蕃国の王子
圭太がライナーと決闘をしていた頃、王城では騎士団師団長のエドワードが誕生祭に参加するウステム蕃国王子の到着を待っていた。
すでに獣王国の特使は予定通りの時間に到着しており、国王への謁見後に騎士団本部にて交流と言う名の合同訓練を楽しんでいる。と言うのも、獣王国の特使は現獣王の弟であり、獣王国が誇る獣王戦士団の指南役として有名で、特使自身も一騎当千の戦士として戦場を駆け、「闘神獣」と言う二つ名で呼ばれるほどの強者だ!なので、国王自らが特使に合同訓練を提案し、特使は喜んで承諾した。
おそらく今頃、騎士団本部の訓練所では特使による地獄の訓練により、騎士や兵士達の屍によって地獄絵図となっているだろう……
南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏
ちなみに「剣聖」であるエドワードも誘われたが、未だに蕃国の王子が到着していないため丁重に断った。
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ソラリア城の正門で、エドワードは備え付けられている時計を見ながら溜め息を吐く。
「はぁ、それにしても遅いなぁ?事前に聞いている時間から、もう既に2時間は経ってるんだけど何も連絡が無いっておかしいよね?」
エドワードは斜め後ろに立っている副団長にそう言って、副団長からの返答を待つ。
「確かに団長のおっしゃる通りですね。蕃国からの連絡が最後に来たのは昨日ですし、もしかすると何か問題が起こった可能性もあるかもしれませんね」
「やっぱりそう思うよね。うーん、国王陛下に話すべきか、このまま待つべきか……どうしようかなぁ〜」
エドワードが悩んでいると兵士が走ってきて、エドワードの前で片膝をつき
「報告します!ウステム蕃国の王子一行がご到着致しました!」
「ご苦労様!よし、すぐに準備しろ!!」
エドワードの合図と共に騎士団員達が両脇に並び立ち剣を抜く。
やがてウステム蕃国の紋章をつけた馬車が正門へと近づくと、エドワードはよく通る声で
「総員、捧げ!!」
エドワードの合図と共に、騎士達が剣を胸の前に掲げる。すると、馬車が止まり中から西端な顔立ちをした白髪の男性が出てきた。
「出迎え感謝する。私はウステム蕃国第一王子にして、内務大臣を務めるバルバート・ファン・ウステムだ。この度は遅れて申し訳ない」
バルバートが名乗り終わると今度はエドワードが
「ようこそおいで下さいましたバルバート王子。私はソラリア王国騎士団師団長『剣聖』エドワード・アル・エディアスと申します」
するとバルバートはエドワードを見て
「ふむ、其方がかの有名な『剣聖』殿か!お会い出来て嬉しく思うぞ!」
「?!!」
と、にこやかな笑顔を浮かべながら右手を出して握手を求める。エドワードは一瞬躊躇いながらもすぐに笑顔を繕いながら
「ありがとうございます。それでは我が王の下にご案内致します。こちらへどうぞバルバート王子」
「了解した」
と言って手を取り握手をした後、エドワードは適当な理由を付けて副団長にバルバートを謁見の間へと案内させる。
正門に残ったエドワードは一人で考え事をしていた。まさかバルバートがこんなにフレンドリーに接してくるとは思っていなかったので、少し拍子抜けしたと同時に、エドワードの中でバルバートに対して警戒心が生まれていた。
実はバルバートには、一般的には知られていない二つ名が存在している。
その二つ名とは「影宰」
バルバートはその卓越した頭脳と手段を選ばない非情さを活かして、蕃国内の裏側を掌握し、反乱分子や敵国の間者を始末しているとの事だ。そのお陰で蕃国では、バルバートが内務大臣に任命されてから一度として蕃国が戦争に負けた事は無いし、反乱や内乱が起こった事は無い。その功績から次の王は間違いなくバルバートと言われる一方、一部の勢力からは危険視されているとか……
だが、今回エドワードがバルバートを警戒した理由は違う。何故エドワードが警戒したのか?
その理由はと言うと……
(さっき握手を求めて来た時、バルバート王子から変なプレッシャーを感じたんだよなぁ?それに、なんだか懐かしいと言うか、引っかかるような魔力も感じた気が……うーん、考えすぎかなぁ?)
そう、先程バルバートが握手の為に手を差し出して来た時に、エドワードの本能がバルバートに対して何か感じ取ったのだ。
それは「剣聖」の力なのか?それともエドワード自身の直感なのか?その答えが分かるのはもう少し先の話……
(ダメだね、全然分かんないや!こう言う時はケイタに相談しよーとっ!!)
エドワードはしばらく考えた後、結局自分では答えを出す事が出来ないと悟り、自分が一番信用している親友に相談する事にしたのだった。
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深夜
王城のとある一室にて、二人の男が秘密の会談をしていた。
上座の席に座っているのはまるで着物のような服を着て、ニッコリと笑みを浮かべている男。その男の横には黄金色をした鞘に入った刀が後生大事に立てかけられている。
男は目の前にあるグラスを手に取り、中に入っている酒を一気に煽ると顎に手を当てながら話し出す。
「いやはや、それにしても予定より到着が遅くて心配しましたよねぇ〜本当。いざ決行前になって、そちらさんがビビって逃げ出したんかと思いましたよねぇ〜」
すると、下座に座る白髪の男が頭に手を置きながら
「いや〜申し訳ない。くる途中にコイツが暴れてしまって、押さえつけるのに時間がかかってしまいまして」
そう言って白髪の男はテーブルに置いてある箱を叩く。
着物の男はその箱を一瞥すると笑みを止めて、先程とは打って変わった真面目な声色で
「それが蕃国で代々封印されて来た“特級呪具”[怨霊箱]か。こうして厳重に封印されていても感じる魔力は流石と言うべきだろうねぇ〜」
「ええ。道中、一度封印が解けかけてしまい焦りましたよ!なにせ全5層の封印のうち、1層が解けかけただけで連れてきた選りすぐりの部下の一人が死んでしまったのですから」
「ほーう、それはそれはご愁傷様ですねぇ〜。まぁ、魔界にいる高位魔族と繋がる事が出来る呪具なら仕方ないよねぇ〜」
「そうですね……それで、決行はいつ?」
白髪の男が質問すると、着物の男は懐から紙を取り出すと、テーブルに置きながら
「決行は2日後にある晩餐会。タイミングはうちの馬鹿皇子が国王に挨拶する時だねぇ〜。それから、[怨霊箱]を仕掛ける場所はこの紙に書いてあるからよろしくねぇ〜」
と言って立ち上がる。
白髪の男はテーブルに置かれた紙を懐にしまうと立ち上がり
「かしこまりました。無事、今回の計画が成功した暁にはくれぐれもよろしくお願いします……ムサシ殿」
と言って握手を求める。ムサシはその手を掴みながら
「ええ、こちらこそよろしくお願いしますねぇ〜。今回の計画には皇帝陛下も期待していますからねぇ〜。もし失敗したら……分かっていますよねぇ〜バルバート王子殿?」
と、笑みを浮かべながら脅しをかける。
バルバートは恐怖で顔を引き攣らせながらも胸に手を置いて
「お任せください」
「よろしくねぇ〜!あっ!後、『剣聖』とその友人には気をつけてねぇ〜。自分の勘が当たっていれば、間違いなく邪魔をしてくるだろうからねぇ〜」
そう告げると部屋を出ていった。
部屋に残った白髪の王子は酒を一気に煽りながら小声で
「クソ、帝国の犬がどこまでも舐めやがって」
と呟き、さらに酒飲み続けた。




