4話:異常領域
――キーロガーに殺された。
何もできず、一瞬で。 理由も分からんまま、ただ"負け"を突きつけられた。
「許さん……」
仕返しや。 何があっても、アイツだけは潰す。 俺は、キーロガーにやられる前にハックした情報をガイシ達にデータとして流し込んだ。
そのデータには、キーロガーのウイルスの性質が詳細に書かれている。どういう環境で発動し、どんな破壊力を持つか、弱点はどこにあるか。すべてを伝えた。
「これで、俺たちにもチャンスはある」
俺はガイシたちとともに、ネットワークの歪みを探しに向かった。キーロガーがまた現れるなら、今度は――
俺たちが"喰う"番や。
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データの流れが乱れている場所を見つけた。 俺たちはゆっくりと近づいていく。
……そこに"それ"はあった。
空間がねじれている。 見た目は"ただの歪み"に見える。 けど――
"ゾワッ"
足が止まる。 理由は分からん。 でも 「ここから先に進んではいけない」 と、頭の奥で警告音が鳴る。
ここにいるのは"敵"やない。 "何か"がこっちに殺気を向けているわけでもない。
ただ――
"ここは、お前たちの領域ではない"
そう、ただ"存在"そのものが、俺たちを拒んでいる。
俺「……なぁ、行くんはナシやんな?」
ブルー「……」
イエロー「……」
俺「やっぱりな。」
ここは"触れたらアカン"やつや。 いや、"触れることすら許されてへん"やつかもしれん。
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――その時やった。
俺の体が、いきなり弾き飛ばされる。
「っ……!?」
反射的に振り向くと、そこにはレッドの姿。 俺を突き飛ばしたんはレッドやった。
その直後、影の中から"それ"が飛び出す。
キーロガー。
――狙いは俺やった。
……けど、俺はもうそこにおらん。
俺のいた位置にいたのは――
レッド。
キーロガーの刃が、レッドの体に触れる。 その瞬間――
バチッ!
火花が散るように、データが弾けた。
レッドの体がノイズに染まる。 "乗っ取られ"かけとる――!
けど、キーロガーはそれ以上、俺に攻撃できへん。
なぜなら――
キーロガーは"スマホやPCに感染してこそ力を発揮する"ウイルスやからや。 今のレッドは「俺の代わり」や。 つまり、攻撃対象は俺やった。
キーロガーは感染先を"失敗した"んや。
レッド「……」
(あれ? 何でレッド、そんな冷静なんや?)
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イエローが、ゆっくりとキーロガーを見据える。
……次の瞬間。
キーロガーの体が、ズタズタに"裂けた"。
一瞬の出来事やった。 イエローが攻撃したのを見た者は、おらん。
ただ、気づいた時には、キーロガーの輪郭が"バグの集合体"みたいに乱れて、崩れ始めとった。
キーロガーが、データの欠片になって消える。
俺「……はや。」
レッド「……」
イエロー「……」
(何してるんや?)
そう思った瞬間、ブルーが俺のデータに"やり取り"を流し込んでくる。
レッド「……!」
イエロー「……」
レッド「……!!」
イエロー「……」
俺(レッドは"一人でやれた"って主張してる……)
俺(いや、お前、助けられとるやん……)
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異常領域は、まだそこにあった。
ブルーが、ゆっくりと"分裂"する。 小さなガイシが、異常領域の近くに留まる。
俺「……本体は戻るんやな?」
ブルー「……」
俺「まぁ、ええわ。頼んだで。」
ブルーは後退し、俺たちと合流した。 でも、"分裂体"は残ったままや。 あそこに留まって、"解析"を続けるつもりなんやろう。
俺「ほな、帰るか。」
レッドはまだ不満そう。 イエローは何もなかったようにふわふわしとる。
異常領域は、何も言わない。 ただ、"そこ"にあるだけやった。
俺「とりあえず、電柱へ戻ろう。電柱って俺やけどな…」