18,食べられます♪
「それで、どうするんですかい?」とボードさん。
「そうね。どうするの?」とエミリさん。
ボードさんとエミリさんが、わたくしを同時に見返してきました。わたくしが指示だしする流れになっているのでしょうか。
責任感というのは、美味しいものなのでしょうか?
これは様子見していく必要があるでしょう。
「ひとまず、移動しましょう」
厩には、ルーク君が食べてしまった騎士団員の死体もありますからね。
と思いきや、さっそくグール化して、上半身だけで蟲のようにはい回りだしました。
エミリさんが気持ち悪そうに、槍で頭部を潰して殺します。
その後、わたくしたちは厩を出て、人けのない路地裏で作戦会議といきました。
「グールについて確認しておきましょう。グールとは、一般市民はモンスターと同列に扱いますが、根本的に異なります。もとは人間だったものがなるからです。そして噛みつくことによって感染していく」
「そこはゾンビとも似ているわわよね」
「はい。ですがゾンビは自然発生しませんが、グールは自然発生します。ゾンビと同じく《メディク》で治すことができるはずですが──」
「ルーク少年は治癒されていなかったわね」
「はい。わたくしの力不足のようです。そのせいで、ルークくんは、うううう」
罪悪感が美味しいことは、これで判明しました。
あぁぁ♪ 治癒した皆さんから集団訴訟でもされて、広場で『この出来損ないの回復担当が死ね』と罵られまくりたい。
「……しかし、わたくし、これだけは確かなことがあります。わたくしは、この地上において、一、二を争う白魔法使いであると」
「大きく出たわね」
「謙遜はとくに美味しくありませんので。ふぅむ」
プロテクトがかかっていた、としか思えませんね。
ルーク君の体内にねじ込まれたグール因子に、何者かがプロテクトをかけた。
そのせいで、わたくしの状態異常治癒魔法の《メディク》が妨げられたのです。
今回のグール汚染事件には、黒幕がいるのでしょうか。
「それでサーリア。グール汚染の対処法って、あるの? 騎士団みたいに、グールの疑いがあるものを皆殺しにする、みたいな荒っぽいものではなくて」
「はい。『第一号患者』を見つけることです。食人鬼の汚染が始まった場合、その汚染をはじめた一体目が存在するのです。その一体目を、確実に治療することで、その一体目からはじまったすべての感染したグールが、自動治癒されるわけです」
「グールの第一号患者というのは、どうして生まれるの?」
「原因はいまだに不明ですね。自然発生的なことだけは確かですが、何が原因かまでは。さらにいうと、第一号患者の発見法も明確に確立されていません。これが簡単ならば、聖猟騎士団も手荒な方法はとらないのでしょうが」
「連中は、怪しいものよ」
ボードさんが頭をかきながら、
「しかし、見つけようがないんじゃ、もう手の内がないってわけですかい」
「──わたくし、グールに食べられますわ」
「サーリアさん。あんた、いまはドMプレイしている場合じゃないですぜ?」
「おじさん。それはサーリアに失礼でしょ。食べられることが状況打破につながるのよ、きっと。そうよね、サーリア?」
「ふむ」
実は、その両方です。世間では、一石二鳥というのです。
わたくしは自分の肉を食べられる快感に浸りながらも、グール汚染解決の可能性をつかむことができる。あくまで可能性、ですが。
「ひとつ仮説がありまして。これは、かつてあるグール学者が発表した論文によるのですがね。グールに汚染した者は第一号患者が分かる、というものです」
エミリさんが腕組みしまして、難しい表情で言います。
「つまり、サーリアがグールにわざと噛まれて汚染し、いったんグールになる。そして第一号患者を発見してから、自力で治癒する、ということ?」
「ええ」
「それなら、汚染されるのはおじさんのほうがいいんじゃない?」
話をふられたボードさんがぎょっとします。
「なんだって、おれが?」
「だってサーリアがグール汚染してしまったら、誰が治癒するのよ? サーリアは自力で治癒できる自信があるようだけど、もしも失敗したら? ね、いざというときを考えたら、サーリア以外がいいのよ」
「なら、お前さんでもいいんじゃないか?」
「あたしは、このパーティ一番のアタッカーよ。二番手のおじさんよりも貴重な人材なのよ」
「なんだと? おれを舐めてもらっちゃ困るな、嬢ちゃん」
「いい加減、『嬢ちゃん』呼びするのはやめてくれる、おじさん?」
「なら、そっちこそ『おじさん』呼びはやめてもらうぞ」
言い争いが激しくなりそうでしたので、わたくしは言いました。
「これはパーティリーダーであるわたくしの決定です。グール汚染されるのは、わたくしです。さぁ、グールを探してきてください」
グール汚染がどこまで広がっているのかは不明ですが、三十分ほどで、グールを一体捕獲できました。ルーク君でもトーマス君でもなく、はじめてお会いする男性のグールです。
捕まえてきたのはボードさんでして、不安そうに言います。
「で、本当にいいんですね、サーリアさん?」
「お願いします」
わたくしたちはいま、町外れの空き家にいました。
エミリさんとボードさんには外に出てもらい、屋内にはわたくしとグールだけが残ります。
自由になったグールは、さっそくわたくしに襲いかかってきました。
わたくしの、柔らかい皮膚を裂き、腹部に顔を突っ込みます。
そして内臓に噛みつくと、体外へと引きずり出します。
むしゃむしゃと食べながら。
いま、わたくしの、肉が、食べられている。ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ♡♡♡♡♡♡♡♡
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