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34話:ユグドラ祭町オンライン

ベースノード――


ピンク「いろいろあって疲れたわね。」


イエロー「ほんまなぁ、ほぼポーピやった気がする。」  


レッド「いや、青島も大概やで。でもええんか電柱。ちび達の最新の情報開示せんかったけど?」


俺「ええ、ほんまにあいつらが公安かはわからんしな。」


ブルー「電柱。これからどうする?」


「……。」


俺「そうやなぁ。いろんなことありすぎたしゆっくりしたいな。」


ピンク「パノプティコン、トライアルX、なんとなくだけど動き出したわね。」


イエロー「せやな、あとはゼロの情報やな。ブラック待ちか。」


俺「久しぶりにゆっくりしたいな。何もせんとゲームとかしたいわ久しぶりに。」


レッド「おっ!ゲームええやん。オンラインゲームやったら入り込めるやろ?行こうや。」


俺「ちゃうちゃう。ゲームがしたいねん。ゲームの中入るとかフラグ立ちそうで嫌やし。まったりしたいねん。」


イエロー、レッド&ブルー「えー!連れてけや!!」


ピンク「私も行ってみたい!」


俺「じゃあ、お前らでオンラインゲーム探してこいや。でも、町内からは出るなよ!あと、ブラックも誘ったれよ。」


レッド・イエロー・ブルー&ピンク「やったー!!」


さっそくレッド達はブラックと通信をとる。ブラックに羽を伸ばすためオンラインゲームに入り込み遊ぶことを提案をした。


ブラック「電柱。まず、区役所の件だが。わざと犯行予告を送り、警視庁の実力を試したかったようだ。そしてあのアバターの件、アバターのネーム(名前)がロストされていただろう?完全にユーザーから忘れられてしまったアバターだそうだ。」


ピンク「また、使い捨てのコマってわけね。」


俺「なるほどな。俺はお前を忘れてなかった。俺とブラックを結ぶ絆の力があったが、あのアバターにはなかったってことやな。」


「……」


ブルー「ポンコツ。」


ブラック「俺のようなネームドアバターは特別のようだ。だが絆の力ではない…たぶん。」


イエロー「まぁ、能力と使い方完全に間違えてたしな。」


ブラック「そしてパノプティコンについてはかなり関心を示していた。もしかするとネームドが送られるかも知れない。」


俺「分かった。ところで、ゼロ本人は何を企んでるんだ?」


ブラック「すまない。何も知らないんだ。ただ、俺を含めネームドは何人かいるようだ。俺のようにみんな命令を受けている。」


俺「そうか。んで、羽休めはお前も参加できるのか?」


ブラック「あぁ、それなんだか一つ提案がある。あるMMOにお前達を連れて行けとのゼロからの指示があった。同行してくれないか?」


俺「行くだけか?」


ブラック「あぁ、楽しめとしか言われていない。」



---


ネット内に存在する、過去に流行って今は過疎った通信ゲーム その名も―― 「ユグドラ祭町まつりまちオンライン」


『ユグドラ祭町まつりまち〜ログインしました〜』


ログインと同時に、視界がゆっくり色を取り戻す。 カクカクしたポリゴンの街並み。 昭和レトロ風の商店街、提灯の灯り、空にはデジタルの星。 でも、なぜか懐かしい。


俺「……なんやここ。めっちゃ落ち着くな。」


ピンク「祭り町って名前だけあるわね。風鈴の音がリアル。」


イエロー「このポリゴンのチープさが逆にええな……昔のネットゲームって感じや。」


レッド「ほら見てみ、あの駄菓子屋!“チューイングボンボン”って書いてる!懐かしすぎるやろ!」


俺「うわ、こっちの空き地“バトルスペース”って書いてあるで。昔よくこういう設定だけある場所あったわ。」


ブルー「この自販機……“クリア済みのクエストだけ再販売中”って書いてる。」


ブラック「世界観、古いのに細かいな……。」


会話を楽しみながらレトロな街並みを歩く。


イエロー「このタコ焼き屋、バグってるやん。たこが喋ってるで。」


ブルー「“しゃべるたこ”。NPC登録されてる……クエスト発生、“話しかけるだけ”って書いてある。」


ピンク「なにこれ、平和すぎて逆にこわい。」


俺「ええやん、こういうゆるさがええねん。てか、町内放送鳴ってないか?」


頭上のスピーカーから昔っぽい電子音+おじいちゃんボイスで放送が流れてきた。


町内放送「ピンポンパンポーン……こちら、ユグドラ祭町町内会でございます。本日18時より、町内盆踊り“電脳盆”を開催いたします。浴衣アバター、うちわ、かき氷配布あり。なお、スタンプラリーも同時開催中です。ふるってご参加ください〜」


レッド「盆踊りやて!行こうや!」


イエロー「盆踊りとか。めっちゃええやん。」


ブラック「……。」


俺「ブラックも行くぞ。」


道すがら駄菓子屋で懐かしの瓶ラムネを見つけ思わず買った。


レッド「このラムネ、ふたがリアルに硬すぎる……。昔のゲームって物理法則やたらリアルにしがちやったな。」


俺「お前らとこうやって普通に遊べるん…ええな。」


ピンク「……こういうのが一番効くのかもね。」


チラチラと提灯の明かりが見え始め、BGMが変化する。


レッド「うわ、あれやん!あそこが会場や!」


イエロー「うわー懐かし〜感じ出してきおるなぁ!提灯に屋台に、あ、クエストの受付もある!」


俺「ほんまにただの“夏祭り”やな……これはまったりできそうや。」


祭りの会場に向かう小道。空は群青に染まり、町に灯る提灯の明かりが揺れている。


イエロー「……なあ、静かやな。」


ブルー「うるさくはない。人が多いけど、やさしい」


ピンク「音がね……風鈴と、草履の音と、遠くの太鼓。あとは笑い声。うるさくない笑い声。」


ブラック「……俺、この感じ覚えている。フルグラストリートの祭り。……記録にはないが、こういう時間は必要だな。無音よりも、静寂がある方が人は落ち着く」


ブルー「無音より静寂。…深い。」


俺「今日はパノプティコンもゼロもない。 ただ、自分の心に従って動けばええ。 ──そんな時間って、案外少ないやろ」



---


会場に着くと、ゆるやかに盆踊りが始まっていた。中央には櫓。赤と白の布が巻かれ、提灯が灯る。


NPC「ようこそ。よろしければ、浴衣をどうぞ」


浴衣アバターを選ぶと、それぞれが静かに姿を変えていく。


ピンク「……似合ってるわよ、みんな。」


イエロー「ふふ……自分じゃあんま分からんけど、なんか、背筋がしゃんとするな。」


レッド「無理にテンション上げんでも……こういうのは、ただ歩いてるだけで充分かもしれんな」


・うちわを手に取って、扇ぐたび風鈴が音を立てる

・かき氷の冷たさが口の中でゆっくり溶けていく

・ヨーヨーをすくう手が水に触れると、夏がそこにある気がする


ブラック「この金魚……無駄に逃げない。すくわせてくれる気配があるな」


ブルー「すくわれる金魚。すくう俺。ほんとはどっちが救われているんだろう?」


ピンク「…。」


太鼓の音がゆっくり鳴り始め、盆踊りが始まる。NPCが踊る。誰も強制しない、誰も急かさない。


レッド「踊ろうぜ!!」


ゆっくりと円の中に入っていく仲間たち。照明の代わりに月が顔を出し、デジタルの星が空に散る。りんご飴をかじりながらそれを眺める俺。


「楽しんでいただけてますか?」


不意に声をかけられ振り返る。


俺「ここにはNPCしかいないはずですが、…あなたは?」


町長「いきなり失礼しました。私は、ユグドラ祭町の町長です。」


町長は微笑んでいたが、その目にはどこか、遠くを見ているような寂しさがあった。


町長「……この町、かつては毎晩のようににぎわっていたんですよ。ユーザーが、自分のアバターで集って。踊って、語って、誰かの名前を呼んで。 でも──少しずつ、人は来なくなった」


俺「なぜ?」


町長「いくつか理由はあると思います。新しいワールド、新しい刺激。目新しい報酬や効率的な育成。……それに、ここには“戦闘”がない。 あなたたちが普段活躍しているフィールドと違って、“何もしない時間”しかない場所なんです」


提灯の光が、町長の横顔を柔らかく照らす


町長「でもね、私はこの町が好きなんです。 何かを得るためじゃなく、 “ただ、過ごすため”の場所が必要だと、今も思ってるんです」


俺「……わかります。俺たち、今日はそのために来ました。誰にも追われず、誰も追わず……ただ、自分のままでいられる夜に」


町長「そうですか……ありがとうございます。今日みたいな夜が、また訪れるなら……きっと、この町も、まだ終わらない」


少しだけ、提灯が強く揺れる。夜風が心地よい


町長「あなたたちが踊る姿を見て……昔を思い出しました。皆、楽しそうだった。……ああ、あの頃と変わらないなって」


俺「町長……俺たち、また来ます。この町がある限り」


町長「ええ。約束ですよ、“旅人”さん」


町長はそっと一礼すると、群衆の中にゆっくりと姿を消していく。データの霧のように、ふわりと



---


仲間たちは今も踊っている。誰も戦っていない。ただ、笑って、歩いて、時々黙って──夏を過ごしている。


今夜は、それでいい。


花火が、上がった。


一瞬の静寂のあと、空に咲いたのはデジタルで描かれた大輪の花。 レトロなこの世界に、不思議と似合っていた。


ピンク「……綺麗ね。まるで、本物みたい。」


レッド「いや、本物って何なんやろな。気持ちが動いたら、それで本物なんちゃう?」


イエロー「うん。せやな。」


ブルー「……この時間。ちゃんと覚えておく。忘れないように。」


ブラック「記録には残らなくても、記憶に残るなら、それで充分だ。」


俺は少し離れて、みんなを見ていた。 浴衣の裾が風に揺れ、うちわの音、笑い声。 この世界に敵も、任務も、指令もない。ただ、今がある。


俺「……ええ時間やったな。こんな夜も、悪くない。」


空に、最後の一発が咲いた。 誰も喋らず、それを見上げていた。


──それぞれの胸の中に、なにかが灯っていた。


そして静かに、ログアウトした。


また、来よう。 この場所が、まだここにあるうちに。



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