30話:サイバー課対策本部
ポーピ君「いやいや、すいませんね。わざわざご足労をおかけしまして。まぁまぁ、こちらへどうぞ。今、お茶を淹れさせてますんで。あ!今の私達はプログラムデータでしたな、失敬、失敬、あっはっは。」
俺「茶番はええ。何の用や?」
ブルー「茶だけに。」
「………」
レッド「今のは無いわ。黙っとこか。」
ブルー「……」
イエロー「で、何の用や。」
ポーピ君「見てましたよ。貴方がたの戦い。いや、見事でした。特にあのEMPでのマルウェアほぼ全滅。感服しました。」
ピンクが俺たちに目配せする。そして、データを流し込んできた。
ピンク「なんなのこいつ?笑ってるようで笑ってない、 優しそうで全然優しさ感じないわ。今も褒めてるふりよね? しかもあの中途半端なデフォルメ加減……リアルとファンタジーの境界を突いてくるというか。
言ったらあれよ、 『深夜の交番にポツンと立ってたら一番怖いマスコットNo.1』だと思う。
しかも「ポーピ君」って名前も、何気に不穏なのよ。 “People(人々)”から来てるのは分かるけど、なんかこう、監視社会の象徴っぽい響きもあるというか……。」
全員+ポーピ君「分かるわぁ。」
イエロー「中盤ただの悪口やで。」
ポーピ君「後半は私も同意しますよ。センスがね…電柱さん並みなんですよね。」
ブルー「……」
レッド「こいつ、恐らく俺らから情報とるだけで、自分らのことは喋る気ないで。」
ポーピ君「当たり前じゃないですか。任意の事情聴取と言ったでしょう?貴方がたの事情を私が聴取するのですから。」
「「「…………!!!!!」」」
俺「今、俺らデータでやり取りしてるよな。」
レッド「何でこいつ入ってきてんねん?」
イエロー「さすが警視庁。何でもありやな。」
ポーピ君「イエローさんが一番分かってらっしゃる。なんならシグナルコードでお話しますか?」
ピンク「きっしょ!ある意味盗聴じゃない。」
俺「もうええ。アホらしなってきた。普通に喋ろ。」
ブラック「用件を言え。」
ポーピ君「ブラックさん。あなた電柱さんとの通信で興味深い発言されてますね。
・『それどころじゃない。ゼロから新たな指令が出てた。今、お前らがいる区役所に“アバター”が送り込まれている。』
・『気をつけて進め。俺も同じ司令を受けてそちらに向かっている。通信はまた入れる。』」
ブラック「……。」
ポーピ君「“ゼロ”と繋がってますね?」
ブラック「……。」
レッド「いや…普通そういうのって、“あなたがゼロですね?”とかちゃう?」
ポーピ君「それはドラマのセリフです。私は現実派。」
イエロー「いや、データやし、現実って何やねん。」
ポーピ君「……哲学ですね。」
レッド「うっさいわ。」
俺「なぁ、これ任意や言うてたな。帰らせてもらうわ。結構すき勝手に俺等のこと調べてるみたいやしなぁ。」
ポーピ君「もうちょっと、よろしいじゃないですか。お話を――
俺「もうええ!――
「失礼します」
イエロー「またけったいなんが増えよった。ワームかこいつら。」
ピンク「電柱。行きましょう。」
「失礼します。私、警視庁公安部サイバー課対策本部の"青島"と申します。」
青島「大変申し訳ない。ログインパスワードを規定数間違えてしまって、こちらに来るのが遅れてしまいました。」
レッド「それ、お前しか悪いやつおらへんやん。」
青島「そのとおりです。で、うちのポーピがまた何かやらかしましたか?」
ピンク「またって何?どういうことよ?」
ブルー「……。」
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青島「では、先にこちらの説明を。ポーピ君も、少し黙ってなさい。」
ポーピ君「は〜い。」
レッド「素直やな。」
俺「ポーピの今までの言動なんやってん。」
青島「まず、“ゼロ”という存在について。あくまでこちらで掴んでいる範囲ですが――」
青島は手元のデータホログラムを展開する。
イエロー「この世界にどうやって持ち込んだんや?」
青島「“ゼロ”は、我々公安部内でも正体がつかめていない存在です。コードネームすら組織外に流出しておらず、存在自体が“マル秘”扱い。ですが、複数の“非公開ネットワーク内交信ログ”にて、断片的にその名が浮上しています。」
イエロー「無視かい。」
ピンク「どういうこと?存在するのに、誰も知らないって?」
青島「そう。まるで、意図的に“見せている”ような痕跡の残し方なんです。わざと断片だけ。」
レッド「おちょくられてるってわけか。」
青島「もしくは、何かのテストをしているか…。ですが一つ、特異な点がある。“ゼロ”の名が現れる交信には、必ず“アバター”という存在が紐づいている。」
ブラック「……。」
青島「心当たりがありますか?」
俺「いや。」
青島「“ゼロ”は直接姿を見せることはありません。常に“誰かを通じて”行動する。それが“アバター”。」
ブラック「……。」
青島「しかし、私たちの前に現れた“電柱さん”――あなたはいったい何者なんですか。皆さんのようなプログラムでも、ブラックさんのようにアバターでもありません。」
ピンク「うそ……」
ブラック「気づいていて揺さぶって、やり口が気に入らないな。」
ポーピ君「私は最初に見た瞬間に思いましたよ。“ああ、ゼロのアバターだ”って。」
全員「………」
イエロー「黙ってろや、ポーピ。」
青島「ただ、電柱さんはこのネットワークの中でもまた“異質"というしかないでしょう。そして"ゼロ"が関心を寄せている。そうでなければ、あなたたちにブラックさんが行動を共にする理由がない。」
俺「ゼロは俺の何を探っているんだ?。」
青島「それは我々ではなくブラックさんに聞いたほうが早いですね。」
ブラック「……。」
ブルー「…。」
俺「ブラックをゼロの仲間だと言いたいのか!?」
青島「それを確かめるために、我々はあなた方と接触を試みたのです。」
レッド「だったら最初からお前が出て来いよ。なんでポーピなんや。」
青島「私はパスワードを忘れてロックされておりました……」
レッド「ほんまそれだけかい!」
イエロー「……っていうかポーピって何者なん?」
青島「私の直属AI部下……というか、プロトタイプ。感情シミュレーション機能にやや不具合がありまして。」
ピンク「やや……?」
俺「それより、お前達はどうやって俺達の事を知った?」
青島「EMPですよ。以前隣町で局所的な停電と監視カメラの不具合がありました。そこから調べていきますと、町のとある場所に闇に包まれたシステムと小さな青い彼がおられたのです。」
青島がブルーを指差しながら、職質・観察用ランサムウェアを忍ばせた事を説明する。
「……」
俺「ちょっと待てや。お前らがブルーをバグらせようとした…違う、ブルーを破壊しようとした張本人…トライアルXかっ!!」
ピンク「はっ?」
イエロー「何やねんこいつら?」
青島「はい。貴方がたの行動を観察するため、いえ、当時は"ブルーさん"でよろしいでしょうか?ブルーさんの行動を観察するために観察用のランサムウェアを忍ばせた。というわけです。トライアルXとは…?」
ブルー「……!」
俺「は?」
レッド「まてや、それ…」
イエロー「…完全に敵やんけ。」
ピンク「ちびブルーにまでロジックボム……もしかしてちびブルーが壊れかけたのって!」
ブルー「…。」
青島「待ってください。我々の目的はあくまで情報の収集と確認です。危害を加える意図は…。」
俺「ブルーを破壊しようとしたやつが“危害の意図はなかった”? ふざけんなや!」
レッド「しかも銀行ハックのトリガーも、お前らが仕込んだもんちゃうんか!」
青島「それは……防衛反応を誘発するための、あくまで――」
イエロー「おい、今すぐ殺ってええか?」
レッド「ブルー、お前なんで黙ってんねん。なんか言えや!」
ブルー「レッド。黙っとけって…」
全員「アホか!!」
「……」
ブルー「……僕は“おとり”だった。最初から。」
俺「お前ら、正義ヅラしてるけど――やってることはゼロと何が違うんや!!」
青島が言葉を詰まらせ、目を伏せる。
ピンク「ブルーはあなた達にとって"壊れる前提のコマ"だったのね?」
イエロー「こいつらはそんだけ命を軽くみとる。」
青島「……私達はこのネットワークの深層で"何が起きているのか"を知る手段が限られています。」
ブルー「僕は。……皆と一緒に笑っていたいだけ…。」
声が、ブルーの声が震える。みんな、言葉を失う。
ブラック「……。」
青島「あなた達の存在は…"異常"なんです。言わばバグ。ゼロの観察対象。貴方がたがどういう存在か?それを確認するためには何らかの"揺さぶり"が必要だったのです。」
俺「で……ブルーを……?」
青島「……結果として、あなたたちが“ただのプログラム”ではないことは確かめられました。」
レッド「そんなの、ブルーが傷つく必要なかったやろ!」
俺「……なあ、青島。お前ら、ゼロを止める気あるんか。」
青島「当然です。ですが……我々の情報では不十分。あなたたちの協力が必要です。」
俺「……今さら、仲間になれってか?」




