14,知ってる、アヘ顔。
「じゃ、よろしく」
エミリさんがボードさんに右手をのばしました。ボードさんは反射的にその手を握ってから、驚愕されました。
「お、おお? はぁぁぁ? おれもパーティに組み込まれているのかよ?」
「アタッカーは大いにこしたことないもの。おじさん、いちおうは元冒険者で、ジョブ〈ファイター〉でしょ。こんなところで飲んだくれていないで、仕事しなさい」
「……冗談じゃねぇぞ。おれは行かねぇぞ。だいたい、おれの冒険者カードは更新しちゃいねぇんだからな。断る!」
エミリさんは、ボードさんの拒絶を肯定と解釈したようですね。はりきった様子で、
「では、グール狩りにいきましょう! あ、そのまえにギルド支部で、正式にクエスト受注しておかないと。受注せずにグール討伐しても、ギルドで成果として認めてもらえないから。もちろん『正義の味方』であるサーリアさんには、そんなこと眼中にないかもだけど」
「正義の味方?」と白目のボードさん。
「あたしだって、サーリアさんが『ちょっと変』なのは理解しているわ。だけども、『正義の味方』って、少し変なところがあるものでしょ。だって、正義を遂行するのって、きっと常人では理解できないプレッシャーがあるのよ。そのプレッシャーに耐えなきゃならないんだから」
「おいサーリアさんよ。あんた、『正義の味方』認定されているが、否定しないんですかい?」「……………」
わたくし、『正義の味方』と誤解されて、そうして称えられる──実際は違うのに。この良心の呵責……これもまた、美味しいですね♪
ぞくぞくいたしますわ。
「じゅるり」
ボードさんがぞっとした様子で、
「この元聖女、可愛い顔して、ガチでキモい顔していやがるぞ」
「おじさん、サーリアさんに失礼なこと言わないでくれる? たしかにサーリアさん、若い女性がしていい顔ではないけれど、いまは」
「そーいや、《モザイク》という変わった魔法を使う奴が前いたな」
「ちょっと、それだといまのサーリアさんの表情が、モザイクなしで公衆の面前に出してはいけないほど、卑猥なものみたいじゃないの!!」
「……おれたちの会話を聞いているだけで、サーリアさんの表情のヤバい度が増していやがるぞ」
「……あたし知ってる、これアヘ顔っていうやつよ。さすがに、引くわね」
…………このかたたち、わたくし、大好きですわ♡♡♡♡
大好きな人たちと、期間限定ながらパーティを組むことになりました。
エミリさんのすすめで、ギルド支部に行きまして、正式なパーティ登録をすることに。ボードさんは不満たらたらでしたが、付き合ってくださいましたね。
まだまだわたくしを言葉責めしてくれそうです!
ところでパーティ登録は、専用書類にもろもろ書き込んで提出するだけで済みます。
「サーリアさん。パーティ名をどうする?」とエミリさん。
「〈被虐願望〉などは、どうでしょうか?」
「変態臭しかしないパーティ名だけれど、パーティリーダーであるサーリアさんが決めた名前ならば、それでいきましょう」
「……わたくし、リーダーですの?」
「ええ」
とくに拒否権もないようです。あとあと〈牙突の天〉のかたがたが知ったら、気分を悪くされてしまうかもしれません。彼らのパーティを脱退しておきながら、別パーティを組んだあげくリーダーをしているなんて知られたら、それこそ裏切り者と罵られるかもしれません…………
ぞくぞくいたしますね♪
「パーティも正式登録したし……さっそくグール討伐のクエストを受注してきましょう」
と、意気揚々と受注カウンターへ向かったエミリさんですが、すぐに怪訝そうな顔で戻ってきました。
「どうしたんだい、嬢ちゃん?」とボードさん。
「この都市で受注できるクエスト一覧に、なかったのよ。グール関連が」
「だが、グールが発生していたんだろ? そうですよね、サーリアさん?」
「はい。ルークくんの弟のトーマスくんが。残念ながら、逃げてしまいましたが」
わたくしを食べることなく。
なぜ食べていただけなかったのでしょう?
もしや、わたくしの肉は不味いと、グール感覚がそう判断したのでしょうか? だとしたら、わたくし傷つきますわ……
「サーリアさん、またアヘ顔しているんですがね。ちょっと、同行しているおれたちまで変態と思われるんで、やめてもらえますかね?」
「おじさん。そんなことを言ったら、よりサーリアさんを気持ちよくさせるだけじゃないの。そんなことよりサーリアさん。グールの件がクエスト発注されていないのは、どういうことなのかしら? もしかして、保安官のところで情報がとまっているとか? 保安官はどこの町でもギルドと仲が悪いというけれど、情報共有されなければ、クエストも発注されないものね。そういうことなのかしら?」
「いえ、保安官さんの権限で、そんなことはできませんよ。ですが、わたくし──以前にも、こういうことを経験したことがあります。
そのときも、このロウデのような城郭都市ランクの町で、全市民を巻き込むレベルの天災が起きたのです。ただそのときは石化現象でしたが。
今回は、人肉鬼による汚染。この町で封じ込めないと、大変なことになるという」
「だから、冒険者ギルドでグール討伐のクエストを発注しないといけないんじゃないの?」
「いいえ。甚大な被害が推定される場合──彼らが動きます」
「彼ら?」
「そろそろ到着する頃合いでしょう──王国が誇る聖猟騎士団のかたがたが」
「騎士団が出張ってくるの?」
「ここは王都も近いですし、間違いないでしょう──それにしても」
わたくし、聖猟騎士団のとある方に『八つ裂きにしてあげる』と約束していただいた気がします。
なぜ、神はわたくしに、こんなにもご褒美を?
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