12,グールさん。
残念です。
まだお風呂に入る前だったら、ここで保安官のかたに『異臭罪』とかで逮捕していただけたのに。そして通りをひきずられ、町の人々が『臭い女め!』と、石や腐ったトマトを投げてくださったのに。
あぁぁぁぁ、想像するだけでぞくぞくしてしまいます。
それを実際に味わえていたはずなのに……。
なぜ、わたくしはお風呂になど入ってしまったのでしょうか…………悔しい。
『……われは、所有者にめぐまれぬ』と〈獄神剣〉さん。
わたくしは〈獄神剣〉さんのこと、好きですよ?
ルークくんのお母さんから、ルークくんを連れてきたことで感謝されました。
「いえいえ、わたくしは、当然のことをしたまでです」
人に感謝されるというのは、居心地の悪いものですね。早々に退散させていただきます。そのさい保安官が鋭い口調で言ってきました。
「おい、女。名前はなんというんだ? どこから来た?」
「はい? わたくし、サーリアと申します。王都からまいりました。いまは、巡礼中です」
痛みを求める旅は、巡礼といえるでしょう。
「お前がこの町に来てから、グールの目撃情報が多発している。まさか、お前の仕業ではないだろうな?」
「どうでしょう? わたくしのことを拷問して、聞き出します?」
「拷問? いや、そんな荒っぽいことはまだせんが」
「そうですの。残念ですわ」
「……と、とにかく、見張っているからな。不審なことをしたら、拷問も辞さない。覚悟しろ」
「はい、楽しみにしていますわ♪」
不気味なものを見る目で見られました。このかた、好きです。
『貴様、グールの第一号患者として疑われているようだな』
「そのようですね。わたくしは、わたくしが無実なのを誰よりも知っていますが。ですが、わたくしをグールの第一号患者と疑っているのでしたら、捕獲してくださればいいのに。そしてグールなのか人間なのか見極めるため、生きたまま人体解剖するべきでは????」
『…………そんな人権を無視したことは、いまどきしないのではないか?』
「そうですの? 残念ですわね」
『仮に貴様が保安官だったら、どうやってグールを見つけ出す?』
「町のかたがた全員と面会しますね。そして全員に《メディク》をかけます。《メディク》は状態異常を治しますので、仮にグールのかたが紛れていても、《メディク》で治してしまいますので」
『なるほど。なら、いまの保安官に、その方法を申し出てたらどうだ?』
「あのかた、わたくしを信用していませんので。わたくしの協力は受け入れないでしょう」
『確かにな』
他人から信用していただけないなんて──ぞくぞくいたしますね♪
のどが渇きましたので、目についた酒場に入りました。お酒はたしなみませんが、どんな酒場にもノンアルコール飲料が少しは売られているものです。
酒場を見回しますと、カウンター席に見知った顔がありました。
「ボードさんではありませんか!」
ボードさんが、飲んでいたビールを噴き出しました。
「ひぃぃぃ! ま、また、あんたですか! 勘弁してくださいよぉぉぉ!!」
なぜか泣き出すボードさん。周囲のお客さんが、大の男が泣き出したとあって、気持ち悪そうに見ています。
あぁぁ、ボードさん。まわりからキモがられるなんて、素敵。
わたくし、ボードさんに良いことをしてしまいました。
『……このチンケな盗賊に同情しているとはな、このわれが』
わたくしはボードさんのお隣に腰かけまして、オレンジジュースを注文しました。
「ボードさんも、あのあとこちらにいらっしゃったのですね」
「あ、ああ、そうなんですよ。サーリアさん。えーと、じゃあおれはこれで失礼しますぜ」
わたくし、ボードさんに避けられているのでしょうか? わたくし、もしかしてボードさんに嫌われている? ああ、なんということでしょう。人に嫌われるのは、これほど気持ちがいいなんて。
「あぁ」
『あえぐな、変態』
ボードさんは逃げ出すように勘定しています。それを眺めていたところ、これも聞いたことのある声が叫んできました。
「あっ! どうして、あんた、生きているのよ!? サーリア、あなたのことよ! どうして、死んでないのよ!?」
生きていることを否定してくださるなんて──なんてお優しいかた? そうして振り向いてみると、エミリさんです。
〈ガルダ洞窟〉で行動をともにしたときは、ジョブは〈ランサー〉と話していました。そのときは槍はリザードマンに奪われてしまっていたということですが、その後取り戻したのか、または武器屋で購入しなおしたのか、いまは槍を装備されています。
「〈ガルダ洞窟〉以来ですね、エミリさん」
「え、ええ、そうね。だけど、あんたは確かに肉塊となって死んでいたはずなのに! あんた、肉のかたまりなっていたはずじゃないの!」
公衆の面前で、わたくしのことを『肉のかたまりになっていた』と弾劾されるなんて。エミリさんのこと、わたくし、大好きになってしまうではありませんか♡♡♡
わたくしがうっとりと眺めていたところ、エミリさんがぞっとした様子で言いました。
「え、なに? あんた、いまオ×ニーしているような顔しているわよ。なんで、そんな顔で、あたしを見つめてくるの? いや、まって。本気で、キモいんだけど?」
「…………!!!!」
わたくし、エミリさんと同性婚しますわ♪♪♪
もし良かったら、ブックマークや評価をしていただけると嬉しいです。感想もお待ちしております。ありがとうございました。