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一話目

前々から書きたいと思ってたやつです。

不定期に更新していきたいな、と思っております。


いかんせんタイトルが決められない......!


 

 焼石(ヤケイシ) (スイ)。明日から高校生になりますーー。



 そう意気込んで就寝したものの、思っていたより普段と変わらない朝が普通にやってきて。


「お兄ちゃーん、朝ごはんー」


いつも通りの妹の声で意識がはっきりと起き上がる。


「おはよう。礼」


 一階へ降りると、うちの朝ごはん担当、俺の妹である焼石 (レイ)が台所でリズミカルな音を立てながら大根を切っていた。


「おはよう。もうそろそろかな」


「今日の味噌汁は大根?」


 俺の1番好きな味噌汁の具材だ。ちょっとテンション上がる。


「そ。お兄ちゃん今日から高校生だし。気つかってあげたの」


「ありがとう。初日頑張れそうだよ」


「味噌汁の具材だけでそこまで?」


 礼はこういうちょっとしたところで人のことを考えられる良い子だ。まだ中二なのに、大人だなぁ。

 俺はシスコンではない。


「咲まだ降りてこないから、お兄ちゃん起こしてきて」


「わかった」


 (サク)は小二の末っ子で、やんちゃ坊主だ。幼稚園時代は毎日友達と喧嘩やら何やらで大変だった。最近になってようやく落ち着き始めてはいるが、まだたまに小学校から電話がかかってくる。手はかかるが、お兄ちゃんお姉ちゃんのいうことはちょっとは聞いてくれるし、良い子だ。

 咲はまだ親と寝ているが、共働きの両親は朝早くに家を出ていくため咲を起こすのは俺か礼の役割になっている。


「咲ー。朝だぞ」


「......」


 一回のコールで起きないのは当たり前。


「咲。起きろー。遅刻しちゃうぞ」


「......まだねる。」


「まだ寝ちゃダメだ。ほら起きろ」


「......」


 あ、寝た。これは五分いくパターンだな。まぁでも根気よく起こせば最後には起きてくれる。咲は良い子だから。



 やっと起きてくれた咲と礼と俺の三人で食卓を囲む。

 今日は入学式とホームルームの時間で解散となる日程だ。ホームルームの時間では、おそらく軽い自己紹介をさせられるだろう。緊張してきた。自己紹介なんて何年ぶりにするんだ。中学では特定の二、三人としか話してこなかった俺には大きすぎるハードルが、入学初日から用意されているのはどうしたわけか。

 四十人前後を前にして、過去のトラウマを思い出して撃沈......は避けたい。もっと前もって練習とかしとくべきだったか......?


「お兄ちゃん、箸止まってるけど。大丈夫?」


「えっ? ああうん。大丈夫大丈夫。全然」


「自己紹介緊張するなー。でしょ?」


「え、なんでわかるの」


クスッと笑う礼。おかしいな、お兄ちゃんそんなにわかりやすいのか?


「そうそう、お兄ちゃん。」


「ん? 何?」


「お兄ちゃん高校生になったわけだけど、これからも朝って起こしてあげたほうがいいの?」


「......」


 いやまぁ、たぶん自分で起きられると思うんだけれども、俺を起こすことが朝のルーティンとなってしまっている妹から急にそれを取り上げるのもなんだか......ね。


「......しばらくはこのままで」


 ......俺は朝が弱い。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 俺が今日から通う朝ヶ原高校は、家から歩いて三十分弱のところにある。普通自転車で行く距離だとは思うが、うちにはオンボロママチャリしかなく、しかもそれは漕ぐたびにギリギリとけたたましい騒音を発してしまうので使えない。

 初日から遅刻は流石にまずいと思って大分早めに家を出たが、ちょうどよかった。気持ちいい春の日差しが降り注ぎ、散歩するには絶好の陽気だ。ゆっくり歩こう。自己紹介のイメトレも済ませておかなければならないし。

 学校までの道のりは何度も演習したので、迷う心配はゼロだ。もうそろそろ見慣れた風景になる予定の道をのんびりと歩く。

 

 脳内自己紹介が大分まとまりだした時だった。視界の隅を何か物体が掠めた。


「......?」


 不法投棄された粗大ゴミか?と思った俺は、声をあげそうになった。


 

 ーー女の人が、電柱の陰にもたれかかるようにして倒れていたのである。



 項垂れていて顔は見えない。黒い髪が肩ほどまで伸びていて、結構綺麗......ってそれどころじゃなくて。いや、よく見たらこの人朝ヶ原高校の制服着てるぞ。高校生がこんなところで野宿......? そんなわけはないか。もしかしたら何か危険な状態なのかも知れない。声をかけてみよう。危ない人だったらすぐ逃げよう。


「......だ、大丈夫ですか......?」


「......」


 返事はない。ただのし......いや、やめとこう。

 ポケットからスマホを取り出し時刻を見る。あと二十分で着席時刻だ。ゆっくり歩きすぎた。遅刻はまずい。まずいが......。


「あの、すいません。あのー......」


「ーー」


「うわっ!!」


 突然その人が顔を上げた。心臓が飛び跳ねた。心配していた、薬物中毒者のような人相はそこにはなく、意外と血色はいい。目の下のクマがひどいがそこ以外は白めの肌が綺麗だ。目もきれいな二重で、吸い込まれるような黒瞳がその真ん中で存在感を発揮している。いやよく見たらすごい綺麗な人だ。今までであまり見たことないレベルの美人をこんな間近に見られるなんて。間近にーー。


「いつまで、見てるの?」


「ごめんなさい!! すいません申し訳ないです」


 三種の謝罪詰め合わせセットを披露し、慌てて距離をとる。


「いいよ」


「あ、ありがとうございます......」


 許してもらえたということはセクハラ訴訟は免れたということでいいのかな。


「きみ......朝ヶ原の人?」


「はい......」


「そっか......よかった、これで辿り着ける」


「辿り着けるって、どこへですか?」


「? 学校だよ?」


 えぇ、迷子だったんだこの人。てことは俺と同じ新入生なのか、じゃあタメ口でいいか。いやでも動けなくなるほどってどれだけ迷ったんだ......?


「そうなんだ。じゃあ学校まで一緒に行こうか。ここからの道ならわかるから、任せてくれ」


「......ありがとう。じゃあ、ん」


「ん?」


 なんだ? いきなり両手を突き出してきたけど。まさか歩けないわけじゃーー


「おんぶして、くれる?」


 まさかだった。


「えっと、どうしたのかな、どこか怪我でもしたのか?」


「久しぶりに長時間直射日光を浴びたせいで、目眩がすごくて。」


「えぇ」


「今もちょっと吐きそう」


「よしおんぶはやめよう」


 よく見たらこの人、熱もあるんじゃないかな。目尻が下がって、よくある『熱の人の顔』だ。


「ごめん、熱計るぞ」


「うん......?」


「やっぱり。結構高いな。この熱なら学校は休んだほうがいいと思うんだけど、どうする?」


「......帰れないよ」


 まぁ、入学初日だもんね。気持ちはわかる。


「でも、無理しちゃーー」


「家の方向、わからないから」


 ああそういうことね。じゃあ気持ちわかんないや。

 でも困ったぞ。今からこの人を学校の保健室までおんぶで連れていくとすると、確実に遅刻だ。俺は絶対に途中でへばる。絶対に。しかも背後からの吐瀉物のリスクもある。

 もちろんおんぶのメリットも頭に浮かんだが、頑張って忘れる。

 誰か力持ちの人に連絡しようか、友達いないんだった。クソっ。


「やっぱり、迷惑だよね」


「ーーえ?」


「ごめんね。自分でなんとかするから、もう大丈夫」


「いや、でも」


 その人は電柱に体重を預けながら、ゆっくりと立ち上がった。


「起こしてくれたの、とても助かったから。ありがっーーとと」


 フラフラすぎる。そのフラフラの足でどこへ行こうというのか。多分どこへも辿り着けないんじゃないかな。


「......ほら、乗って」


「え?」


 全く意外、というような声を出す。

 このまま見捨てるのはなんとも目覚めが悪い。


「......でも、いいの?」


「......できれば、いや、絶対吐かないで欲しいけど」


「ふふっ、ありがとう」



 急いだつもりだった。背中に人一人乗せ、恐ろしいリスクに怯えながらも懸命に走った。ほぼ歩きだったかも知れない。その結果、俺の高校初日は五分遅刻で幕を開けたのだった。




拙作をお読みいただきありがとうございます。


誤字、脱字など、至らない点がありましたらご指摘お願いします。

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