21,ううううううううううう、あう。
《エンジェルヒール》で、顔の負傷を治癒します。
やれやれ。頭部を原型がなくなるほど破壊してくださいましたリザードロードに比べると、なんともひ弱な暴力です。
どうやら、わたくしの人肉を食らうと、グール因子を治癒されるとでも思っているようですが。
「ぼくを捕まえられるものなら、捕まえてみろよ!」
と、ルーク君が駆けていってしまいます。
追いつけないと分かっていまが、追いかけてみましょう。
ああ、ルーク君がどんどん小さくなっていき、見えなくなってしまいました。
わたくしは肩で息をしながら、それでも必死に走ります。追いつくことなどできないのに、無駄と承知で走る。
地味にぞくぞくしますね。あと、酸欠で倒れるまで走るのも、なかなか良きでした。
『……貴様の、ドMに対する引き出しの多さだけは認めてやろう。それが誇れることだとは思わんが』
と〈獄神剣〉さん。
「……あら、そうです、の?」
『だが、なぜ先ほどルークという第一号患者に殴られているとき、《メディク》で治療しなかった? それが目的だったのではないのか?』
「ですが、わたくしは欲張りでして。ここは一石二鳥を狙ってみようかと思いました」
ひとまず、集合地点である小屋に戻ります。
ボードさんはまだ戻らず、エミリさんだけで先に戻っていました。エミリさんはわたくしに気付くと、とても言いにくそうな様子で、
「あの、サーリア。あんまり、こういうことは言いたくないのだけど。だけど、こういう指摘できるのも、同じ女子だからだと思うのよね」
「はい? なんなりと」
「さっきグールに食べられて、ハラワタとかいろいろと引きずり出されたでしょ? そのあと再生したから、肉体のほうは元通りだと思うのだけれど。えーと、ちょっとアレなのよね。ほら、臓物とか引きずり出されたわけでしょ?」
「ちゃんと言っていただかないと分かりかねますが?」
「えーと。だから、その、あれよ。もう分かるでしょ?」
「いえ、分かりかねます」
「いいえ、分かってるわ。だって、もう物欲しそうな顔をしているもの。あたしがなにを指摘しているのか知っておきながら、あえて言葉として言わせようとしているのね。だけど、言わないわよ。あたしは、その手に乗らないわよ」
「そうですか。では、わたくしはこのまま行動させていただきたく思います。なぜならばエミリさんが言葉をにごしてしまったためです」
「…………分かったわよ。言えばいいんでしょ、言えば。サーリア、あなた、臭うわよ! 臭くてたまらないわよ!!」
ううううううううううう、あう。
エミリさん、好き♡
「……言ったんだから、お風呂に入って、着替えてきてくれる?」
「……仕方ありませんね」
宿に戻って、お風呂に入り、あたらしい服に着替えて戻りますと、ボードさんが仏頂面していました。
「こんなグール騒ぎで大変なときに、のんきに風呂ですかい」
「わたくし、臭ったそうですから。ボードさんは、その点を指摘してくださいませんでしたね。薄情者ですの?」
「あんたを喜ばせるだけだと思ったもんですから。それに優先事項が、グールの第一号患者を探すことなのは確かですからな」
「第一号患者。すなわち、ルーク君でしたら、すでに見つけてありますのよ」
それから先ほど遭遇したことと、物理的に追跡系魔法の《トラッキング》を仕掛けておいたことも話しました。これで解除魔法を使われない限り、《トラッキング》は無効化されません。
「ですが、なぜわざわざいったん逃がすことを?」
「わたくしがルーク君と接触したことを、黒幕も気づいたことでしょう」
エミリさんが得心がいった様子で、
「つまり、黒幕が第一号患者に接触したところをおさえようというわけね!」
ボードさんは懐疑的です。
「そんなにうまくいくもんですかねぇ。それに黒幕が出張ってきたら、《トラッキング》とやらも解除されてしまうんじゃ?」
「ですから念のため、ルーク君には二つの《トラッキング》を仕掛けておきました。ひとつは解除しやすい表面に、もうひとつはもっと見つけにくい深いところに」
「黒幕は、ひとつめの《トラッキング》を解除したところで満足するというわけですね」
さっそく《トラッキング》の位置情報を頼りに移動を開始します。
興味深いことに、城郭都市の中央へと向かっていきます。
これにはボードさんも意外そうでして、
「聖猟騎士団どもがうようよしているのに、どうしてまた、第一号患者のガキは町の中心部になんぞ向かうんでしょうね?」
エミリさんが、ひとつ仮説を述べます。
「黒幕がかくまっている、ということじゃない? ねぇ、もしかしてグール騒ぎを起こしたのは、聖猟騎士団なんじゃない?」
「自作自演? なんのために、そんなことをするんだ?」とボードさん。
「伍番体の隊長、アベルとか言ったっけ? あいつ、サーリアに気がありそうだったじゃない? だからいいところを見せようとして」
「順番があべこべだろ。あの野郎は、グール騒ぎで呼ばれたところ、サーリアさんに出会ったんじゃないか」
「うーん。じゃ、もっと陰謀があるのよ」
黒幕がいるのですから、陰謀はあるでしょう。
しかし、さすがに聖猟騎士団は関与していないでしょうが──ふむ。
「おや、ここは──この建物の中に、ルーク君の反応がありますね」
「だけど、ここって──」
もし良かったら、ブックマークや評価をしていただけると嬉しいです。感想もお待ちしております。ありがとうございました。