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38/42

36,向き不向き。



 482回死んだところで、ついに地下ダンジョンへの入口が解かれました。

 数字パズルというのは手がかりをもとにして解読するものですが、その手がかりさえ分からず、かなり適当に並べていただけですからね。


 逆にそれで482回目で解き明かせたというのは、一種の奇跡ではないでしょうか。

 とにかく、わたくしも482回ほど死んだわけですが。


「えへ、えへへへ、えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ」

「サーリアが、アヘ顔しているのだけど、どうしてしまったのかしら? 死に過ぎて頭が壊れたの?」

「嬢ちゃん。あんたは、まだサーリアさんのことがよく分かってないようだな。もちろんこれは死にまくった悦びで昇天している顔に決まっている」

「だけど、サーリアにとって、《デス》での死は安らかすぎて、気持ちのいいものではなかったのでしょう?」

「わかってないなぁ、たしかにはじめこそサーリアさんは、あまりに安らかな死だというので、マゾ的満足を得られなかった。しかし、だ。考えてもみろ、安らかな死も繰り返し強制されたならば、そこにあるのはなんだ?」

「そりゃあ、純粋な苦しみ──あ、つまりサーリアは、途中から『《デス》による安らかな死』に苦しみを感じだしていたのね。そう、すなわち快楽を!! しかも気持ち良すぎて、こんなだらしないアヘ顔をさらすハメになるなんて。サーリア、しっかりして。ダンジョンに入る前から、昇天している場合じゃないわよ」


「え? いえ、わたくし、まだやれます。まだまだ、ここからです」

 と、わたくしも気を取り直して言いました。


「快楽のあまり満身創痍という感じだけども?」

「この先にはダークドラゴンが待っているのです。わたくしの戦いはこれからです」


 複数の足音が近づいてきました。四人パーティですね。

 ジョブ的には、前衛の物理アタッカー〈ウォリアー〉、後衛に補助系の〈トルバドール〉と長距離射程の〈アーチャー〉。

 それともう一人の女性のかたは、珍しい〈サムライ〉でしょうか。装備が刀というだけでなく、〈サムライ〉は応用のきく流派アビリティがあると聞いたことがありますが。


〈ウォリアー〉の男のかたがリーダーのようです。

「おっと、なんだお前たちは? ここの探索クエストは、おれたち〈鋼の敏〉が受注したはずなんだがなぁ? おれたち、Sランクパーティの〈鋼の敏〉がなぁ」


 わたくしの隣で、エミリさんが舌打ちして小声で言います。

「いちいち『Sランク』を強調しなくて結構よ」


 このタイミングで、冒険者パーティの探索クエストですか。討伐ではなく。

 そもそもダークドラゴンならば、Sランクごときでは、お話にならないでしょう。


〈牙突の天〉のような、SSRランクでようやく、なんとかかんとか。

 やはりダークドラゴンのことはまだ知らないようですね(といっても、われわれもダークドラゴンをまだ確認していませんが。直観的に、この先にダークドラゴンがいる、と分かってしまうわけです。わたくしを八つ裂きにするために)。


「探索クエストのかたがたですね。では、どうぞお先に」


 わたくしが扉に手を差し向けますと、〈ウォリアー〉のかたが言います。

「ほう。おれたちのために、扉を開けておいてくれたのか。気が利くじゃねぇかよ。まぁお前たち、見たところ底辺パーティのようだし、それくらいしか貢献はできないだろうがな」


 ボードさんが前に出まして、

「おい、いい加減にしやがれ。同じ冒険者だろ。ちったぁ、リスペクトというものをしやがれよ」

「リスペクトだと? てめぇらのようなカスを、どうしたらリスペクトできるってんだ? これだから、雑魚どもは身の程というものさえしらねぇんだな」

「なんだと?」


 瞬間、〈ウォリアー〉さんのウォーハンマーが弧をえがき、ボードさんに叩き込まれます。頭部を狙ったその一撃を、なんとかボードさんが右手でガードしました。ですが、いまので右手の骨は砕かれてしまったでしょう。あぁ、骨がぐしゃぐゃし♪


「ボードさん、いま治しますね」


《エンジェルヒール》で、ボードさんの右手を治癒します。


「おお、すまんです、サーリアさん」


 エミリさんが槍を構えます。

「やる気なの? いいわよ、やってやろうじゃない!!」

「いいぜ。教育の時間だ、底辺のカスどもが!」


〈ウォリアー〉のかたが戦闘態勢に入りますと、残りの〈トルバドール〉と〈アーチャー〉も続きます。しかし〈サムライ〉の女性は、じっと静観していますね。わたくしは双方の中間へと進み出、〈鋼の敏〉のかたに言いました。


「皆さんで、わたくしに『必殺技』といえる一撃を叩きこんでください。それで、この件は水に流しましょう。お互いに」

「あぁぁ? なんだ、この変態は? いいぜ。そっちが望んだことだ。遠慮なくやらせてもらうぜ!」


「まて」


 と、〈サムライ〉のかたが静かに言うと、〈鋼の敏〉の皆さんの動きが止まります。ふむ。やはり、このサムライガールさんが、リーダーでしたか。

 そのかたは、わたくしの前に歩いてきました。


「これは懐かしい顔だ。サーリア」

「………はい」


 ………………いまだから言いますけど、わたくし、人の顔と名前を覚えるのが、得意ではありません。

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