1⃣,呪いの剣〈獄神剣〉さん。
奈落の底へと落下していきまして──とくにクッションもなかったので、ぐちゃりと頭から落ちました。
下手したら即死ものでしたが、なんとか虫の息でしたので、まずその『死にかけ』を楽しんでから《ゴッドヒール》で再生します。
吊り橋上からはボードさんの悲鳴が聞こえてきました。リザードロードに捕獲されてしまったようですね。
どうもリザードロードには、武装クレイモア以外にもアビリティ攻撃があるようです。ボードさん、いまごろ痛めつけられているのでしょうね。
羨ましすぎますが、ボードさん的には不幸でしょうから、やはりここで羨ましがるのは不謹慎というものでしょうか。
奈落の底を進みます。松明もなくしてしまったので闇黒の中を。しかししばらく進むと、鈍色に輝くものが見えてきました。
宝箱。
古いもののようですね。
それこそ、何千年という昔から、ここに置かれていたものでしょう。宝箱といいましたが、訂正いたします。これは封じられた箱なのでしょう。開けるためには、鍵が必要のようですが。
ふいにまた例の呼びかける声がしてきました。その声のあるじが、この『宝箱』の中にいるのは、すでに明々白々です。
『われを解放するがよい。さすれば、貴様に力と絶望をくれてやろう』
ふむ。わたくし、力は、本質的には欲しくはありません。
ですがある程度の力がないと、敵から即死プレイをされてしまうわけですね。即死プレイを避けるためには、即死プレイを回避する程度の力は必要なわけです。
一方で、絶望とは?
わたくし、ここは躊躇ってしまいます。先ほどはたしか、『痛みと苦しみ』のようなことを言っていませんでしたか?
痛みと苦しみならば、わたくしの求めるところです。
しかしながら『絶望』? わたくしにとっての絶望とは、痛みも苦しみもないことです。はたして、この呼びかけのあるじは、そのことを認識していらっしゃるのでしょうか?
「お尋ねしても? どのような絶望なのでしょうか?」
しかし問いかけに返答はありません。ここは賭けてみるしかないようですね。痛みと苦しみの絶望なのか、痛みも苦しみもない絶望なのか。それは、わたくしの価値観による絶望か、そうでないかの話になってくるとは思いますが。
ところで。
「鍵がありませんが?」
なぜか、この問いかけには即答されました。
『鍵は、貴様の苦しみだ。われは苦しみを糧とする』
おや。初めから、そう言ってくださればいいのに。言葉足らずなお方です。手っ取りばやく、左手を宝箱に差し出しまして。
右手で、左手の爪を剥いでいきます。
小指、薬指、中指、人差し指、最後の親指がいちばん大変でして。
張り付いている面積が多いからでしょう。メリメリと捲っていきまして、めきりと剥がしました。
ああ、これがじみに痛い。頭を叩き潰されるよりも、意外とこういう地味なほうが、痛くて辛かったりするのです。
なんという、甘美。
きゅんきゅんしますね♪
『……なんだ、これは? 苦しみが、悦びに変換されている。貴様、さてはマゾヒストか』
「いいえ、わたくしはマゾではありませんことよ」
『……?』
「このようなことを申すのは、たいへん心苦しいのですが、マゾヒストのかたは、変態ではありませんか。わたくし、自分の性癖が『ユニーク』なのは認識していますが、変態ではございません」
『いや、貴様は変態であるぞ。みずからに苦痛を与え悦ぶという、途方もない変態であるぞ』
あぁ変態よばわりされることが、こんなにゾクゾクすることだなんて。
これからも断じて変態であることを認めないでおきましょう。
宝箱が開きました。
そこには、錆びれた剣が入っています。使いふるされた、ボロ雑巾のように捨てられた剣が。
「あなたもマゾですのね?」
『われを貴様と一緒にするでない』
この剣が、わたくしの先ほどからの話し相手のようです。しゃべる剣とは、まるで勇者が持つエクスカリバーのようではありませんか。
剣の柄を右手で握ります。
とたん右手が膨れ上がり、グロテスクな肉塊となってから、腐った肉として落ちていきます。
どうやら肉体が崩壊していくようです。この痛みとは、己の身体がボロボロに崩れていく絶望──これほどの快楽を一度に受けては、脳がもちませんよ?
「これは、どうしたことでしょう」
『われは〈呪われた武具Typeシグマ〉、名を〈獄神剣〉。装備者の物理攻撃力をカンストするかわりに、装備者の肉を朽ちさせ破壊するのだ』
「装備者の肉を朽ちさせてしまっては、装備できないのではありませんか」
『そうだ。ゆえにわれは装備不能の呪われた剣───貴様、なぜわれを装備しているのだぁぁぁぁぁ!!!』
へんなところで驚愕されてしまいました。
「朽ちて破壊される肉体箇所を、常時、《ゴッドヒール》で再生しているだけですが? それが何か?」
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