①,ウルスラ。
~ウルスラ~
ウルスラ、ウルスラ、それがわたしの名前。嫌いじゃないけれど。
わたしが幸せを感じられるのは、これはもう限られている。とても慎ましい幸せ。お金とか名誉とかはいらないの。
わたしはただ、他人を痛めつけることができたら、それだけで幸せ。
なんて、慎ましいのでしょう。
わたしは自分でいうけれど、本当に幸せに多くは求めないのね。
先日も、旅の途中、ある親切な一家がひとばん泊めてくれたわけ。寒かったでしょう、とあたたかいシチューを作ってくれたわけね。
それでわたしは、感謝の心とともに、まず黒魔法の《シープ》で全員を眠らせてから、縛り付けたのね。両親と、子供三人、おじいちゃんが一人。
わたしは年寄りには優しいので、まずそのおじいちゃんを殺して、解体して、人肉ステーキにしてあげた。
この人肉ステーキを、そこの子供たちに無理やり食べさせたときの、あの快感といったら、最高だったわぁ~♪
ここからが、とても盛り上がるポイント。
家族四人に、無記名で投票させるわけね。
つまり『誰を殺すか』を。あたしは、『誰か一人が得票数トップになったら、生きたまま切り刻みますー。それ以外の人は、生きたまま解放してあげまーす』と約束したわけね。
まぁ嘘なんだけども。全員刻んで薪ストーブに入れる気満々なんだけども。
別に嘘をついてちゃいけないって、法はないものね。
え、あるの? ふーん。
とにかく、わたしはさらに、その家族に念押しして説明したわけ。
つまり、『同率だったら全員、生きたまま切り刻む』と。だからみんなが自分に投票するわけにはいかない。誰かひとり、家族の中で生贄を捧げないといけない。
この地獄の条件で、葛藤し、苦悩する。
そんな他人の苦しみこそが、わたしの慎ましやかな幸せになるのね。
わたしって、本当に多くは求めない。だからこの一家を皆殺しにしたあと、間違っても金品を盗んでいったりはしない。
わたしは窃盗犯ではないもの。わたしは悪人ではないわけね。
どっちかというと、善良なわけ。道を聞かれたら、喜んで教えてあげる。アキレス腱を切断するけども。
ああ、そういえばこの前、母親のアキレス腱を切断してから、幼い子供を河に落としたけども、溺れる子の苦しみ、アキレス腱を切断されて動けず助けに行けぬ母親の絶望──
あれはとても気持ちがいいものだったわぁ~♪
話を戻します。四人家族は無記名投票して、なんか次男が選ばれた。これは、ちょっと予想外。こういうのはたいてい、父親が生贄になるものだから。ところが満票が次男に入った。つまり次男以外のパパママ長男が、次男に票を入れたわけね。さらに次男は、これはもう泣ける話で、自分に入れている。この次男の心の、なんて綺麗なことかしら。
わたしと気があいそうだわ。次男に満票入ったこと伝えると、大泣きしだしたけれども。そのあとは次男を切り刻んで、「話が違う」と抗議する残りの家族も切り刻んで、薪ストーブで焼いた。
それが、先週のこと。あれは幸せだったけども、ここのところは幸せと程遠い。だから、わたしがいま宿を取っている、この町を焼くつもり。
町の名前は、レルガタ。
王国領土の南南西に位置する小さな町。
まずは黒魔法の《フォースフィールド》で、この町を覆う。誰一人、逃げられないように。《フォースフィールド》は破ることのできぬ最上位の結界魔法だもの。
わたしはウルスラ、かつては冒険者ギルドという変なところにいて、SSRランクとやらを頂戴したこともある。
魔導士系最上位のジョブである〈ウィッチクイーン〉。
黒魔法を極め、パーティ離脱するさいには、ちゃんとそのメンバーを生きたまま焼き殺してきた。そうそう、わたしは、人を焼くのも素敵だなと思うわけ。人肉の焼ける匂いと絶叫に浸っていると、ぞくぞくするわ♡
だからこの町も焼くことにした。
聞いたところだと、町民は1210人。《フォースフィールド》で閉じ込めてから、《フレイム》を発動。ちなみに《フレイム》などの火炎系魔法は、赤魔法に属すけれど、わたしは黒青赤、すべての魔法を使いこなせる。唯一使えないのが、白魔法。だって、他人を回復する魔法よ。そんなもの、会得する必要があって?
さぁ、《フレイム》はいま、町の建物を焼き、逃げ惑う人々を焼いている。町から逃げようとした人たちが《フォースフィールド》という不可視の結界にぶつかり、それを破ろうと、無駄な努力をしている。そんな彼らを、わたしが作り出した火炎が追い付き、焼き殺す。わたしはすべてを、上空から眺めている。箒に腰かけて、コーヒーを飲みながら。
「あは、あはははははは♡♡♡♡」
あぁぁぁ、わたしの幸せって、慎ましいわ。




