表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/42

26,与えよ、さらば与えられん。

 


 放置プレイの、通好みの快感に浸りながらも、やはりこれは刺激が少なすぎる。

 わたくしにも好みはありますので。


 このスライム状の解除には、力技よりも、『状態異常』であると解釈して《メディク》で解除したほうが早いでしょう。

 たいていの妨害攻撃は『状態異常』と無理やり解釈する裏技は、案外に知られていないものです。


 一方、アベルさんに立ち向かう、エミリさんとボードさん。

「おじさん! 騎士団隊長の首を取ったら、冒険者として箔がつくわよ! 逮捕されなかったら、のことだけども」

「箔なんて知ったことか! おれはこいつが気にいらねぇから叩きのめすだけのことだぁぁ!!」


「雑魚どもが」

 と、アベルさんの全身を《緩衝領域》のスライムが包みます。

 これによってエミリさんの《ライジングスラスト》とボードさんの《ブレイクアタック》、双方の渾身の技が防がれました。

 ふむ。《緩衝領域》のスライムは、防御にも敵拘束にも応用がきくわけですか。あまり、わたくし好みではありませんが。

 痛みなくして悦びなしの精神を、騎士でありながらお忘れとは。

 

 さらにスライムは、エミリさんの槍と、ボードさんの拳にからみつき、動きを封じます。

 そこをアベルさんの剣技が披露され、お二人の身体を鮮やかに斬ります。スライムによる防御からの動き封じからの剣による必殺の斬撃。

 お見事ですね。


 エミリさんとボードさんの致命傷を《ゴッドヒール》で治癒。それから、アベルさんの背中に向かって言いました。

「アベルさん。わたくしはいま、『斬られる』について学んでいこうとしているところです。つまりですね、同じ麺料理でも、地方によって味わいが違ってくる。それと同じで、ただ『斬られる』痛みにも、得物の種類や、それを扱う者の技量、技の種類によって、まったく異なる味わいが出てくると思うのです。さぁ、ですから、どうかあなたの剣で、このわたくしを斬るのですよ」


 アベルさんはこちらを振り返り、にこやかに言いました。

「何度も言うが、僕は未来の妻たる君に傷ひとつつける気はないよ。諦めたまえ」


 わたくしが反論する前に、エミリさんが言います。

「サーリア。あなたのこと、理解したわ。理解した。いま、どうしてか、このときに理解した。だから、あなたに贈るのは、この言葉よ。

 サーリア、よく聞いて。これが、あなたの人生の指針になるはずだから」

「エミリさん? 一体なにを──?」

「いいから聞いて。この言葉を。この真理を。サーリア」

「はい?」

「『与えよ、さらば与えられん』よ」

「え、いまなんと?」

「『与えよ、さらば与えられん』。

 欲しいものがあったら、まずはすすんで与えなくちゃ。痛みが欲しかったら、まずは痛みを与えるしかないのよ!!!」


 なんという、ことでしょうか。

 わたくしはこれまで、求め続けてばかりでした。

 求めてばかり──痛みを。

 なんという、欲張りで自分勝手なことだったのでしょうか。


「『与えよ、さらば与えられん』、ですか。確かに、それはわたくしの行動指針になりえます。状況にもよりますが──

 まずは、痛みという悦びを、あなたに与えてさしあげましょう、アベルさん」

「残念だが、サーリア。僕の《緩衝領域》は破れないよ。君は、自分に使われた《緩衝領域》のスライムを《メディク》に状態異常と思い込ませて解除したようだ。しかし僕自身が、僕の防御に使うスライムにまで、そのごまかしは通用しないよ」


「〈獄神剣〉、固有アビリティtypeⅠ《刃無残》!!」


〈獄神剣〉は物理攻撃力カンストですが、さらにそこから『さらなる攻撃力』を上乗せする、この無慈悲なる一撃 (わたくし自身が食らいたいものです)。

 ところが《刃無残》をもってしても、アベルさんの《緩衝領域》は突破できません。


「だから言っただろう、サーリア! さぁ諦めて僕の嫁になるんだ」


「なんでサーリアの一撃が防御されたからって、サーリアがあんたの嫁に行かなきゃならないのよ」

 とエミリさんが冷ややかに言います。


「〈獄神剣〉さん。あなたは、この程度ですか?」

『むろん、否だ。われの力を、思い知らせてくれよう!』


 瞬間、《緩衝領域》のスライムを〈獄神剣〉の斬撃が突破し、アベルさんに痛烈な一撃をくわえます。

 飛び散る血潮。


「ぐ、ぁぁ、バカなぁぁぁ、僕の《緩衝領域》が破られただとぉぉぉぉ!!!」

 

 呵々大笑する〈獄神剣〉さん。

『小僧!! 呪われた剣の斬撃、貴様ごときの技で受け止めきれるものかぁぁ!!』

 まぁ、わたくしにしか聞こえませんがね。


「さぁ、斬りましたよ。わたくしは、斬りましたよ、アベルさん。あなたは、どうされるのですか?」

 

 わくわく。

お読みいただきありがとうございます。ブクマ登録、評価などお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ