4/12
早速日付が飛んだ。単にサボっていた、というわけではない。実は件の占いババァに会いに行ってきたのだ、その折考えることが多すぎて日記に手がつかなくなってしまった。
4/9の夕方、噂通りの時間に橋の下にいくと露店商を見つける。灰色のコンクリートの上に敷いた黄緑色に色褪せたビニールシ-ト。シートに鎮座しているのは紫色のローブを羽織る老婆、その前には並べられてるのは多種にわたるアクセサリー類。
噂通りの光景で想像していたものと殆ど遜色がなかったことに、何故か安心感が沸いてきた。だが予想に反して、すでに先客がいた。
スーツ姿の小太りな中年だ。彼は「話と違うじゃないかッ!!」と老婆に文句を浴びせていた。穏やかな雰囲気ではないために、物陰から事態を静観することにした。
話に聞き耳を立てているとどうやら先日に腕輪を買ったお客のようだ。効能は「金回りがよくなる腕輪」。そんなものはどこにでもある眉唾物だが、中年は本気で信じていたようだ。
フードを深く被る胡散臭い老婆は異質に見える。だがそれ以上に、その眉唾を本気で信じている様子の中年はかなり異質に見えた。
たらたらと文句、というよりは罵声になってきた中年に老婆は袖口から伸びる細腕をかざした。
「お客さん、後が使えておりますので。」
老婆の嗄れ声が聞こえなる頃合いで、中年はまるでいなかったように消えた。
目を疑った。そこにいたはずの中年は、痕跡を残さずいなくなった。あまりの出来事に腰の力が抜けて尻餅をついてしまった。
泡を食っていた老婆、何処を見るでもなく独り言みたいに声を出す。
「煩くして申し訳ありません、斉藤様。お待ちしておりました。どうぞこちらへ。」
名前は名乗っていない。老婆の前にすら出ていない。なのに存在そのものを操っているみたいな、掌握されているような感覚に襲われる。そして後から波を打つようにだんだんと、恐怖心が僕の中で膨らんで、破裂する前にその場から逃げ出した。
家路につき、何度も背後を確認しながら走った。玄関を潜り布団に逃げ込んだ。
暖かな暗闇の中で息が切れて、心臓の音がうるさい。これが走ってきたせいなのか、恐怖心からくるのか、わからないまま朝を迎えてしまった。
ここ最近はどうしても眠れない。あの老婆に見張られている気がしてどうしても落ち着かない。明日は休みにして、しばらくは静養するつもりだ。