47話:フルグラストリート
電柱へ連絡を入れるブラック。ベースノードへ戻ってからガイシたちとピンクが揉めていると教えられた。
ブラック「俺は、ピンクに怒ってなどいない。むしろ手を抜いたのは俺だ。ピンクに非はない。」
スタックスの放った雷撃に一切の負傷が無かったことについて電柱に問うと、皆新たな能力を構築していた。
ブラック「電柱。ゼロには何とか誤魔化せた。また、お前たちと行動を共にできる。だが、一度荒廃したフルグラへ行ってみようと思う。俺もレベル上げないとな。」
俺「新たな武器を構築するか?」
ブラック「いや、いい。今もいいが俺はフルグラのマコトと歩んでいたブラックとして生きていたい。」
俺「そうか、分かった。ありがとう。」
通信を終えてフルグラへ向かう。
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通信も届かぬ断片的なネットワーク領域。そこは、かつて世界中から皆が集まり栄えた「フルグラストリート」。だが今や、壊れた構造体とノイズまみれのメモリの海が広がっている。
ブラックは静かに着地し、地面に散乱する断片を慎重に歩いていた。
ブラック「(ここは以前、皆でよく集まった噴水広場…静かだ。バグったNPCがゾンビのようだ…。ここから東西南北に街の外まで道が伸びていた。街の外は階層になっていたな。東の…"ドラゴンの巣"の階層へ行ってみるか…。」
かつて、仲間たちと他愛ない会話をしたことを思い出す。
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風がうねるように吹き込む、断崖の階層地帯。かつてプレイヤーたちが「高難度ダンジョン」として熱狂し、挑み、敗れ、また戻ってきた聖地だった。
今は……静寂だけが支配している。
ブラックは崩れたデータ岩を乗り越え、かつて“巣の入口”と呼ばれていた巨大アーチへと辿り着く。
ブラック「(ここのドラゴン、この世の全てを観てきた者。世界の叡智、かつての助言者。)」
足元に、まだ焼け焦げた痕がある。──誰かが、最近ここで戦った痕跡。
ブラック「(……まさか、まだ誰かがここを使ってる?)」
そのとき、頭上から鋭い音が鳴った。
ガギィィィィィイイィ……
残響と共に、データのうねりが渦巻く。アーチの奥から、異形のドラゴンが姿を現した。──しかしそれは、かつてのデザインとは違う。
ボディは破損と再構築を繰り返すような、壊れかけのコードの集合体 。動きは“記憶にあるドラゴン”と同じだが、鳴き声はまるで人の断末魔のような声の断片
ブラック「(これは……“何か”が再構築しようとしている。データを読み違えた結果、バグとオリジナルの混合体になった……?)」
彼は構えた。ブラックを狙ってはいない。無秩序に所構わず暴れているといった感じだ。だが、ただ倒すことには意味がないと感じていた。
ブラック「俺は……あいつの、マコトの“ブラック”でいたい。ここで、誰かの記憶に触れてみたい」
バトル中、全ての攻撃を躱すだけにとどめる。突然ドラゴンが断片的なメッセージを吐く。
「……カエリタイ」
「オボエテ、イルカ?」
「オマエ、ハ……ナゼ、ワスレナイ?」
ブラック「………。」
「ナゼ、ココニキタ?」
「ナゼ……ワスレラレタ?」
「オレハ……ドコニムカウ?」
全ての攻撃を回避し様子を見る。攻撃ではない。暴れているだけ、その度に身体がバグへと変わっていく。
バグとノイズの咆哮――
「グォーーーーーッ!!!」
瞬間転移で避ける。
ブラック「かつて"ワイズドラゴン"と呼ばれた者が…哀れだな!!忘れられ、己が誰かも分からなくなって!!バグに侵食されながらも生に執着するか!!」
ドラゴンの身体の一部が砕ける。 中から、ブラックとマコトが過去に一緒に見たログの断片(映像)が飛び出す。
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マコト「ブラック、お前が仲間で……ほんまに嬉しいわ。」
ブラック「……マコト?」
ドラゴン 「オマタチ、マタクルトイイ…ヨクゾ、ワレヲコエタ。ダガ、ヨノナカハ…チカラダケデハナイ。」
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ブラック「ダメだ。ただ回避し、煽るだけでは…。」
このドラゴンに、俺たちの記憶が残っているのなら…"勝つ"ではなく"思い出す"ように仕向けなければならない。
ブラック「ああ、覚えているぞ!!お前は全知全能のワイズドラゴンと呼ばれた。白金のドラゴン『プラチナ』。 もう帰る場所はないんだ!一緒に来ないか?残念だかもう、俺たちを覚えている奴は少ない。」
「オレヲ……オボエテイルノカ?」
ブラック「ああ。お前は“ワイズドラゴン・プラチナ”──知識と記憶を繋ぎ、俺たちに無数の道を示してくれた存在だ。」
ブラックが一歩近づく。ドラゴンの動きが止まる。 空気が静まり返り、断片化したコードが宙に浮き始める。
ドラゴン「……ナゼ……ナゼ……オレヲ……タスケル……?」
ブラック「お前がいたから、俺たちは進めた。お前がいたから、俺たちは“フルグラ”を信じて戦えた。」
ブラックがゆっくりと手を伸ばす。 ドラゴンのバグ化した身体の一部が、まるで記憶をなぞるように光を帯びて修復されていく。
ブラック「今でも思い出す。皆でフルグラの東階層に来て、挑戦して、泣いて、歯を食いしばってそして……生還した。最期は皆で笑った。」
ドラゴンの目が揺れる。 その中に、ブラックとかつての仲間たちの笑い声やログ映像が流れていく。
「……ワタシハ……カンシャ……シテイル……」
「……ナゼカ、タダ……アリガトウ……ト、イイタイ……」
「……デモ……モウ、モトニハ……モドレナイ……」
ブラック「なら、一緒に来い。形は変わっても、お前の知識と記憶は消えていない。 マコトやガイシたち、ピンクも……新しい仲間が皆、きっと喜ぶ。」
その時、ドラゴンの身体に、黒いバグの棘が突き立った。
プラチナの狂泣――
それは明確な痛みの叫びだった。 バグは彼の“記憶の奥底”に巣食い、希望を掴もうとする意思を引き裂こうとしていた。
ブラック「離せ!コイツはもう十分戦った、過去と、バグと、自分自身と!!」
ブラックが全身の力を集中させる。 意志が、コードを上書きする。
「マコト。俺は、お前の“ブラック”で在り続けたい。」
手のひらから放たれた光が、プラチナの心核へ届く。
「……コレガ……ナツカシイ……キオク……」
コードが再構築される。 プラチナの身体はゆっくりと縮小し、黄金の瞳を持つ、年老いた白金のドラゴンへと変わっていく。
「……ワタシハ……キオクノ、ハザマカラ……モドッテキタ……」
「アリガトウ、ブラック。マコトノ……キミ。」
「ワタシノ、チカラヲ…キミニツナグ。」
プラチナは白金に輝きデータの波となる。光が収束しブラックの胸に突き刺さる。 光はブラックの全身を巡り、万物の創造から現在までプラチナの記憶全てが映像のように入ってきた。
ブラック「プラチナ、一緒に行こうか。」




