スパイト行動
スパイト行動……か。端的に言えば自分が損してでも相手の足を引っ張るという行為を指すもの。
二人の人間がいるとする。一方は100万円を貰うことができる。もう一方は100円を払うことでそれを阻止することができる。その場合、日本人は100円払う人が多いそうだ。自分が損してでも相手を得させない。足を引っ張りたい。そんな心理。
……まあ、根拠が薄いし、勿論そんな話、現実にあるはずがない。そもそも、この例にしても100円というのが安すぎる。払う金額が1000円や10000円ならまた話が変わってくるだろう。大体、状況は? スーツを着たミステリアスな雰囲気の男が100万円を持って現れ、二人の男に今の話をするのだろうか。その二人は知り合い? 友人? 見ず知らずの他人だったとしてもその後が怖い。100万円を手にできるところを邪魔したら恨まれるのではないか。
その相手と交渉はできないか? 邪魔しない代わりに10万でいいからくれとか私ならそうする。……なんて、あれこれ考えるのもバカらしい。有り得ないんだ。そんな話は。
とその話を知った時は、そう思ったのだが結局、私は100円を払った。いや、正確には300円くらいだったかもしれない。まあ、わからない。
「チッ、グズが」
男がそう言って店から出て行ったので財布の中身はもう確認しようがないのだ。
「あ……あの、すみません、私、怖くて動けず、お客様の、お、お財布が……」
深夜のコンビニ。そこでまさか強盗に出くわすとは。包丁を向けられ、震えて動けなくなってしまった店員。
それに対し、金を出せと吠える強盗に私はカード等を抜いた財布を渡した。モタモタしているとそれだけ警察に捕まるリスクが高まると思ったのだろう。男はそれで手を打ち、引き上げたのだ。
たとえ100円でも強盗は強盗。未遂じゃない。多分だが捕まれば強盗罪が適用されるだろう。あの男は大金も貰えず重い刑を科せられ、大損というわけだ。私も妻のお下がりの財布と今月の貴重な小遣いを失ったわけだが、ははは、いい気味だ。
「あ、ありがとうございました! ど、堂々としてて、すごくかっこよかったです……」
と、女性店員の顔にようやく笑みが戻った。
なんだ、損どころかむしろ得した気分じゃないか。