17,昇天したの?
アベルさんは騎士団の仕事があるからと、歩き去りました。
「グール騒ぎを解決したら、あらためてあなたをデートに誘いましょう」
などという、余計な言葉を残して。
わたくしも広場から離れますと、エミリさんとボードさんがついてきました。
「お二人は、わたくしから離れていたほうが良いかもしれませんよ」
「水臭いわよ、サーリア。あなた、ルーク少年を助けようというんでしょ? でもそれだと騎士団を敵に回してしまうから、あたしたちを遠ざけようというんでしょ。でもあたしたちはもうパーティの仲間なんだから、協力するわよ」
「……………………………………………」
「どうしたの、サーリアさん?」
「ええ、そうですね。ルーク君を助けましょう」
「そうこなくっちゃ!」
正直なところ、ルーク君を助ける、という発想はなかったのですが。
グールでもないのにグール疑惑で、首を刎ねられて処刑されてしまう──その悲惨さ、胸糞悪さには、ぞくぞくする気持ち良さがありますものね?
ですが、そういえばルーク君が、わたくしと同じ感性の持ち主かは分かりませんものね。案外、希望に満ちた人生設計という、気持ちの悪いものを計画しているタイプかもしれませんし。
なら、まだ死にたくはないでしょう。
「助けるならば、急いだほうが良いでしょう。ところでボードさんも協力してくださるのですか?」
「え? ああ、おれは、その──ええい、こうなったら、乗りかかった船というやつだ! 最後まで協力しますぜ、サーリアさん!」
ルーク君の処刑は、速やかに行われるでしょう。ですが同時に、市民たちの目には届かないところで。
グールの疑いがある、というだけで処刑されると分かっては、市民たちも大人しくはしていないでしょうからね。
とはいえ、さてどこで行うつもりか。
通りを走っていますと、保安官さんに声をかけられました。
「ルークを助けるつもりだな?」
「察しがいいですのね」
「ならこっちだ。騎士団の奴らは、ルークを公共の厩に連れていった。ついてこい」
「案内してくださいますの?」
「ああ。完全にグール化しちまったならともかく、その疑いがあるというだけで、おれの市民を処刑なんてさせてたまるか」
保安官さんの案内で厩に行きますと、確かに外には見張りの騎士団員が二人います。おそらく厩内には、処刑担当の騎士団員とルーク君がいることでしょう。
「ここは、あたしに任せて!」
エミリさんが飛び出し、
「《ライジングスラスト》!!」
電撃をまとった槍の一撃で、まず一人目の騎士団員を戦闘不能にします。
あぁ、《ライジングスラスト》──頼んだら、わたくしにも使ってくださるでしょうか?
ところで《ライジングスラスト》は威力こそ充分ですが、発動後にフリーズしてしまう弱点がありますね。
つまり敵が複数だと、放ったあとは無防備になってしまうわけです。
かくしてもう一人の騎士団員が、エミリさんに斬りかかります。
「わたくしにお任せください!!」
エミリさんをかばいまして、騎士団員に斬り裂かれます。
肉が裂けるこの痛み──これは何度味わっても飽きることのない気持ちよさです♡
その騎士団員がギョッとしました。
「こ、この女、斬られたというのに──なんて変態な顔をしていやがる」
斬るだけでなく言葉責めまで?
優しいかたですのね。
そんな優しいかたですが、呆然としているところをボードさんの殴打をくらって倒れました。
わたくしは《ゴッドヒール》で、自分の斬傷を回復いたします。
「……まったく、でたらめな人ですな、あんたは」
と、ボードさんに呆れられてしまいましたが。
ふいに厩の中から悲鳴が轟きわたります。
これはルーク君ではないですね。大人の男性の悲鳴です。
厩内に飛び込みますと、処刑担当の騎士団員がグールに襲われているところでした。
そのグールこそが、なんとルーク君です。
エミリさんが叫びます。
「サーリア、これはどういうこと? あなたの《メディク》で、グール汚染は回復したはずじゃなかったの??」
「ふーむ、ありえません。わたくしの《メディク》を逃れて、グール因子が残っていたというのですの?」
わたくしの白魔法が騙された、ということですか?
千年に一人の逸材と言われた、この〈セイント〉であったわたくしの?
これほどの屈辱は──あうううううう。
「サーリア、どうしたの? サーリア?………昇天したの? ねぇ、昇天したなんていわないでよ!!??」
ボードさんが、そっとエミリさんの肩に手を置きまして、
「嬢ちゃん。そっとしておいてやれ。昇天した直後は、なにを言っても頭には入らん。とにかく、おれたちでグール化したガキを取り押さえるぞ」
ですが、グール化したルーク君は、厩の窓から外へ飛びだし逃げてしまいました。
グールとなると、敏捷性もぐんと上がりますからね。
わたくしは、よだれをぬぐいまして。
「想像していたよりも、期待できそうですわね」
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