事実は小説より奇なり
ミシェルは体躯に全く合っていない椅子に不信感を募らせていた。身長180はあろう巨大な体の重量に、椅子は悲鳴を甲高く上げている。その音がなる度に怪訝そうな顔を浮かべていた。
「…こう、椅子が小さいと落ち着くことすらできん。」
「まぁまぁさっさと終わらせるから、そんな顔するな。」
不満げな表情をするミシェルの肩を叩いて、田中はキーボードを叩く。
画面にはネットニュースが表示される。少し大きな見出し分には「超能力なのか!?ヒーロー、大阪を救う!!」と大々的に書かれており、建物が破壊され黒煙を上げる街並みが写真で掲載されている。田中は背もたれに寄りかかって淡々と言葉を吐いていく。
「これは昨日朝刊として掲載されたネットニュース。騒動の首謀者は斉藤 辰義とカルト教団団員27名、そしてその教祖カマラ。斉藤の方は35歳。しがない契約社員であと2ヶ月で正社員となる所だった。」
仕事モードに入った田中は業務的な態度で説明を続ける。雰囲気が変わった事を察知したミシェルも、巨腕を交差させて腕組みし寡黙に聞き入った。
「カルト教団セブンス アイテムについては後で詳しく聞きたい。取り敢えず現状の説明だけする。まず聞きたいのはブラッドオレンジ事件を担当した当局の課員は君で間違いないな。」
ミシェルは黙って頷いた。大した動きではないのに椅子が悲鳴をあげる。
「よし。では今回の件に関しての説明義務は君と、上長にある。」
「それは了承している。」
「ではこれから事件の経緯をこちらで調べた限りを話す。それについて君が捕捉説明を」
「…いやまて、何を聞きたいんだ。報告書は課長に提出しているはずだが。」
切れ長の目がさらに鋭くなり、睨みをきかしている。だが田中は動揺する事もなく、淡々と同じ調子で語り口を続ける。
「君の報告書とこちらの調査でのすり合わせは済んでいる。簡単に言えば"合わない"。複合させて結果を見ると印象が全く違う。」
「私の言い分はない。嘘をついていないのでな。」
「わかっている。だがこうなってはおとがめなしとはいかない。異能局がだした結果に対してのリザルトが事実は小説より奇なりとはいかない。納得いくまで付き合ってもらうぞミシェル。」
視線が交差する。鋭い眼光に対抗するように、山のような意思を返す田中。見に見えない火花が音を立てていた。
一旦の静寂を田中のタイピングが破る。
ウィンドウが新たに開くと、今度は日付と文字の羅列が現れた。
一瞥の後にミシェルは重い口を開いた。
「斉藤の日記か。」
「そうだ。彼は実家を離れ、仕事のために大阪にやってきた。一人暮らしを始めた彼の軌跡を追うにはこれ以外にない資料だ。まず4/6日からだ。」