9,また会いましょうね。
ボードさんが生きていましたね。
手足を切断されて、人肉置き場に放り込まれていましたが。
ほかの人肉は残念ながら命がないようです。わたくしもいまのところ、死者蘇生の《レイズ》は『自分限定』ですので、生き返らせることはできそうにありません。とりあえず、ボードさんに《ゴッドヒール》をかけて、手足を再生いたします。
「ボードさん、しっかりしてください。手足が戻りましたよ」
「あ、あああ、お、おれの右手左手右足左足、おおおおおお、あ、あいつら、刃の錆びたでかい包丁で切断しやがって。すぐに切断してもらえず、とんでもなく痛かったじゃねぇか」
「はい、気持ちよかったのですね♡」
「……サーリアさん、おれはもう、あんたに付き合うのはこりごりだ!」
「はぁ」
ボードさんに同行を願ったのは、洞窟までのはずだったのですが。しかしながら、いまは何かに怒りをぶつけたいご様子。手足切断が気持ちよくないかたもいらっしゃるのですね。それくらい、わたくしも理解しているつもりです。そういう変わり者さんがいらっしゃることくらいは。
その後、まだ気絶しているエミリさんに、二体のリザードロードさんの生首を置いておきます。これで討伐クエスト成功の報酬を受け取ることができるでしょう。
エミリさんのお仲間はすでに殺されてしまったというので、せめて報酬だけでも受け取って、再起のための資金にしてほしいものですね。
「ではボードさん、わたくしたちも──あら?」
ボードさんの姿がありません。どうやら先にお帰りになったようですね。では、わたくしも帰還するとしましょうか。
〈ガルダ洞窟〉から道は二つにわかれています。わたくしが暮らしていた王都に戻るより、ここは新たな町へと赴くべきでしょう。新たな出会い、新たな痛み、新たな苦痛、新たな気持ちよさが待っていることは間違いないのです。
あら? 右手の崩壊現象がとまらず、胴体まで浸食していきます。どうやら常時 《ゴッドヒール》を使っていたことで、ついにMP切れを起こしてしまったようですね。
それによって、〈獄神剣〉の『装備者の肉体を崩壊させる呪い』を中和することができなくなったのです。
あああぁぁぁぁ全身が崩壊していく、この痛み、それを止めることができず、自らが肉塊になるのをただ見ていることしかできない、この悲痛と絶望感。
なんて、気持ちが、いい♡♡♡♡。
──エミリ──
エミリが目覚めると、手元にはリザードロードの生首が転がっていた。
「きゃぁぁ、な、なんなのよ、いったいこれは」
見回すと、リザードロードやリザードマンのバラバラ死体が散乱していた。
「だ、誰が、こんなことを──」
エミリが意識を失っている間に、上級パーティがやってきたのだろうか。このダンジョンの難易度は、推定より何倍も跳ね上がっていた。
リザードロードという上位個体だけではなく、通常個体のリザードマンも、エミリが知っている個体よりも何倍も強かった。
それらのリザードマンの群れを皆殺しにできたということは、よほど腕のたつ者たちのパーティだったに違いない。
仮にソロだったとしたら、それはもうSランクの冒険者ということになる。
「だけど、どうして討伐の証であるリザードロードの頭部を置いていったのかしら?」
エミリは、どうも記憶が曖昧だった。
確か、リザードロードに致命傷を受けたはずなのだが──凄まじい痛みに苦しんだはずなのだが──それとも、すべては夢だったのだろうか。胴体を袈裟斬りにされていたはずなのに、いまはかすり傷ひとつない。
「そういえば、サーリアは?」
やがてエミリは、サーリアの残骸を見つけた。
通路に肉塊が落ちている。
それがサーリアと分かったのは、肉塊自体では見分けがつかないが、まずその肉塊のまわりにある衣服。そしてサーリアが装備していたボロの剣が、落ちているから。
「サーリア……誰が、こんなエグいことを? ひどいわ……」
エミリは、ボロの剣を手に取ろうとした。だが寸前でやめた。サーリアの遺品として持ちかえろうと思ったのだが、サーリアは望んでいないかもしれない。
「サーリア。あなたは風変わりな人だったけれど、嫌いじゃなかったわ。もっと付き合いが長ければ、親友になれたかも。残念ね……」
エミリはリザードロードの生首二つ(かなりの重量)を持って、〈ガルダ洞窟〉を後にしたのだった。
──サーリア──
やがて切れていたMPが満タンに戻りましたので、わたくしは《レイズ》を発動いたしました。わが肉塊が再構築されていき、復活いたします。
〈獄神剣〉を拾い上げまして、また肉体崩壊を《ゴッドヒール》で中和いたします。ところで中和はされていますが、全身への痛みは激しいのですよ。
なんて、甘美なご褒美♡♡♡
「さ、〈獄神剣〉さん、まいましょうか」
『う、うむ……そういえば危ないところだったぞ。エミリとかいう小娘が、危うくわれを取るところだった。触れるだけならセーフだが、すっかり柄を手にとれば、それは[装備]したとカウントされるからな。数秒で、肉体崩壊して死んでおるところだった』
「あら。エミリさん、肉体が崩壊する快感を味わいそこねましたのね。おかわいそうに」『……………………』
エミリさんとは、また近いうちに再会する気がしますね。わたくし、こういう直感はよくあたるのです。
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