26,与えよ、さらば与えられん。
放置プレイの、通好みの快感に浸りながらも、やはりこれは刺激が少なすぎる。
わたくしにも好みはありますので。
このスライム状の解除には、力技よりも、『状態異常』であると解釈して《メディク》で解除したほうが早いでしょう。
たいていの妨害攻撃は『状態異常』と無理やり解釈する裏技は、案外に知られていないものです。
一方、アベルさんに立ち向かう、エミリさんとボードさん。
「おじさん! 騎士団隊長の首を取ったら、冒険者として箔がつくわよ! 逮捕されなかったら、のことだけども」
「箔なんて知ったことか! おれはこいつが気にいらねぇから叩きのめすだけのことだぁぁ!!」
「雑魚どもが」
と、アベルさんの全身を《緩衝領域》のスライムが包みます。
これによってエミリさんの《ライジングスラスト》とボードさんの《ブレイクアタック》、双方の渾身の技が防がれました。
ふむ。《緩衝領域》のスライムは、防御にも敵拘束にも応用がきくわけですか。あまり、わたくし好みではありませんが。
痛みなくして悦びなしの精神を、騎士でありながらお忘れとは。
さらにスライムは、エミリさんの槍と、ボードさんの拳にからみつき、動きを封じます。
そこをアベルさんの剣技が披露され、お二人の身体を鮮やかに斬ります。スライムによる防御からの動き封じからの剣による必殺の斬撃。
お見事ですね。
エミリさんとボードさんの致命傷を《ゴッドヒール》で治癒。それから、アベルさんの背中に向かって言いました。
「アベルさん。わたくしはいま、『斬られる』について学んでいこうとしているところです。つまりですね、同じ麺料理でも、地方によって味わいが違ってくる。それと同じで、ただ『斬られる』痛みにも、得物の種類や、それを扱う者の技量、技の種類によって、まったく異なる味わいが出てくると思うのです。さぁ、ですから、どうかあなたの剣で、このわたくしを斬るのですよ」
アベルさんはこちらを振り返り、にこやかに言いました。
「何度も言うが、僕は未来の妻たる君に傷ひとつつける気はないよ。諦めたまえ」
わたくしが反論する前に、エミリさんが言います。
「サーリア。あなたのこと、理解したわ。理解した。いま、どうしてか、このときに理解した。だから、あなたに贈るのは、この言葉よ。
サーリア、よく聞いて。これが、あなたの人生の指針になるはずだから」
「エミリさん? 一体なにを──?」
「いいから聞いて。この言葉を。この真理を。サーリア」
「はい?」
「『与えよ、さらば与えられん』よ」
「え、いまなんと?」
「『与えよ、さらば与えられん』。
欲しいものがあったら、まずはすすんで与えなくちゃ。痛みが欲しかったら、まずは痛みを与えるしかないのよ!!!」
なんという、ことでしょうか。
わたくしはこれまで、求め続けてばかりでした。
求めてばかり──痛みを。
なんという、欲張りで自分勝手なことだったのでしょうか。
「『与えよ、さらば与えられん』、ですか。確かに、それはわたくしの行動指針になりえます。状況にもよりますが──
まずは、痛みという悦びを、あなたに与えてさしあげましょう、アベルさん」
「残念だが、サーリア。僕の《緩衝領域》は破れないよ。君は、自分に使われた《緩衝領域》のスライムを《メディク》に状態異常と思い込ませて解除したようだ。しかし僕自身が、僕の防御に使うスライムにまで、そのごまかしは通用しないよ」
「〈獄神剣〉、固有アビリティtypeⅠ《刃無残》!!」
〈獄神剣〉は物理攻撃力カンストですが、さらにそこから『さらなる攻撃力』を上乗せする、この無慈悲なる一撃 (わたくし自身が食らいたいものです)。
ところが《刃無残》をもってしても、アベルさんの《緩衝領域》は突破できません。
「だから言っただろう、サーリア! さぁ諦めて僕の嫁になるんだ」
「なんでサーリアの一撃が防御されたからって、サーリアがあんたの嫁に行かなきゃならないのよ」
とエミリさんが冷ややかに言います。
「〈獄神剣〉さん。あなたは、この程度ですか?」
『むろん、否だ。われの力を、思い知らせてくれよう!』
瞬間、《緩衝領域》のスライムを〈獄神剣〉の斬撃が突破し、アベルさんに痛烈な一撃をくわえます。
飛び散る血潮。
「ぐ、ぁぁ、バカなぁぁぁ、僕の《緩衝領域》が破られただとぉぉぉぉ!!!」
呵々大笑する〈獄神剣〉さん。
『小僧!! 呪われた剣の斬撃、貴様ごときの技で受け止めきれるものかぁぁ!!』
まぁ、わたくしにしか聞こえませんがね。
「さぁ、斬りましたよ。わたくしは、斬りましたよ、アベルさん。あなたは、どうされるのですか?」
わくわく。
お読みいただきありがとうございます。ブクマ登録、評価などお願いいたします。




