34,神殿探索行。
アリルキ湖に到着。到着とはいいましたが、まだ数キロは先です。
丘の上から見渡すと、水平線まで広がる湖が視認できたわけですね。
確かにこれは海と誤解してもおかしくないレベル。湖というより内海じゃないんでしょうかね。
ここの定義って、なんなんでしょうか。溺れてみたら分かるかもしれません。溺死スタイル。じゅるり。
「サーリア。わざと溺れたりしないでね。回収するのが面倒だから」
事前に釘をさされてしまいましたか。
湖畔にある町には港があり、そこから船も出ているようです。
しかしながらコート島への上陸は国から禁じられているようで、たとえば正式なクエスト受注証があるなら話は別だとか。
そのような説明を受けたうえで、ひとまず町のレストランで早めの夕食としましょう。
エミリさんがガッカリした様子でいいます。
「さてと、どうしよっか? ダークドラゴンの報告を冒険者ギルドにして、正式にクエストとして発注してもらう? うーん。分かってる。これは問題だらけだよね。ダークドラゴンの情報って、どこかの商会の内緒話から。根拠薄弱すぎて、クエスト扱いはしてくれない。逆に信じられたら、それはそれでSランク以上のパーティ限定クエストとかになって、あたしたちは受注できない。うーむ、困ったわ。サーリア、顔が青いわよ?」
「………………」
「サーリア、喉にステーキつまらせたの? わざとでしょ! 吐き出して!」
「……………いえ飲み込みました。エミリさん、冒険者ギルドを通そうとするのは、どうしても悪手でしょう。ほかの手立てを考えるべきかと」
すでに葡萄酒でできあがっているボードさんが言いまして、
「こういうのは、おれの領分だな。任せておいてください、サーリアさん」
「はいお任せします」
その夜。氷風呂のことがエミリさんにバレて、
「ちゃんとしたベッドで眠って、サーリア。これはお願いじゃないわよ。命令よ」
望まぬことをさせられるのも、これはこれでゾクゾクいたしますね。
ですので、今夜はちゃんとベッドで眠るとしましょうか。夜もすっかり更けたところ、ノックがありました。二日連続で拉致でしょうか?
しかし拉致犯はノックなどしないでしょう。ちゃんと扉の鍵は開けてあるわけですし。
「はい? ボードさんでしたか、どうされました?」
「サーリアさん。いまなら、コート島に行けますぜ。支度してください」
支度して廊下に出ると、エミリさんがすでに待っていました。エミリさんもボードさんに突然起こされたようですが、そこは鍛錬をつんでいるだけあって、まったく眠たそうではありません。ただイライラはしているようですが。
「おじさん。何か動くんだったら、事前に知らせてくれないと。仲間を驚かせてどうするのよ?」
ボードさんは、裏社会ネットワークで、コート島への密航に手を貸してくれる船長を見つけてくれたわけです。
人の目のつかない夜のうちに運びたいというので、急遽、出発となりました。
この船長さんは、定期的に密航に手を貸しているようですね。ただ、そうしてコート島に運んだうち、何人が無事に帰還したのかまでは知らないとか。
少なくとも迎えにはきてくれないようなので、何かしら帰りの方法も考えたほうがいいでしょう。わたくしだけでしたら、岩を背中にしょって、泳いで戻るのですがね。
そして途中で力尽きて溺れる……ぞくぞくいたしますね。
コート島には接岸できないというので、船から小舟に乗り移り、わたくし、エミリさん、ボードさんだけでコート島へ漕いで向かいます。コート島のまわりは断崖絶壁。絶壁をよじ登る必要があるわけです。ふむ。苦労して絶壁を登り切りそうになった、そのとき、不慮の事故で落ちる。すべて、一からやり直し。その絶望感は、おそらく心にしみわたるのでしょうね。
「サーリア。わざと落下とかしたら、怒るわよ」
「……エミリさん。最近、わたくしのことをわたくしより理解しているのではありませんか?」
「だとしたら、それって喜ぶことなのかしら? まったく、〈被虐願望〉のリーダーは世話を焼かせるわ」
エミリさんをがっかりさせるわけにもいきませんので、意図的な落下はなしで、絶壁を登りました。そこから密林地帯をすぎて、ようやくヤシダ神殿が見えてきます。
神殿、といっても、だいぶ質素なものですが。そもそもなんの神をまつっているのかも、いまだ定かではないそうです。
だからというわけではありませんが、闇黒神の可能性は高いのではないでしょう。単純な推理です。ダークドラゴンは、闇黒神の眷属ですからね。
闇黒神の封印が解かれましたら、この世界は大変なことになってしまいます。飢餓に戦争。人々が悲しみ、死にたえ、腐敗臭があたりを漂うことになるでしょう。
わたくし、自分を虐めてくださるのは嬉しいですが、罪のない人たちが、とくに好きでもないのにそのような目にあうのは黙って見てはいられません。まぁ好きなかたならばいいのですが。どうも、虐められるのが好きな人は、少数派のようですし。
「はじめこの神殿が見つかったとき、誰も地下ダンジョンには気づかなかったそうよ。入口は隠されているんですって」とエミリさん。
「嬢ちゃん、詳しいな」
「これくらい、事前に調べておくわよ、おじさん」
「嬢ちゃんが情報担当、おれは『足』担当だったわけだな。そしてサーリアさんは──」
わたくしは用意していた松明に火をつけて、神殿に入ります。
「さぁ、行きますよ、皆さん」
「パーティを率いるリーダーよ」とエミリさん。




