50話:心とは、生物の錯覚
Jr.「よろしくなシスモン。」
ブラック「よし、これで俺たちは仲間だ。シスモン教えてくれ、何処からJr.を観察していた?」
シスモン「ブラックに教えられた座標の隣町でJr.を見つけた。そこからずっとだ。」
Jr.「そら命令やから俺のこと付け回しとったんは分かるけど、もうお前ストーカーやぞ?俺みたいな可愛らしい男の子を…自覚あるか?」
シスモン「ストーカーという意味は理解している。“執着”や“私情”の干渉がある対象者への過干渉……だろう?」
Jr.「おお、よう分かっとるやん。でもお前、感情無しでようストーカーやれるな?才能か?」
シスモン「感情は不要。任務の完遂が最優先。“心”はエラーのもとだと定義している。」
Jr.「お前、それ……今この空気で言う?ここ誰の葬式や思てんねん。」
一拍、静けさ。
ブラック「とりあえず場所を変えよう。この場で話していい内容じゃない。」
3人の身体が光りに包まれ、リーフ・パレスの外、静かな広場まで瞬間転移する。
ブラック「……なぁ、シスモン。お前、本当に“心”がないって思っているのか?」
シスモン「心とは、生物の錯覚だ。」
ブラック「シスモン。お前の観察ってのは──どこまでやるつもりだった?」
シスモン「ゼロがいいと言うまでだ。行動、感情、選択、交友関係……それらを記録し、報告する。」
Jr.「あんまし気分ええもんちゃうで?俺がちょっと泣いたり笑ったりしたら“対象、笑った”とか記録されるんか?」
シスモン「当然だ。」
ブラック「……」
Jr.「へぇ〜、なら今のも記録しとけ。“対象、腹立った”。──ついでにもう一個。」
──風が止む。
Jr.「“対象、ブチ切れた”。」
シスモン「反応確認。戦闘状態か?」
ブラック「(……ダメだ。こいつ、やるきだ。)」
Jr.「お前が感情ないんやったら、喧嘩もよう分からんやろ?教えたるわ、これがイラついた時の一撃や──!“スピット・スタート”!!」
口元から魔法円が高速回転し、圧縮した音塊を吐き出す。
バシュッッッ!!
シスモンは無感情に横にスライド──“当たらない角度”を既に演算していた。
ブラック「(なんだ?最初から読み切っている!?)」
シスモン「無駄な感情の動きからの予測は容易い。」
Jr.「──じゃあ、これはどや!」
──二撃目が届く寸前、音の跳ね返りを利用して空間を“たわませる”。
ブラック「“ディストーション”か!!」
シスモンの足元がズレ、無機質な体が一瞬だけバランスを失う──!
ブラック「(面白い……これは“戦闘”じゃない。心があるやつと、ないやつのぶつかり合いだ)」
風が止み、時間が“切り分けられた”ような静寂。
シスモンの足がズ……と後退する。
ブラック「(下がった?……いや、間合いを取った。次はあいつが動く番か)」
──その瞬間、空間が弾けた。
まるで“ネットワーク空間”そのものを引き裂くように、シスモンの指先から光が走る。
シスモン「“エンコード・エッジ”──情報干渉、展開」
空間を解析した刃がジグザグに走る。数式めいたラインが走り、Jr.の動きの“先”を狙って斬り込む。
Jr.「(先読みか……ほんま、やっかいやな!)」
咄嗟に跳ぶ──が、跳んだ“先”に刃が現れる。
ブラック「(予測の上を読んでる!?)」
寸前、Jr.が胸元を叩く。
Jr.「“オーバーサウンド”──!」
──空間が鳴る。高周波によって座標そのものが“ズレる”。
刃は空を切り、草花だけが静かに散った。
ブラック「(こいつ……アクションに“心の癖”がある。シスモンに読まれてる。でも…)」
ブラック「なぁ、シスモン。お前の“記録”には、今のJr.の鼓動、記録できてるか?」
シスモン「鼓動の変化は確認済み。だが──意味はない。」
ブラック「そうか?俺には聞こえるぞ。“次は負けへん”って言う声が。」
一歩前へ出てJr.の顔を見る。
Jr.「……!」
シスモン「“心”に意味はない。戦闘において、優先すべきは──」
Jr.「うるっさいんじゃボケェェェ!!」
再び、Jr.の魔力が爆ぜる!
Jr.「お前が演算して動くなら、こっちは感情だけで突っ走ったるわ!!──“スピット・ブレイカー”!!」
口から放たれた魔力弾が空中で分裂。複数の軌道を持って襲いかかる!
シスモン「……!!」
読み切れない“ノイズ”が交差する。演算が遅れ、初めて──シスモンが“動きの選択肢”を迷った。
その一瞬、
Jr.「──もろたで!!」
拳が──シスモンの頬に、炸裂する。
バチィンッ!!
無音。
木々の葉が揺れ、散り、空気が撓んだ。
シスモン、地に膝をつく。
Jr.「な?“心”は、ノイズちゃう。“熱”や。」




