魔王城、最上階
魔王城、最上階。玉座の間。
「よお、久しぶりだな、元気にしてたか?」
「御託はよせ・・・また懲りずにやってきたか。勇者というのも難儀だな。はっはっは!」
時を止めているのにも関わらず、目の前の大男は高らかに笑っている。
「何度挑んでも同じ事よ。そもそもお前の攻撃はこの俺には通用せぬ。最初に来た時のことをもう忘れたか?」
実際、俺の攻撃は通用しない。文字通り。
物理攻撃、魔法攻撃、精神攻撃も。
状態異常も呪いも覇気も即死攻撃も属性攻撃も。
俺自身には攻撃能力が一切ない。
つまり、魔王を倒すには仲間が必要不可欠なのだ。
「お前を倒そうなんて今は微塵も考えちゃいないよ・・・ま、お前の攻撃も、俺には効かないんだがな!」
嘘だ。物理攻撃はもちろん、俺が使える攻撃手段は全部無効になっている。
しかし、魔王には俺に必ず効く、特効攻撃なるものを持っている。
そして、それに対応した装備も魔法もない。
避け続けるしかないのだ。
だが、俺の狙いは別にあった。
「正直、お前に用はないんだわ。俺が攻撃出来ないからってナメすぎだ!単体大戦略級拘束魔法『タルタロス』!」
この魔法には攻撃力が一切ない。
その代わりに、絶対に壊れないという素晴らしい魔法だ。
元々、檻の中に罪人を入れても、檻を壊したり、自殺したりということが相次いだのでこの魔法が作られたとか。
この中に居る者は無敵になる代わり、檻も同様に無敵となる。
「ほう・・・忌まわしき魔法よ・・・こんな魔法如きに遅れを取るとは・・・まあいい。どれだけお前が知恵を振り絞った所で俺を倒す事は不可能だ!」
「まだ気付かないのか?俺の目的はお前じゃない。」
俺は部屋を見渡す。
視界に入ってくるには、玉座の間という名前に恥じない豪華絢爛な椅子だ。
その後ろには、魔王の秘蔵のコレクションが眠っているという…。
俺は椅子の後ろにあったドアを蹴破る。
ロックが掛かっていたようだが、関係ない。
「ようやくだ・・・見つけたぜ!」
俺の手に握られていたのは、全てを巻き戻す魔法が書かれた魔導書。
これによって、この世界の全てがやり直される。
これを使って、俺は一番初めの、魔王に負ける前の世界まで巻き戻すつもりだ。
この世界線もなくなるし、当然俺の記憶も消える。そして、魔王の記憶も。
「じゃあな!魔王!またすぐ会えるから楽しみにしておけよ!」
俺は魔法を唱えた。