20,第一号患者さん。
この小屋を拠点として、第一号患者の探索をはじめましょう。
正体は分かったものの、どこにいるかまでは不明ですので。
「急いだほうがいいわね。聖猟騎士団より先にみつけないと。問答無用で殺されてしまうわよ」
とエミリさん。
「急ぐことには賛成だがよ。手がかりがないんじゃなぁ。誰か探索系のアビリティとかないんかい? おっと、おれは〈ファイター〉だからな肉弾戦専門だぜ」とボードさん。
「あたしだって、〈ランサー〉よ」
こういうとき複数ジョブ持ちの多かった〈牙突の天〉は、簡単で良かったですね。
追跡または探索系アビリティは、〈ハンター〉や〈アーチャー〉のジョブならば持っているものですし、その手のジョブを併用している仲間は多かったものです。
やはり追跡探索アビリティは便利ですからね。
「みなさん。足で探しましょう。歩いて歩いて、見つけ出すのです。たとえ歩きすぎて過労死することになったとしても──そのときは、歩き疲れる苦痛に身をゆだねて、ぞくぞくいたしましょう」
「……サーリアの言うとおりね。いえ、後半の真正マゾ発言ではなくて、前半の『歩いて探す』という点だけれども」
ボードさん頭をかいて、
「てっことは、手分けすんのか?」
「あれ、あれ。おじさん、もしかして一人のときにグールと遭遇するのが怖いの?」
「ば、ばか、んなわけがあるか。だがこの第一号患者を殺せばいい、というものじゃないんだろ? 正体も正体だし」
わたくしはうなずきまして、
「ええ、正体もそうですが──もっと重要なことは第一号患者を汚染治癒せずに殺してしまうと、もうそこから広がったグール因子を一括で治療する手立てがない、ということです──ふむ。エミリさんのおっしゃるとおり、急いだほうがよいですね。聖猟騎士団もそうですが、黒幕がどう動くか分かりません」
「どういうことサーリア?」
「第一号患者を殺すことで、グール汚染を止められぬようにするかもしれません」
人肉を食べられる貴重な経験もしましたし、そろそろ次の町に行きたいものです。
ですので、グール事件を解決するといたしましょう。
「では、お二人とも気をつけてください」
パーティを一時解散。
わたくしたちは手分けして、第一号患者を探すこととなりました。
ですが、どうしても直感として、『彼』はわたくしのもとに来てくださるような気がしていました。
わたくしがすることは、ただ人けのないところを歩いていることです。
狙われやすいように。
ふいに小さな子供にタックルされて、わたくしは倒れました。
「おや、これは──?」
わたくしに伸し掛かって、右肩に噛みつき始めたのは、トーマス君ですね。
一日に二度も人肉を食べていただけるとは、運がいい。
しかし、快感ばかりに浸っているわけにもいきません。
トーマスくんを左手でつかまえますと、そこにこんどはルーク君が現れました。
「おい、トーマス! そのお姉さんから、離れろ!」
ルーク君がトーマス君を引きはがします。わたくしは右肩を《エンジェルヒール》で回復しながら、立ち上がりました。
「あら、ルーク君。意識が戻っているのですか?」
ルーク君は、トーマス君を押さえつけながら、
「お姉さん。こいつなんだ! 弟のトーマスが、第一号患者なんだ!」
名演技でしたので、わたくしはつい微笑んでしまいました。
「いえいえグール第一号患者は、あなたですよ、ルーク君」
「え、なんだって?」
「わたくしたちがはじめて遭遇したとき、あなたはトーマス君をグール化した直後だったのではありませんか? ところがグール化したトーマスくんに、自分が襲われることになった」
ルーク君は冷ややかな表情になりまして、トーマス君を投げ飛ばしました。
「お姉さん、よく気づいたね。お姉さんに《メディク》とかいうのを使われて、しばらくのあいだグール因子が消えちゃったときは、焦ったよ。せっかく、ぼくはこうして、グールに汚染しながらも、自我を保っていられるのにさ。ぼくは、グールに選ばれた」
「いえ、ルーク君。というより、『自分をルーク君だと思っている』あなた。あなたは自我があるわけではありませんよ。そう勘違いしているだけで、その自我は『ルーク君』のものではありません。汚染自我ですからね。いま、治癒してさしあげましょう」
「余計なことをするな!」
こんどはルーク君からタックルをくらい、わたくしは仰向けに倒れました。
まだ年端もいかぬ兄弟に、立て続けに押し倒されるなんて。
これは、背徳感もプラスした気持ちよさですね♪
ルーク君が、小さな拳でわたくしの顔を殴り始めました。
子供ながらも、そのパワーはかなりものです。
「ははっ! グールはSTRも爆発的に上昇するんだぜ! お姉さんの顔をグチャグチャになるまで、殴りつけてあげるよ!!」
わたくしは、そんなルーク君の首をつかみまして、
「その暴力は、12点ですね。リザードロードさんの、爪の垢でも煎じて飲みなさい」
わたくし、生半可な暴力では、もう喜べない身体になってしまいました。
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