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29,あらためて〈被虐願望〉。

 

『隠されていた手紙は、実は目の前に置かれていた』手法。


 聖猟騎士団に捜索される中、わたくしたちはもともととっていた宿に戻りまして、ひっそりとしていました。

 うつらうつらしていたところ、外の様子を見てきたボードさんが報告しに戻ってきまして、


「朗報だ。騎士団の連中、町から出ていくぜ。サーリアさんが手をまわしてくれたおかげのようですな──にしても、騎士団を動かせるとは、いったいどんなコネがあるんですかい?」

「いえいえ、わたくしの手柄というより、わたくしの良き友のおかげです」


「良き友──ふぅーん」

 と、エミリさんがなぜか複雑そうな顔で呟きました。


 騎士団長を説得できるなんて、メーベルさん、さすがですね。

 ふむ、千回刻み、じゅるり。


「もう、家に戻っても大丈夫なんですか? 弟のトーマスが心配です」

 とルーク君。

「そうですね。ではルーク君をお送りしましょう」


 ルーク君の実家に戻りますと、すでにトーマス君が保護されていました。

 ルーク君を引き渡しますと、ご両親にとても感謝していただきましたね。

 人助けも良いものです……………ええ、正直に申しますと、たしかに物足りないことは否めませんが。

 本当ならば、『なぜもっと早くグール化を解除してくれなかったんだ? この使えない元聖女が。役立たず、死んでしまえ!』くらいの、罵詈雑言を期待していたのですがね。


 ふむ。わたくしたちはルーク君たちに別れを告げ、町の広場まで戻りました。

 つい先刻はここでそろっていた聖猟騎士団の姿も、いまはまったくありません。一人残らず王都に引き上げたようですね。

 グール騒ぎも解決されました、が──


 しばらく、この町には保安官不在となるでしょう。

 ところで。

 わたくし、保安官のディードさんが、なぜグール因子に《プロテクト》をかけていたか、ひとつ仮説をたててみました。

 グール騒ぎを鎮静化させないことの目的が、聖猟騎士団をおびき出すことだったとするならば。

 何らかの仕掛けを、騎士団に仕込むことこそが、真の目的だったのかもしれません。

 念のため、あとでメーテルさんに伝えておいたほうがよいでしょう。


 エミリさんがおっしゃいます。

「さ、これで一件落着。ここの冒険者ギルド支部には、これといってクエストもなかったし、次の町に向かうことを提案するわ」


「ま、達者で暮らせよ、お二人さん」

 と、立ち去ろうとするボードさんを、エミリさんが引き止めます。

「おじさん、どこにいくのよ? まえにも言ったでしょ。貴重なアタッカーなんだから」


「そうはいうが、このパーティ、物理攻撃アタッカーはもう充分だろ。お前と、サーリアさんだ。サーリアさんは、同時に最強の回復担当でもある。

 つーか、サーリアさん。よくよく考えなくても、化け物ですね。物理攻撃カンストなんて聞いたこともない。その上、死んでも生き返るチート級の〈セイント〉ですもんね。ああ〈セイント〉は元でしたっけ」


「サーリアに前衛を任せられるわけがないでしょ。確かに攻撃力は凄いけれど、そもそもこの人、積極的に戦ってくれないし。積極的に攻撃されるし。それを考えると、タンクがベストなのでは」

 

 わたくし、頬をそめて言わせていただきます。

「わたくし、たしかにタンク系ジョブへの転職が希望です。敵からの攻撃を引き付ける《挑発》を覚えたいですの。是非とも」

「……問題はタンクのわりには、肉体が脆弱ということのような。タンク系ジョブチェンジの条件、まったくこえてないわよ」

「努力いたします」

「……とにかく、おじさんに拒否権はないわよ。盗賊として突き出されたくなかったら。ちなみに、あえて言うまでもないでしょうけども、新国王が即位されてからは厳罰化の方向にあるから、盗賊なんかも下手したら一発で絞首刑ものよ」

「……ち、仲間だというのに、脅すとはな」

「仲間ならば、ついてきなさい。サーリアも、おじさんがいたほうが何かと便利、ではなく心強いわよね?」

「ええ、そうですね」と、わたくし。

「ぐ、分かった。このパーティがもっと形になるまでは──あぁ、そういうやなんという名のパーティだったか?」


「……〈被虐願望〉よ。名付け親は、いうまでもないでしょうけども、サーリア」

「あぁ……そうだったか」


 あら、お二人から『まともなネーミングセンスじゃない、イカレているのか?』という視線を感じます。

 うふふ。素敵なお友達たちですわ。


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