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第4話 英会話・前編

「英単語死ねぇっ!」



 英単語テスト。それはどの学校の英語の授業でも行われる、日本人が英語を嫌いになる要因である。



 授業初めに行われ、三割以下で放課後の追試。あるいは宿題を課せられるという非常にめんどくさい週三で行われるイベントである。



 そのどうしようもない壁に、入学して間もない聖来も苦しんでいた。



「聖来ちゃん、死ねって言っちゃだめだよ」

「殺す……」

「それもだめ」



 錫音に窘められるが、聖来の怒りは収まらない。聖来からしてみれば、だいぶ抑えてこれ。本来なら英語教師の死を望んでいるが、それを口にするのはあまりにあれなので必死に我慢しているのである。



「くうぅ……」



 愚痴っていても仕方ないので、聖来は机の上の単語帳に目を落とす。本来生徒会室は仕事以外の行為以外は認められていないが、生徒会長である傑の意向により特別に認められている。



 そう。ここには傑がいるのである。学年一位の、傑が。



(効率のいい勉強法を教えてほしい……。でもこの前のデートのせいでざまぁポイントがだいぶ溜まってきてる。これ以上増やすのは避けたい。……でも意地はって追試になるよりかは……くそ! あの野郎ニヤニヤしてこっち見てやがりますっ!)



 だが背に腹は、代えられない。



「あのー、先輩……」

「どうした。俺は優しいからな。しっかりと、礼儀を尽くして、教えを請えば。ちゃんと答えてやるぞ」

「ぐぅぅ……!」



 単語帳を手に傑に教えを請おうとした聖来だったが、偉そうな態度に怒りが込み上げてくる。だがここはもう、仕方ない。



「勉強を……教えてください」

「なんで?」


「ぐっ……! 私が……馬鹿だから……」

「そうだな。お前が馬鹿だから、頭のいい俺が教えてやるんだ。ほら、ちゃんと一から言ってみろ」


「私が……馬鹿で……! どうしようもないので……! 勉強を教えてくださいっ!」



『ざまぁポイント+1』



「仕方ない。教えてやるとしよう」

「ぐっ、ぅっ、うぅ……!」



 悔しさで目から血が噴き出そうだが、ここは堪えて素直に聞くことにする。



「いいか? こういうのは英単語だけを覚えようとするから駄目なんだ。ページに載っている英単語を全て使った英文を自力で作る。考えることで脳が働き、自然と頭の中に残る。さらに単語だけでなく、文法も勉強できるんだ。一石二鳥のいい勉強法だろ? 俺はそうやって覚えてる」



 ドヤ顔で語る傑に、黙って話を聞いていた聖来は、叫ぶ。



「ばかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「はぁっ!?」



 なぜ怒ったか理解できない傑に、聖来の反論が迫る。



「こっちは楽して単語を覚えたいって言ってるんですよ! 難しくしてどうすんですか!」

「いやこれが一番効率いいんだって……」


「じゃあなんですか!? 先輩はお腹が空いた人に魚を与えるんじゃなく釣り方を教えるんですかっ!? いいから黙って肉をよこせばいいんですよっ!」

「えぇ……」

「略奪者かな?」



 勉強に対する意識の差。それが如実に現れる。



 傑にとっての勉強は、暇つぶし。無趣味人間ゆえ興じていた、もはや趣味である。



 一方聖来は、多くの高校生と同じ。できることならやりたくないもの。頭がよくなるとかはどうでもよく、ただ最低限こなせられればそれでいいのだ。



「こんなんだったら先輩に聞くんじゃなかった……。さっきのざまぁポイントはなしです」



『ざまぁポイント-1』



「それアリ!?」

「アリです。錫音先輩、この頭の固い馬鹿は話にならないです。勉強を教えてください」

「馬鹿っ……!?」



『ざまぁポイント+1』



「ちょっと待ってくれ……。錫音さんに勉強のことを聞くな……!」

「は? なんですか嫉妬ですか。私にマウントとれなくて残念でしたね」

「ちがっ……そうじゃないんだ……!」



 馬鹿と言われたことでざまぁポイントを得てしまいながらも、必死に聖来を止めようとする傑。だが聖来は侮蔑の視線を送るばかりで、全く話を聞こうとしない。



「さぁ、錫音先輩。生徒会に入ってるくらいだから頭いいですよね。こんな真面目馬鹿よりもわかりやすい解説を期待してますよ」

「なんでえらそうなの……?」



 困惑しながらも、単語帳を受け取る錫音。だがその表情が次第に暗くなっていくことに聖来は気づいた。



「どうしました? 3年生なんだから1年の単語くらいわかりますよね」

「いや……実は……わたし……。その……なんていうか……」


「錫音さん! 無理しなくていいです! LMNの順番がいまだにわからない錫音さんが高校生の英語なんてできるわけないじゃないですかっ!」

「なんでばらしちゃうかなぁっ!?」



『ざまぁポイント+1』



 心配するあまり暴露してしまう傑と、恥ずかしさにざまぁポイントを獲得してしまう錫音。そして聖来は、言葉の意味がわからず目を回していた。



「えっと……アルファベット……言えない……?」

「だってわたし日本人だもん……!」

「うわぁ……」



 明らかにそのありきたりな言い訳をするには早すぎる躓きっぷりに、聖来は素でドン引きするしかない。



「なんでこんな人と同じ学校いるの……?」

「錫音さんを悪く言うな! お前と違ってな、錫音さんは本気で勉強してこれなんだよ! お前みたいなやればできる奴と違って、錫音さんはやってもできない人なんだよっ!」

「これ以上言わないでぇ……!」



『ざまぁポイント+1』



 偏差値73と42と28で形成されているのが和治学園生徒会。私立高校ならではの特待生制度と推薦入学制度が生んだ弊害である。



「今日で生徒会の英語力の低さが露呈したわけだが……」



 一通り罵り終わった後、全員が席に着いた段階で傑は口にする。



「生徒の代表たる生徒会がこの有様では困るわけだ」

「まぁ……確かに」

「毎日3時間以上勉強してるのにぃ……」



 手を組んで俯く傑と、気まずそうに目を逸らす聖来に、涙目で声を漏らす錫音。そんな中、傑は一つの提案をする。



「そこで明日一日中、生徒会は英語以外禁止にする!」

「はぁっ!? 何もそこまでしなくても……!」


「英語を習得するのに一番効果的なのは、アメリカ人の恋人を作ること。つまり必然的に英語しか話せない状況を作れば、自然と英語力が上がるんだ」

「恋人……ですか。まるで誰かのことが好きみたいな発言ですねぇ」



『ざまぁポイント+1』



「とに、かくだ!」



 こうなった以上、傑は止まらない。生徒会役員の学力を上げるために。



「明日一日辛い思いをしたくなかったら、必死に英語を覚えてこい!」

「「ぶーーー!」」



 聖来と錫音のブーイングが轟く中、イングリッシュオンリータイムの開催が決定された。


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