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33,絶叫を定義するならば、

 

 皮剥ぎナイフさんの皮を剥がせていただき、わたくしと同じ悦びを体験していただきます。


 このとき、皮剥ぎナイフさんは、ダークドラゴンの出現地について、なーぜか絶叫しながら教えてくださいました。

 全身の皮を剥ぎ終えてから、ふと思いますに、彼はわたくしが『ダークドラゴンの出現地』が知りたく、このような行為に及んでいると『誤解』したようです。


 もちろん、わたくしは情報を得るための拷問、などという野暮なことは致しませんでした。

 わたくしは、ただただ快楽という、崇高なもののため、一生懸命に剥いだのです。


「さて、エミリさんたちが心配していますね。帰るとしましょう」


 皮剥ぎナイフさんは、ひくひくしながら這っているので、このままでも大丈夫ですね。

 徒歩で宿に戻ったころには、昼過ぎになっていました。だいぶ遠くまで馬車で運ばれてしまっていたようです。


 宿の外では、ちょうどエミリさんが腰に手を当てて、小首をかしげているところでした。


「エミリさん」

「あっ、サーリア! もう、どこに行っていたのよ? 朝一でダークドラゴンの密談していた連中を追跡するんじゃなかったの? サーリアがどこかに消えている間に、彼らも姿を消しちゃったわよ。宿のおかみさんが言うには、夜明け前にチェックアウトしたそうで、すごく迷惑だったみたい」


 話がかみ合っていませんね。


「わたくし、そのかたがたに誘拐されていました」

「えっ! 誘拐? それで大丈夫だった──わよね。サーリアがいまさら、たかが小悪党ごときに、どうこうされるとも思えないわ」

「うふふ♪ 逆さ吊りにしていただいて、皮を剥いでいただきました♪」

「サーリア。お願いだから、子供は作らないでね。サーリアのその『イカれた遺伝子』は、サーリアの代で止めておいたほうが、人類のためだと思うの」

「妊娠プレイですの? ふむ、新しい扉が開きそうな──」

「開かないで!!」


 などと話していましたら、ボードさんが戻ってきました。

 どうやら、わたくしを捜しに出ていたようです。わたくしたちはいったん宿の部屋に戻りまして、わたくしはお水を飲みました。拉致されてから一滴も飲んでいませんでしたので、脱水症状が出ていたのです。

 ええ、もちろん脱水地獄も気持ちよくはありますが、会話できなくなると、エミリさんたちに迷惑をかけますからね。


 それにわたくし、『渇き』よりは『溺れさせ』系のほうが好みですの。


「密談されていた方は、どこかの商会のかたがたでした」

「商会の? ねぇ、連中って誘拐とか拷問までするの? かなり危険な奴らなのね」

「いまはどこも不景気ですから」

「うーん。それは説明になっていない気がするけども。それで、ダークドラゴンの出現地について、なんだかんだで聞き出したのよね?」

「ええ、気持ちよさそうに絶叫しながら」

「一般的に絶叫している人は、気持ちいいわけじゃないのよ、サーリア」

「あら?」


 ダークドラゴンの出現地は、ヤシダ神殿というところのようです。このヤシダ神殿は、コート島にあるとか。


「コート島は、アリルキ湖内にある孤島よね。アリルキ湖自体は、ここから十キロくらいで行けるけれど──あそこって、ばかでかいのよね? 実際に行ったことはないんだけど」

「そういえば、わたくしも行ったことはありませんね」


 まだ二日酔いが抜けていない様子のボードさんが、水を飲みながら言いました。

「近くの村のガキが、海と勘違いしている奴がいるくらいにはでかいな。湖畔から向こう岸が見えないくらいだ。確かコート島とかいうのは、この湖の中央にある。当然、船でなきゃ行けないわけだが。サーリアさん。本当にヤシダ神殿と言ったんですかい?」

「ええ」

「おじさん、その神殿に詳しいの?」とエミリさん。


「詳しいわけじゃないが、十年くらい前に、そこの神殿の大々的な探索クエストが、全冒険者向けで発注されたんだ。つーのも、この神殿は地下ダンジョンだったからなんだが」

「ふーん。それで? まさかおじさんの昔話だけで終わらないでしょうね」

「まぁ聞けって。察しのとおり、おれもまだ冒険者だったから、パーティ仲間と参加した。神殿探索はルートを記録するのが目的だったから、お宝があったら、自分たちのものにして良かったからな。かなりの冒険者がもぐったはずだぜ──そういや、二か月後に、いきなり中止になったんだったな」


「どうして突然?」

「さぁな。ただ、そのとき噂で、神殿ダンジョンの最深部で、ヤバいものが見つかったとかなんとか」

「そのヤバいものって、ずばりダークドラゴン?」

「知るかよ」


「闇黒神」と、わたくしはなんとなく呟いていました。

 しかし人間の『なんとなく』には、深ーい理由があるものです。


 エミリさんとボードさんが、同時にわたくしの顔を見やりました。

「サーリア。それって、どういうこと? 闇黒神って、なによ?」

「いえ、ただ闇黒神の使役獣のリストには、ダークドラゴンもいたな、と思ったまでです。では、お二人とも。さっそく向かいましょうか、ヤシダ神殿へ」

「…………この流れで、まったく行くモチベにならないんだけれど?」


 とはいえ、もちろん出立したのです。これを運命というのかもしれませんね。

 ……絶叫は一般的に、気持ちいいという意味ではないのでしょうか?

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