグ【PANSY_Pure love】を握っていた。


俺「パンジー……いや、“彼女”は、三色みしき すみれって子のアバターや。」


彼女は、リアルの世界でいじめを受けていた。

母親ひとりに育てられていたが、「迷惑はかけたくない」と、いつも笑顔を貼りつけて、何でもないふうを装って学校へ向かった。


そんな彼女にとって、唯一心が休まる場所が──フルグラだった。

仮想世界。誰にも傷つけられず、誰も傷つけずに済む、安全な空間。

そこでは、コミュニティやギルドの仲間たちと心を通わせ、

ようやく「居場所」と呼べる場所を見つけた。


──けれど。


ある日、学校でスマホの画面を覗き込まれ、フルグラのアカウントが、いじめグループに晒された。


彼女の「避難所」は、現実世界の悪意に踏みにじられた。匿名掲示板には、誹謗中傷、嘘八百、無数の書き込みが並び、リアルでもネットでも、彼女の逃げ場は一つ残らず消えていった。


応援のメッセージを送る者もいた。

「君の味方や」「気にするな」と言葉を送った者も、確かにいた。

──でも、彼女の心にはもう、何一つ届かなかった。


しかも当時、フルグラは“世界初のMMO”として話題になっていた。

テレビは連日騒ぎ立て、ワイドショーは面白おかしく取り上げた。

やがて、家の前にもマスコミが押しかけるようになり、彼女が何よりも隠しておきたかった「現実」が、母親にも知られてしまう。


それが、最後の引き金だった。


自暴自棄の果てに──

彼女は、自傷行為を繰り返した末、誤って動脈を切り、そのまま命を落とした。


ピンク「そんな……」


ブルー「……」


俺「さらにマスコミは母親にも取材と称して心無い質問をしまくったんや。そして、自らの手で命を絶った……」


イエロー「やりきれんな…」


俺「パンジーって"愛する人を想う花"って意味やねん。菫さん、お母さんからめちゃくちゃ愛されてたんやと思う。」


ピンク「フルグラで名前をパンジーにしたのって…」


レッド「"ひとりにしないで"もう一つの花言葉や…」


俺「…せやな。せやのに、誰も助けることができんかった。」



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