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ぬくもりを食べる。  作者: rukko
軽い口溶け、優しい隠し味。
3/3

第2話


 それは討伐の依頼をこなして街に帰ろうとしていた時だった。辺りはすでに陽が傾き始めていて、森特有のしんとした寒さが肌を刺す。


 突如、異様な爆破音が響いた。何かが起きたに違いない。胸騒ぎがして、私は現場へと駆けていった。


 気配を殺し、森をかき分けていく。やがて、大きな木々に囲まれて仄暗い、わずかに開けた場所へ出た。そこで目にしたのは、ホブゴブリンとゴブリンメイジへ対峙するラディの姿だった。


 いくら名の知れたパーティで魔導士をしていたからとはいえ、上位種のゴブリンたちを相手に、魔導士ひとりで戦うのはかなり分が悪い。そして、彼は危険な依頼を無謀にもひとりで引き受けるといったような男ではない。何か不測の事態があったのだろう。


 「加勢する!」

 「……っ!」


 そうして、共闘が始まった。


 ラディは私の意図を汲むように、即座にホブゴブリンの足元に氷結魔法を放ち、動きを鈍らせる。私はその隙に、ゴブリンメイジへと踏み込み、勢いよく大剣を振り下ろす。その場の空気を裂くかのような斬撃の余波が、辺りへと伝わっていった。


 メイジが倒れ際にようやく声を上げる。それを見たホブゴブリンが、怒りに満ちた咆哮と共に、棍棒を振り上げた。私はその重たい一撃を受け止め、体ごと押し返すと、足元を封じられているホブゴブリンはバランスを崩し、よろめいた。その動きを正確に捉え、ラディが頭をめがけて火球を放つ。放たれた火球は、そのまま命中の瞬間に爆ぜ、炎に焼かれたホブゴブリンは目を押さえて唸り声を上げた。

 

 一気に畳み掛けようと、力強く地面を蹴り上げ、上空から剣を叩きつける。倒れ込んだ巨体の重みが、地面を伝わってこちらまで響く。

 そうして、森は元の静けさを取り戻していった。どうやら窮地を切り抜けたようだ。ラディに視線を移すと、彼は眉を曇らせながらも、緊張が解けた様子でゆっくりと息を吐き、安堵の表情を浮かべていた。


 「ありがとう。助かったよ。何かお礼でも……」

 「いえ。別に、当たり前のことをしただけだからいらないわ。それじゃあ……」

 

 誰であれ、このような状況であれば助けたはずだと、そう深く考えずにお礼を断って立ち去ろうとした。その時、自分のお腹から、小動物の威嚇する声かのような音がした。

 その音でようやく思い出した。討伐依頼を終わらせた時点で、すでに空腹だったことを。彼の方に目を向けると、どこか期待しているような笑みを浮かべていた。


 「……ご馳走しても、いいかな?」


 ご馳走という響きに勝てず、私はラディからのお礼を受けることにしたのだった。


 ✦ ✦ ✦

 

 すでに辺りは暗くなり始めていたため、討伐後の処理を手早く済まし、野営の準備をする。てっきり街に戻って酒場でご馳走してもらうものだと思っていたが、もう遅いからと、今夜はラディが料理を振舞ってくれることになった。

 

 焚き火が揺れ、パチパチと音を立てる。その上には鍋が吊るされていて、ラディは鍋へと手際良く食材を入れていく。普段、料理をしない私からすると、見慣れぬ光景だった。

 次にラディはホーンラビットの肉を取り出したかと思うと、慣れた手付きで肉を捌き、それを屋台でよく見る串刺しへと変えた。短時間で2品の準備を終えたところを見ると、普段から料理をしているのだろう。そんなことを思案していると、ラディが林檎酒を片手に隣へと腰掛けた。


 「開いてるんだけど、よかったら少し飲む?」


 料理が出来上がるまでの間、手持ち無沙汰になるのも、とお言葉に甘えることにした。林檎酒を飲みながら、先ほどの2体について話す。最近この辺りの魔物が増えていることに加え、今回の上位種の出現。ギルドへ報告するべきという話にまとまったところで、何やら香ばしい香りがしてきた。


 「おっ!もういいかな。はい、お待たせ。」

 

 そうして手渡されたのは、ホーンラビットの串焼き。染み出た脂が焚き火の光を反射させて輝いている。屋台で見るものよりも美味しそうだ。堪らずかぶりつくと、香草の香りがふわりと鼻に抜け、肉の味わいを際立たせている。


 「朝、たまたま出くわして幸運だったなぁ」


 そう言ったラディの顔を見ると、いつものへらりとした笑みとは異なり、頬がかなり緩んでいて少し幼く見えた。

 串焼きを食べ終わると、ちょうど測ったようにスープが出来上がった。


 「どうぞ、エレナさんの口に合うといいんだけど……」

 

 手渡された木の器の中には、湯気に包まれた黄金色のスープが静かに揺らめいている。まずひとくちスープを飲み込むと、あたたかく優しい味わいが胃袋に染み込み、少し冷えてきた体をほかほかと温めてくれる。体と共に心も温められたのか、味は似ていないのになぜか母の料理が頭によぎる。張り詰めていたものが緩むように、素直な言葉が口から溢れる。

 

 「おいしい。」

 「わ、よかった〜!」

 「……なんだか、安心する味。」

 「そう?」


 彼の方を見ると、普段よりも増して優しい眼差しでこちらを見つめていた。目があったことで、緩んだ彼の表情に、どこか心が浮つく感覚を覚えながら、返事をする。

 

 「普段、食事は空腹を満たすだけだから。」

 「そっか、あったまった?」

 「ええ。……これは干し肉?」

 「ああ!うん、あの時のやつだよ。スープにするの気に入ってるんだよね〜」


 そのような使い道があったのかと、普段どれだけそのようなことに関心がなかったのか思い知らされる。

 

 「確かに、そのままよりおいしい。」

 「あはは、気に入った?」


 喜びを隠しきれていない顔でこちらを見つめるラディにくすぐったさを覚える。初めは警戒すらしていたこの男に、私の心は随分と入り込まれてしまったようだが、不思議と嫌ではない。


 「うん。これ好き。」

 「……!じゃあさ、たまにでもいいから食べに来てよ。」

 「いいの?」

 「やっぱり俺は、誰かと食べる方が好きだからさ。お願い。」


 そう言いながら目線を逸らしたラディの横顔を眺める。この『お願い』はどこか切実に見え、放って置けない危うさのようなものまで感じた。今までとは違う心の動きを感じながら、ひとつ提案をすることにした。

 

 「わかった。パーティを組もう。」

 「……え?」


 こちらにパッと顔を向け、私の顔を伺うラディ。いつもより多い瞬きが彼の動揺を伺えて、少しおかしい。

 

 「私が美味しく食事をするだけじゃ不公平だから。……嫌?」

 「まさか!……ありがとう。」

 「とりあえず、お試しとして仮登録でもいい?」

 「もちろん!エレナさん、よろしく。」


 差し出された手を握ると、こちらまで熱くなりそうなほどの体温を感じる。

 月夜に照らされ、静寂で包まれた森の中。ゆったりと弾ける焚き火の音がこの一瞬を永遠のように感じさせる。

 頬にあたる秋風が心地よいことには、まだ気づかないことにしておく。


読んでいただきありがとうございます。

初めて書く描写が多く、更新がかなり遅れてしまいました(´・ ・`)

誤字脱字などありましたら、教えていただけるとありがたいです!


月1回は更新を目標に頑張ります^^♡

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