19,「自分の肉を食べられながらよがる人、はじめて見たわ………」
わが肉の咀嚼音に甘美な響きを感じつつ、さらに意識がグールに浸食される快感に浸ります。
これは自我を凌辱されるようなもので、こんな体験はいままで味わったことがありません。
グールさん、やりますね。
しかし完全に汚染されると自我が失われるので、それでは気持ちよさも感じられない──
ではなくて、それではグールの第一号患者を見つけ出せません。
かといって状態異常を完全治癒する白魔法の《メディク》を使ってしまうと、こんどはグール因子を消失させてしまい、この快感が失われる──
ではなく、やはりグールの第一号患者を見つけられませんね。
そこで《メディク》の下位魔法の《メディル》を使用します。
この《メディル》の状態異常治癒効果は弱く、このグール因子ならば治すことはできないでしょう。
一方で、自我汚染をこれ以上広げないことはできる。
ちょうど半分グール化しつつ、意識は保てるので、より気持ちがいいことが続く♪
──ではなく、第一号患者を見つけ出す余裕があります。
では、わたくしも使命を全うしましょう。
…………ああああ、わたくしの胃袋を食べるグールさん素敵♪
ではなくて、集中せねばなりません。
集中──ふいに脳内視界が明確となり、一人の人物が姿を現します。
これが、第一号患者???
なるほど。見つけましたよ。
仕方ないので《メディク》を使用して、自我浸食中のグール因子を消滅させるとしましょうか。
ところが、ふいに外部からの妨害を感じ取ります。
黒魔法。
グール化自体は自然発生的ながらも、やはりこの現象を悪用しようという『黒幕』がいるようですね。
この黒幕が、グール因子に治癒妨害魔法の《プロテクト》をかけているようです。
せっかくです、この《プロテクト》を逆探知して、黒幕の正体を暴くとしましょうか。
ところが《トラッキング》を仕掛けると、どうやら向こう側も感じ取ったようで、《プロテクト》が解除されました。
ふむ。まぁ、よいでしょう。追いかけることはできませんでしたが、『黒幕』というタグはつけました。これで当人を見ることがあれば、すぐに『黒幕』と分かります。
愉快犯ならば、この都市内にいるでしょから、町を歩いていたら見つけられるかもしれませんね。
わたくし、どうしてもこの『黒幕』のかたにも、生きたまま自分の肉を食べられる気持ちよさを味わっていただきたいのですわ。
エミリさんたちが心配そうにしているので、《ゴッドヒール》で食べられた箇所を再生いたします。
「わたくしは、無事です。皆さん、ご心配をおかけしました?」
エミリさんは困惑した様子で、
「心配──というか、サーリア。食べられながら、よがっていたわよ。あたし、自分の肉を食べられながらよがる人、はじめて見たわ………」
「あら、お恥ずかしいところをお見せしました」
どうやら性的快感に浸っているプライベートなところを見られてしまったようです。
シカンされていたとは──あぁ想像するだけで、身体が火照ってしまいますね。
「で、どうだったんですかい、サーリアさん?」とボードさん。
「ええ、二つのことがわかりました」
第一号患者の正体と、黒幕に印をつけたことを話しました。
ところでこのとき、わたくしの肉を食らってくださいましたグールさんは、もとの人間に戻っています。
わたくしの《メディク》による効果と、黒幕がこのかたからも《プロテクト》を解除したためですね。
そのかたは、途方にくれた様子ですので、ご自身がグール化していたことを教えました。
そのかたは絶望した様子で頭を抱えます。
「え、そ、そんな、おれがグールに──ああ、どうしよう。誰かを食べてしまったのだろうか? だとしたら、大変なこと──」
「いえ、あなたが食べたのは、このわたくしだけです。ですから、そんな心配しなくて大丈夫ですよ」
「え、あんたを──しかし、食べられた傷は? ああそうか。齧った程度で、すんだんですね?」
「いえいえ、わたくしの人体の半分ほどは食べられましたよ──あ、そういえば、たとえグール状態を解除しても、あなたの胃袋までは変わりません。ですので、あなたの胃袋内では、いまもわたくしの人肉が消化されているはずですよ」
「え、お、おれの腹に、うぁぁぁぁ」
このときはじめて、そのかたは自身の腹部が異様に膨れ上がっていることに気付いたようですね。
わたくしの人肉を何キロも食べたのですから、それはもう胃袋は張り裂けんばかりでしょう。
「ああぁぁぁぁぁあ!!!」
そのかたは頭を振り回し絶叫しながら小屋から飛び出していまきした。
「ふむ、ボードさん。あのかた、なぜ発狂されたのでしょう?」
「………自分の胸に聞いてみたらどうですかい?」
もし良かったら、ブックマークや評価をしていただけると嬉しいです。感想もお待ちしております。ありがとうございました。