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38,消えない炎と、

 

 ようやくヤシダ神殿の地下ダンジョンに入りました。


 この時点で、探索クエストの〈鋼の敏〉とは別れることになります。ちなみにヤシダ神殿ダンジョンは、定期的に探索が入っているようですね。別れるさいに、念のためサトミさんにはダークドラゴンのことを知らせておきました。


「確定情報ではありませんが、万が一には備えておいてください」


 サトミさんは難しい表情で、

「ダークドラゴンか。ドラゴン種なのはジャバウォックと同じだか、微妙なラインだ」

「微妙?」

「ジャバなら全滅コース。よって退却を命じるが、ダークドラゴンだと、もしかすると討伐できるかもしれない。ゆえに、やってみたくなる」


 わかります。サトミさんも、ダークドラゴンに良い感じに痛めつけて欲しいのですね(ちなみにこの解釈は、あとでエミリさんに否定されましたが)。


「サトミさん。そちらのパーティに回復担当はいないようですので、無理は禁物ですよ」

「助言に感謝する」


〈鋼の敏〉ご一行と別れてから、かれこれ3時間ほど。

 われわれ〈被虐願望〉の三人は、地下ダンジョンの14階層を進んでいました。こちらのダンジョンは、壁が淡く発光してくれているおかげで、松明不要でさくさくと進むことができます。ただいまのところ、えげつないトラップや、ダンジョン生成型のモンスターとの遭遇もなく、ただ歩いているだけです。

 一種の放置プレイのようで、これはこれで楽しめますが。


 ボードさんがぼやきます。

「宝のひとつもありゃしないな」


 エミリさんも拍子抜けした様子で、

「サーリア。あたしも、この手のダンジョンははじめてなんだけども、こんなに何も起こらないものなの?」

「そうですね……ダンジョンによって、さまざまですが。おや?」

「この音は──遠くから、誰かが駆けてくるわね。あたしたちを追いかけてきている?」


 振り返りますと、人影が駆けてきます。黒い炎をまとって。

 エミリさんとボードさんが戦闘態勢を取ります。わたくしは、その人影に見覚えがありました。わたくし、人の顔と名前を覚えるのが苦手といいましたが、意外とそうでもないのかもしれません。

 自分の評価を上げましょうか? 


 ダークドラゴンの情報は、宿の食堂で密談していたお二人からもたらされました。またこのヤシダ神殿ダンジョンのことを教えてくださったのは、そのうちの片方、皮剥ぎナイフのかたでしたね。

 こちらの皮剥ぎナイフのかた、最後にはわたくしが皮を剥いでさしあげたので、とても気持ちよさそうに昇天されてましたが。

 このかた、その前日、宿の前で、別の男のかたと、やはり密談風に話していました。その会話の相手が、いまこちらに向かって、一生懸命に駆けてくるかたです。

 同じ商会のかた、と推測できますが。

 ちなみに、


「ぎゃぁぁぁぁぁぁあああああ」

 と、とても気持ちよさそうに絶叫されています。


「ねぇ、まって。あの男、黒い炎に包まれているけれど、あれはなんなの?!」

「黒と赤の混合魔法、《シャドウブレス》でしょう。消えることのない炎です」


 消えることのない火炎にその肉体を焼かれ、わたくしたちのもとにたどり着いたときには、完全なる黒焦げとなっていました。

 ですが《シャドウブレス》による黒い火炎には、もうひとつ特色があります。それは、死という終わりを与えぬことです。

 ある程度、その肉体を炭状にしてしまってからは、その状態が維持されます。

 ですので、黒焦げの肉体となり、火炎に苛まれながらも、終わることも許されない。その苦しみは、紛れもない地獄でしょう。


 あぁぁぁぁぁぁぁ、想像しただけで、わたくし、はしたないですが、少しだけ頂点に達してしまったようですぅぅぅぅ♡♡ 


「サ、サーリア、アヘっているところ悪いけれど、この燃えている人、まだ死なないわよ?」

「ええ、死という終わりも与えられぬ、それがダークドラゴンの《シャドウブレス》ですので」

「こ、殺してあげましょう。気の毒だわ」

「お待ちください」


 エミリさんが槍を使おうとしましたので、わたくしは止めました。《シャドウブレス》の黒い火炎は、消えないだけではなく、接触した物体へと確実に燃え移る性質があります。消えない炎が槍に燃え移れば、すぐにエミリさん自身へと火炎が伝わるでしょう。

 エミリさん、生きたまま燃えることが気持ちよくない人ですので、こうして止めたわけでず。


「サーリア。燃えないでよ? 燃えようとしないでよ? お願いだから、いまだけは変態ドMモードに入らないでよ? 泣くわよ、あたし?」

「ご安心ください。わたくしも、時と状況くらいは見極められますので」


〈獄神剣〉さんの《刃無残》で斬撃を飛ばして、《シャドウブレス》で燃え続けるかたの首を切断しました。これで絶叫も終わりましたね。このかたが、どこまで楽しんでいられたかは、神のみぞ知るです。


「ひとつ確かなのは、ここには《シャドウブレス》を使う生き物がいるということです」

「ダークドラゴンなのね、サーリア? うう、本当にいるなんて」


 ダークドラゴンならいいのですが、ね。ダークドラゴンではなく、かつ《シャドウブレス》を使うものがいた場合──ぞくぞくはしますが、困りもします。

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