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16,賞賛する者は、天敵ですもの。

 

 聖猟騎士団は十の連隊に別れており、それぞれに率いる隊長がいらっしゃるそうです。


 残念ながら、わたくを『八つ裂きにしてあげる』と約束してくださった方は、捌番隊の隊長。

 こちらの隊長アベルさんは、伍番隊。今回は不発のようですのね。


「アベルさん、でしたか。わたくしは、すでに回復担当から身を引いたもの。ですが今回ばかりは、グールの治療に《メディク》が必要だというのならば、手を貸しましょう」


 アベルさんが、わたくしをじーと凝視しています。気にいりませんね。その視線には、欠片も軽蔑がない。

 わたくしに蔑みの目を向けてくれないかたとは、お友達になれません。

 それどころか、まさかこれは賞賛の眼差し? 

 なんとも、ゾッとする視線ではありませんか。

 このとき、わたくしは直感的に悟りました。このかたとは、何がなんでも分かり合えることはない、と。

 このかたは、わたくしの『宿敵』となるでしょう。


 そんなアベルさんが、なぜか跪きました。はん?

「おお、僕が探し求めていたのは、あなたのような美しいかただった。いや、まさしく僕は、潜在的にはあなたを求めていたといえるだろう」

「……………はい?」


 理解不能なことですが、アベルさんがわたくしの手をとりまして、

「サーリアさんといったね。どうか、僕の妻になってくれ。僕は、あなたを永久に守るとここに誓おう」

「……」


 吐き気がしてきます。わたくしを一生守るだなんて。

 まったく、これを真の拷問というのでしょう。

 つまり、わたくしの指をちょきちょき切り落とすような、そういう素敵な拷問は、あれは快楽マッサージというもの。

 ところがこのわたくしを永久に守るというのは、そんなことは想像するだけで吐き気がする、まさしく真の拷問。


「拷問なさろうというわけですか」

「ほう。あなたはまた変わった嗜好のかたのようだ。だが、それでこそ僕にふさわしい。僕は隊長格などではおさまらぬ器。そんな僕と一生を添い遂げるには、あなたのようなかたこそが相応しい」

「……面白いアビリティ持ちですのね、あなたは」


 このかたは一見〈ソードナイト〉か〈ロイヤルガード〉に見えますが、もっと特殊なジョブなのかもしれませんね。


「わたくし、あなたと結婚する気などはありませんよ」

「たしかに出会って五秒で結婚を申し込んだのは、少しばかり非常識だったかもしれない。だが僕の心は、君のその清く美しい瞳に射抜かれてしまったんだ。これを運命の出会いと言わずして、なんといおうか」

「わたくしを妻にして、どうなさるおつもりですか? 毎日のように、わたくしの爪を剥いでくれますか? 鞭打ってくださるのですか?」

「とんでもない! 僕の妻になったからには、君にかすり傷ひとつ負わせるものか!」


 やはり、このかたはわたくしの『宿敵』となるであろう方。

 運命とは時に、不可解なことをなさいますね。


「分かり切ったことを言いますが、アベルさん。あなたの結婚のお誘いは、お断りします。断固として」


 アベルさんは立ち上がり、余裕の笑みを浮かべました。

 客観的にいって、美男子であることは認めましょう。しかし、その思考はわたくしにとっては受け入れがたいものなのです。むむむ宿敵…宿敵。


「サーリアさん。あなたにも、少しは考える時間が必要でしょう」

「いえ、考えるもなにも、わたくし、いまお答えしましたよね?」

「サーリアさん。あなたと僕は結ばれる運命だ。そしてあなたは、僕の手で守られる運命なのだ」

「………………………」


 わたくし、他人に殺意をいだいたのは、これが初めてですわ。

 頭の中で、〈獄神剣〉さんが大笑いしています。


『なるほど。これが、貴様の天敵というわけか、サーリア。まさか、こんなところで天敵が誕生するとはな。このアベルという男、興味深い。思い込みが激しく、人の話を聞かず、古臭い価値観の持ち主で、端的にいってバカだが。しかし、この手のバカがいちばん手ごわいのだろうな』

「〈獄神剣〉さん、笑いごとではありませんよ」


 エミリさんとボードさんが困惑した様子ながらも、ひとまずバトルはなしということで、力を抜きました。

 その向こうでは、ルーク君の両親の姿があります。父親のほうは回復こそ成功しましたが、まだ意識は戻っていないようですね。

 そのそばで、母親がすすり泣いています。


「アベルさん。先ほど、あなたの部下が、ルーク君を連れていきましたね。わたくし、ルーク君がグールに感染していないことは保証できます」

 

 アベルさんの表情が変わりました。冷酷な仮面をかぶった、とでもいいましょうか。または、こちらが本性なのかもしれませんが。


「だが、報告ではあの少年は、グールと化した弟に噛まれているそうだ」


 誰かが目撃していましたか。

「わたくしが《メディク》で、グール汚染を治癒してあります」

「だがグール汚染というのは、《メディク》をもってしても完全に治癒できない、という説もある。グールが絶滅しないのも、そのせいだと。だから僕は、念には念をいれておきたい」

「ルーク君にグールの兆候がないか、監禁して観察するおつもりですか?」

「いや、そんな暇はないよ。だから手っ取り早く処分するつもりだ」


 この冷酷さで、わたくしに接してくだされば、結婚のお話も真剣に考えたのですがねぇ。


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