1話:歩きスマホで転生とか聞いてない
俺は普通の社会人。特に何かすごい能力があるわけでもなく、日々を適当に生きている。仕事はまあまあ、趣味はスマホ、特技は…特にない。でも、それでいい。そんな平凡な俺に、まさか「異世界転生」なんて展開が待ち受けているとは思ってもみなかった。
その日も、いつも通りスマホを見ながら歩いていた。
SNSをチェックし、適当にニュースを流し読みし、動画を眺める。もう完全に視線はスマホに釘付けだ。
「えーっと、今日のトレンドは……」
次の瞬間、世界が真っ暗になった。
ガツンッ!!!
強烈な衝撃。スマホを取り落とす音が聞こえた気がする。いや、それどころじゃない。
痛い。めっちゃ痛い。え、俺、何にぶつかった?
…
……
………
目が覚めた。
「ん…?ここは…?」
空が広がっている。俺は地面に倒れている…と思ったが、違った。いや、そもそも「倒れる」って感覚がない。視界は固定されていて、動こうとしても動かない。
「え?」
試しに手を動かそうとするが、何もない。足もない。いや、そもそも 俺の体ってどこ行った?
何かがおかしい。いや、すべてがおかしい。
【システム起動…ネットワーク接続中…】
「…は?」
脳内に突然、機械音声のようなものが響いた。いや、待て待て待て、どういうことや?
【データリンク完了。貴方は現在、ネットワークインフラの一部として認識されました】
「いやいやいや、ちょっと待て。俺、普通の人間やったはずやろ?」
改めて自分の周囲を確認しようとしたが、できない。なぜなら 俺は今、電柱になっていた。
そう、俺は転生して 電柱 になったのだ。
「いや、転生ってこういうことやないやろ!!」
でも、現実は現実だった。
周囲を見渡すことすらできないが、なぜか情報が流れ込んでくる。今この電柱がどの地点にあり、どの基地局とつながっているのか、どのWi-Fiが近くにあるのか。まるで俺はネットワークそのものになったかのような感覚だった。
「マジかよ…俺、異世界転生するなら、せめて勇者とか魔王とかにしてくれや…!」
しかし、そんな俺のぼやきをかき消すように、街の様子が変わり始めた。
突如、空間が歪み、何か黒い霧のようなものが出現する。そしてその中から、何かが現れた。
――「バグ」
「えっ…?」
それは、まるでネットの世界から飛び出してきたかのような怪物だった。形は一定せず、チカチカとノイズのように姿が変化する。ウイルスのような、エラーコードの塊のようなそれが、街を蝕み始めていた。
【警告:ネットワークエラー発生】
「ちょ、これヤバいやつやん…!」
だが、次の瞬間、俺の意識の中に新たな情報が流れ込んできた。
「…え?」
俺の中に、突如として電流が走った。そして、気づけば俺は …
電柱なのに。
これは、ネットの世界と現実が交錯する、新たな戦いの始まりだった。