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19/42

18,食べられます♪

 


「それで、どうするんですかい?」とボードさん。

「そうね。どうするの?」とエミリさん。


 ボードさんとエミリさんが、わたくしを同時に見返してきました。わたくしが指示だしする流れになっているのでしょうか。

 責任感というのは、美味しいものなのでしょうか? 

 これは様子見していく必要があるでしょう。


「ひとまず、移動しましょう」


 厩には、ルーク君が食べてしまった騎士団員の死体もありますからね。

 と思いきや、さっそくグール化して、上半身だけで蟲のようにはい回りだしました。

 エミリさんが気持ち悪そうに、槍で頭部を潰して殺します。

 

 その後、わたくしたちは厩を出て、人けのない路地裏で作戦会議といきました。


「グールについて確認しておきましょう。グールとは、一般市民はモンスターと同列に扱いますが、根本的に異なります。もとは人間だったものがなるからです。そして噛みつくことによって感染していく」

「そこはゾンビとも似ているわわよね」

「はい。ですがゾンビは自然発生しませんが、グールは自然発生します。ゾンビと同じく《メディク》で治すことができるはずですが──」

「ルーク少年は治癒されていなかったわね」

「はい。わたくしの力不足のようです。そのせいで、ルークくんは、うううう」


 罪悪感が美味しいことは、これで判明しました。

 あぁぁ♪ 治癒した皆さんから集団訴訟でもされて、広場で『この出来損ないの回復担当が死ね』と罵られまくりたい。


「……しかし、わたくし、これだけは確かなことがあります。わたくしは、この地上において、一、二を争う白魔法使いであると」

「大きく出たわね」

「謙遜はとくに美味しくありませんので。ふぅむ」


 プロテクトがかかっていた、としか思えませんね。

 ルーク君の体内にねじ込まれたグール因子に、何者かがプロテクトをかけた。

 そのせいで、わたくしの状態異常治癒魔法の《メディク》が妨げられたのです。

 今回のグール汚染事件には、黒幕がいるのでしょうか。


「それでサーリア。グール汚染の対処法って、あるの? 騎士団みたいに、グールの疑いがあるものを皆殺しにする、みたいな荒っぽいものではなくて」

「はい。『第一号患者』を見つけることです。食人鬼(グール)の汚染が始まった場合、その汚染をはじめた一体目が存在するのです。その一体目を、確実に治療することで、その一体目からはじまったすべての感染したグールが、自動治癒されるわけです」

「グールの第一号患者というのは、どうして生まれるの?」

「原因はいまだに不明ですね。自然発生的なことだけは確かですが、何が原因かまでは。さらにいうと、第一号患者の発見法も明確に確立されていません。これが簡単ならば、聖猟騎士団も手荒な方法はとらないのでしょうが」

「連中は、怪しいものよ」


 ボードさんが頭をかきながら、

「しかし、見つけようがないんじゃ、もう手の内がないってわけですかい」

「──わたくし、グールに食べられますわ」

「サーリアさん。あんた、いまはドMプレイしている場合じゃないですぜ?」


「おじさん。それはサーリアに失礼でしょ。食べられることが状況打破につながるのよ、きっと。そうよね、サーリア?」

「ふむ」

 

 実は、その両方です。世間では、一石二鳥というのです。


 わたくしは自分の肉を食べられる快感に浸りながらも、グール汚染解決の可能性をつかむことができる。あくまで可能性、ですが。


「ひとつ仮説がありまして。これは、かつてあるグール学者が発表した論文によるのですがね。グールに汚染した者は第一号患者が分かる、というものです」


 エミリさんが腕組みしまして、難しい表情で言います。

「つまり、サーリアがグールにわざと噛まれて汚染し、いったんグールになる。そして第一号患者を発見してから、自力で治癒する、ということ?」

「ええ」

「それなら、汚染されるのはおじさんのほうがいいんじゃない?」


 話をふられたボードさんがぎょっとします。

「なんだって、おれが?」

「だってサーリアがグール汚染してしまったら、誰が治癒するのよ? サーリアは自力で治癒できる自信があるようだけど、もしも失敗したら? ね、いざというときを考えたら、サーリア以外がいいのよ」

「なら、お前さんでもいいんじゃないか?」

「あたしは、このパーティ一番のアタッカーよ。二番手のおじさんよりも貴重な人材なのよ」

「なんだと? おれを舐めてもらっちゃ困るな、嬢ちゃん」

「いい加減、『嬢ちゃん』呼びするのはやめてくれる、おじさん?」

「なら、そっちこそ『おじさん』呼びはやめてもらうぞ」


 言い争いが激しくなりそうでしたので、わたくしは言いました。

「これはパーティリーダーであるわたくしの決定です。グール汚染されるのは、わたくしです。さぁ、グールを探してきてください」


 グール汚染がどこまで広がっているのかは不明ですが、三十分ほどで、グールを一体捕獲できました。ルーク君でもトーマス君でもなく、はじめてお会いする男性のグールです。

 捕まえてきたのはボードさんでして、不安そうに言います。


「で、本当にいいんですね、サーリアさん?」

「お願いします」

 

 わたくしたちはいま、町外れの空き家にいました。

 エミリさんとボードさんには外に出てもらい、屋内にはわたくしとグールだけが残ります。

 自由になったグールは、さっそくわたくしに襲いかかってきました。


 わたくしの、柔らかい皮膚を裂き、腹部に顔を突っ込みます。

 そして内臓に噛みつくと、体外へと引きずり出します。

 むしゃむしゃと食べながら。

 いま、わたくしの、肉が、食べられている。ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ♡♡♡♡♡♡♡♡


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