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39/42

37,無題。

 

「…………すみません。あなたを覚えていないのですが?」


 ここは正直に白状しましょう。しかし、これでこのサムライガールさんが傷つかないことを祈ります。人を傷つけるのは、心が痛みます。

 が、その『心の痛み』は、罵詈雑言を浴びせられるのとは違い、あまり気持ちよくはないのです。……一万人くらいから、一斉に罵詈を浴びせていただきたいですね♪


「そうだろう。あなたは、私のことを知らないはずだ」

「あら、そうでしたか」

「あなたが〈牙突の天〉から抜けた、という話は聞いた。冒険者そのものをやめたとも。だが、こうして新たなパーティを組んでいるようで、私は個人的に嬉しく思う」

「はぁ。気にかけていただき感謝しますね」


 しばらくの間、周囲が不可解な沈黙におおわれました。それから急に皆さんが騒ぎ出します。まずわれらが〈被虐願望〉から、

「〈牙突の天〉!??! あたしたちが目指している、あのSSRランクの〈牙突の天〉?!」とエミリさん。

 ちなみに『あたしたち』と言いますが、わたくしは目指した覚えはありませんが。


「ただ者じゃねぇとは思っていましたが、まさか〈牙突の天〉のメンバーだったとは──そんな人を襲おうしたとは、おれも間抜けなもんでしたに」

「え、おじさん、いまなんて? サーリアのこと、襲おうとしたことがあったの? 事と次第によっては殺すわよ、おじさん」

「いや、おれは本気じゃ、なかったんだ、ぜ? マジで??」


 一方、〈鋼の敏〉のかたがたも驚かれたようでして。〈ウォリアー〉のかたが、サムライガールさんの肩をつかみまして、

「サトミ! 本当かよ?! 本当に、この変態が最強無比といわれる、あの〈牙突の天〉のメンバーだったというのかよ!」


 ふむ、サトミというお名前ですか。覚えました、はい。ところで〈ウォリアー〉さんの発言が許せなかったようで、エミリさんがつかみかかるようにして、

「ちょっと! 確かにサーリアは変態だけれども、そう言っていいのは、身内だけよ!!」

「なんだと? こっちの変態はともかく、てめぇが底辺なのはなんら変わりねえんだ。ここでその顔をボコボコにしてやろうか」

「できるものなら、やってみなさいよ!」


 一触即発のお二人の間に、サトミさんが歩を運びまして。瞬間、エミリさんと〈ウォリアー〉さんの身体が宙を舞い、どすんと仰向けに倒れます。あまりのことに、お二人とも毒気を抜かれたようですね。

 もちろん、いまのはサトミさんの仕業。ふむ、無駄のない体術です。これは相当の手練れですね。おそらく〈鋼の敏〉がSランクであることができるのは、こちらのサトミさんのおかげでしょう。


 サトミさんは何事もなかった様子で、

「サーリアさん。私は、実はあなたに回復してもらったことがある。ジャバウォック討伐のときに」


 ジャバウォック。討伐難度は、ついにランク付け不可でしたね。

「あの戦いは、思い出深いですね。冒険者ギルドに属する、すべてのSランク以上のパーティが全員強制参加となった。わたくしも回復要員として、頑張らせていただきましたが。一人ひとりはよく覚えていません」

「あなたの範囲回復魔法の《エリアヒール》、それと状態異常から防護する範囲型の《ルーンヴェール》がなければ、ジャバウォックには勝てなかっただろう。少なくとも、もっと犠牲者が出たはずだ」

「ジャバウォックは、広範囲攻撃と、数多の状態異常アビリティが特徴でしたから。わたくしもお力になれたようで、とても光栄でした」


 残念ながら──回復要員として、わたくし自身は複数のタンク要員のかたがたに守られ、あれほどの激しい戦いだったというのに、かすり傷ひとつ負うこともできませんでしたが。

 実は、わたくしが最初に〈牙突の天〉を抜けよう、〈セイント〉からジョブチェンジしようと思ったのも、ジャバウォック戦でした。

 ジャバウォックほどの敵を相手にしても、〈セイント〉として重宝されていては、傷ひとつ負うことができないのだ、と軽く絶望したものです。

「ジャバウォック戦のときも、こちらのパーティで?」

「いや、あのころは〈炎の輪舞〉でアタッカーをしていた」

「そうでしたか。〈炎の輪舞〉は、〈牙突の天〉とも対抗できる立派なパーティでしたね。しかしサトミさんが抜けたのでは、〈炎の輪舞〉は戦力が各段に落ちましたね」

「それをいうならば、〈牙突の天〉のほうが心配だ。チート級の回復担当を失って、あのパーティがはたしていまも『ギルド最強』の地位を維持できているかどうか」


 すると〈ウォリアー〉のかたが言いまして、

「俺が参加していりゃあ、ジャバウォック戦も、もっと楽なものになっていたはずたぜ。な、サトミ?」


 するとサトミさんは冷ややかなまなざしを向けまして、

「私はともかく、お前たちでは、ジャバウォック相手には秒殺されていただろう」

「ぐっ……そうなのか」


 エミリさんがくちをおさえまして、

「ププっ、言われちゃって」

「エミリさん。一応言っておきますと、エミリさんとボードさんも、ジャバウォック相手だと瞬殺コースですので。わたくしの回復も間に合わずに」

「……うう、ひどい」

 このようなことは言いたくはありませんが、言っておかないと公正を欠きますので。

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