魔王城、四階
「でも安心しろ。俺は今回で魔王を倒すつもりはない。」
「え?・・・まるで次があるような言い方ね?」
こいつには俺が何度もやり直せることを教えていない。
そもそも敵地のど真ん中でそんな話が出来る訳がないんだが。
「今回は最上階には行かない。魔王城は五階が最上階だ。今は四階。ここが目的地だ。」
「ここに何があるの?・・・他の階層と大して変わりがないように見えるんだけど。」
ミュウは辺りを見渡しながらそう言ってくる。
「構造は別に変わらないぞ?この階層には国宝級のお宝が眠ってるんだ。」
「勇者のくせにお金目当てなの?いや、悪いとは言わないわ。現実的ではあると思うけど。」
そういうわけではないんだが・・・正直金には興味ない。昔はあったが、もう今は金を持っていても使わないしな。
「・・・この部屋だ。」
俺は静かに扉を開ける。
中は埃にまみれており、ミュウが思わず咳き込む。
「おお、これとかどうだ?ペンギンパーカーだ。素早さと魔法攻撃力、魔法防御力が大幅アップするぞ!あとは・・・このミニミニミニスカとかは?攻撃力なんか+2500もあるぞ?」
「い、いらない・・・こんな格好で外歩ける訳ないじゃん!」
却下されてしまった・・・昔は何でもいいみたいな感じだったのに。
何かシリーズ装備一式を見繕うか。
「じゃあこれならどうだ?お星さまパジャマ装備一式。魔力、魔法攻撃力、魔法防御力、魔力回復率も大幅アップ、さらに快眠のバフも付く。」
「・・・快眠のバフってどういう効果なの?」
「睡眠魔法が必中になる。」
・・・。
「そういえば、ミュウは睡眠魔法使えなかったな。ならば・・・お、魔法少女シリーズ一式と、天使姫装備一式があるな!どっちも空を飛べるようになるぞ!」
「なんでよ!こっちに爆炎竜の女騎士装備一式とか、竜巻の魔女装備一式とか!いっぱい候補があるのになんでそんなよくわかんないの選ぶのよ!?」
こっちの方が強いからなんだが?
「まあいいや、全部持っていけば。」
俺は装備を魔法で片っ端から搔き集めながらどんどん奥に進む。
「ちょ!ちょっと待ちなさいよ!これっ、重い・・・あ、ありがと。」
ミュウが重そうにしながら持っていた何か禍々しい大剣を魔法で持ち上げる。
「・・・これ絶対いらないだろ、呪いかなんかかかってるだろ!?」
「いいの!私はこういうのがいいの!」
「いやいや、俺二本の短剣渡しただろ!?できればサポーターになってほしいんだが!」
「無理!むーりー!私はガンガン前に出て敵をバッタバッタなぎ倒していきたいの!というか、あんたが私をサポートしなさいよ!勇者なんだからなんでもできるでしょ!?」
・・・毎回初めて会う時いつもこんな感じ。
やっぱり人って変わらないものなんだな。
「ミュウに前衛は危険だ。というか、お前さっきまで捕まってた癖によく言うよ・・・はぁ、そうなることは分かってはいたんだが・・・結局か。」
また同じことが起こるかもな・・・二度は失敗したくない。
「なんか私の知らない話がまだまだありそうなんだけど?・・・な、なにこれ・・・!?」
いつの間にか目的の物に到着したようだ。
「これが目的の品だ。いわゆる、異次元移動魔導機械と呼ばれる物だ。」
そいつはまるで大きな金魚鉢のような形をしている。
見た目は全くもって金魚鉢ではないが。
「おおー、ボタンとかレバーがたくさんあるね!押していい?」
「駄目。俺も使い方よくわかってないから、じゃあ入って。」
魔法で浮かしてた装備をこの中に全部詰め込む。
「いやいやいや!?今使い方分からないって言ったよね!?言ったよね!?」
「大丈夫だ、最低限の使い方は分かるからな。」
ミュウを魔法で浮かせて半強制的に詰め込む。
「ねぇ!怖いんだけど!?なんかこの中暗いんだけど!!」
「執筆魔法、時間操作魔法・・・こいつを起動し終わったらこれを読んでくれ。今までの全てが書いてある。」
「いやそれどころじゃないんだからね!?」
ぽちっ、というボタンを押す軽快な音と共に音を立て動き始める機械。
気が付けば既に中身は空。
「よし・・・じゃあ今回も殺し合うとするか。」
俺は時を止めた。