25,放置プレイ。
聖猟騎士団伍番隊のかたがたが周囲を取り囲んでいます。さすがに保安官事務所の破壊は一目を引きすぎたようですね。
隊長アベルさんがいたので、わたくしはそちらに向かいました。
隊長護衛騎士のかたがたが、わたくしが不用意に近づくものですから、殺意を向けてきます。このままさらにずんずんと近づけば、切り刻まれそうですね♪
ところがアベルさんが余計なことに──大事なことなので繰り返しますが余計なことに、止めてしまいます。
「お前たち。僕の未来の花嫁を傷つけようとしてくれるなよ」
こういう気持ちの悪いのは、まったく気持ちが悪いものですね。
意外です。
すべての肉体と精神へのストレス要因が、わたくしにとっての悦びに変換されるわけではないとは。
「アベルさん。先に言っておきますが、先ほど事務所を破壊したのは、わたくしです」
「いやいや、君のような華奢でか弱い乙女に、あのような力技ができるものか。僕を試そうとしているんだね、サリアさん!」
「いえサーリアです。のばします」
「サーリアさん!」
どう判断したものでしょうね。確かに、わたくしの物理攻撃力カンストは、〈獄神剣〉によるものなので、わたくし自身は『華奢でか弱い』かもしれませんが。
「まぁそれは置いておきましょうか。アベルさん、この先には、ルーク君がいます」
「僕の部下を食らった少年グールだね。残念ながら排除せねばならない」
「いえ、そのことなのです。ルーク君にかかっていたグール因子は、こんどこそわたくしが解除いたしました。先ほどは《プロテクト》がかかっていたので、完全解除できなかったのです。ですから、あなたの部下のかたの死には、わたくしにも責任があります──いずれにせよ、ルーク君は、もう大丈夫です」
厳密には、まだルーク君のグール因子を解除していないのですがね。
忘れてきた──わけではなく、いざとなったら自力で逃げてもらうためです。
アベルさんは首を横に振りまして、
「残念ながら、そうはいかない。リスクはとらない主義でね。ルークという少年は、僕の手で処分させてもらおう」
「そうはさせません。ルーク君を手にかけるよりも、このわたくしを切り刻めばよいのです♪」
とたんアベルさんが吹き出しました。
笑われるのは好きですが。
もっと、こう、嘲笑っていただきたいものです。
いまのは、なんだか可愛いものをみたという笑いかたではありませんか。うーむ。
「僕が君を? なにをバカな。サーリアさん。君のことは、僕が守り抜く。君の雪白の肌には、かすり傷ひとつ負わせるものか」
「……でしたら、仕方ありません」
ぐっと重心を落としまして、〈獄神剣〉に光刃をまとわせ、一閃。
その射程は、30メートル。
技名を、固有アビリティtypeⅢ《痺斬》。
効果は、『光刃で斬った標的に、状態異常スタンを強制付与させる』。
アベルさんの自慢の部下たちが、《痺斬》によるスタン効果で、ばたばたと気絶して倒れていきます。
そんな隊員たちを見回しながら、アベルさんはすっかり血の気が失せた顔で、わたくしを見やります。
「こ、これを君が?」
「はい。わたくしへの恋も冷めましたでしょ?」
これで一石二鳥です。アベルさんからの求婚を終わらせ、かつ敵と判断されたことによる、攻撃が起こるでしょう。
アベルさんは、脳みそはあまり強くはなさそうですが、くさっても聖猟騎士団の隊長の一人。
その戦闘力は、リザードロードさんの比でもないでしょうとはいえ、先ほどのリヌさんも、かなりの使い手のようでしたがね。
アベルさんならば、わたくしをどう痛めつけてくれることか。
どのような趣向で、わたくしの快感中枢を刺激してくれるのか。期待させてくれるというものです。
さぁ、きてくださいアベルさん!
なぜか気を取り直した様子で笑い出すアベルさん。
「なるほど! その隠されていた実力! 君はいよいよ、僕の結婚相手にふさわしい!! だがすまないがサーリア、いまはここで待機していてくれたまえ。僕にはグール狩りという使命が残っている」
変な反応ですね。このかた、さてはバカですね。
「ですからアベルさん。まずは、わたくしを──」
刹那。
わたくしを、スライム状の物質が包み込んでいました。手足を動かしても、このスライムがまとわりついてきます。
拘束プレイですの? それは新しい扉を開きそうな趣向──
ですが、これは、違う、これは、これはぁぁぁぁ。
「緩衝材!!!」
わたくしのそばを通り過ぎながら、アベルさんが優しく言ってきました。
「その《緩衝領域》に入っていれば、安全だ。間違って転んで、膝をすりむける心配さえない。むろん、誰も君を傷つけることなどはできない。無痛の世界だよ、ダーリン」
そして歩いていってしまいました。
…………………………………………これが、放置プレイ?
滋味豊かな味わい、通好みですのね。
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